EP 8
『第五局、プロ棋士・加藤清麿』
十二月初旬の千駄ヶ谷は、肌を刺すような冬の冷気に包まれていた。
鳩森八幡宮の境内にそびえる大銀杏はすべての葉を落とし、灰色の冬空に向かって鋭い枝先を無数に伸ばしている。
吐き出す息は白く濁り、舗道を踏みしめる靴底から冷たさが這い上がってくる。
だが、日本将棋会館の正面玄関を取り巻く空気は、真冬の寒さを完全に焼き尽くすほどの熱狂に包まれていた。
テレビ局の大型中継車が何台も歩道に並び、幾重もの人垣を作った報道陣が、白い息を吐きながらカメラのレンズを玄関へと向けている。
プロ棋士編入試験五番勝負、最終第五局。
第一局で宮坂四段を破り、第二局で蓮沼四段に泥沼へ引きずり込まれて完敗。
第三局で北条四段の鉄壁を突き破り、王手をかけた第四局では、高杉四段の執念の猛反撃に屈して逆転負け。
二勝二敗。
五番勝負は、これ以上ない極限のフルセット、正真正銘の最終決戦へと突入していた。
勝てば、プロ四段への編入が決定し、三段リーグ退会から四年を経て奇跡のプロ棋士が誕生する。
負ければ、その瞬間に不合格となり、すべてが水泡に帰して元の無職アマチュアへと逆戻りする。
天国と地獄を分かつ、最後の一局。
ネットの将棋ポータルサイトには早朝から特設ページが開設され、掲示板の実況スレッドは開始前から凄まじい速度で書き込みが殺到していた。
『ついに運命の最終局きたあああ!』
『2勝2敗のサドンデス、どっちが勝ってもおかしくない』
『相手の相良四段は直近の三段リーグを1位で抜けた本物の怪物だぞ』
『加藤アマ、第4局の逆転負けを引きずってなきゃいいが……』
『頼むから勝ってくれ加藤! 俺たちの夢を叶えてくれ!!』
「……ちょっと。朝から玄関で靴べらを両手で握りしめて、何のお祈りをしてんのよ、雑魚先祖」
今朝、アパートを出る直前の六畳間での光景が、清麿の脳裏に鮮やかに蘇る。
和令がちゃぶ台の横で腕を組み、いつものように冷ややかなジト目を突き刺してきたのだ。
『お祈りじゃない。……靴紐を結び直してたんだよ』
『嘘おっしゃい。心拍数が平常時の四割増しで、喉仏がカエルみたいにピクピク波打ってたわよ』
『波打ってない! 少しは緊張もするだろ、今日ですべてが決まるんだぞ』
『今日決まるんじゃないわよ! 今日、あんたが決めるのよ!』
『……言葉の綾だろ』
『綾じゃないわ! 覚悟の差よ! ほら、朝ごはん! 五分で胃袋にかき込みなさい!』
ちゃぶ台の上にドンと置かれた大ぶりの丼を見て、清麿は息を呑んだ。
湯気を立ち上らせる、黄金色の親子丼。
ふわりと半熟に固まった卵の上に、出汁を吸ってツヤツヤと輝く鶏肉が惜しげもなく散りばめられ、三つ葉の青が鮮やかに添えられていた。
『……おい、和令。これ……卵を何個使ったんだ?』
『三個よ! 一個二十円の超高級資源を、一気に三個も投入してやったわ! 炭素系生命体の最高峰のタンパク質よ!』
『三個も!? 機密金庫から出しちゃって大丈夫なのかよ!?』
『今日勝てばプロなんだから、出し惜しみしてる場合じゃないでしょ! 私の三百年分の借金を消し去るための、最後の全力投資よ!』
『全力投資ね……。でも、もし負けたらどうなるんだ?』
『負けたらこの親子丼代、三百年分の複利計算で年利一万パーセントの利息をつけて請求するからね!』
『やっぱり利息が国家破滅レベルじゃないか! ……でも、ありがとう。美味そうだ』
『ふん! 感謝するなら味わってないで、素早く前頭葉にブドウ糖を送り込みなさい!』
熱々の親子丼を一気にかき込んだ時、出汁の甘みと卵の濃厚な旨みが、冷え切っていた五臓六腑を芯から熱く滾らせてくれたのを覚えている。
そして、アパートを出る直前、和令に背中をバチンと力任せに叩かれたあの手のひらの痛快な衝撃が、今も清麿の背筋を真っ直ぐに支えていた。
午前九時四十分。
日本将棋会館・四階、特別対局室。
青畳の上に張り詰める空気は、息をするだけで肺が凍りつくほど冷涼だった。
上座には、すでに本日の対戦相手が静座していた。
相良恭平四段、二十歳。
半年前の三段リーグを十五勝三敗という圧倒的な成績でトップ通過し、プロ入り直後から破竹の勢いで白星を重ねている、現代将棋界きっての超新星である。
仕立ての真新しい黒のスーツ。彫りの深い顔立ちに、射抜くような涼やかな瞳。
第一局の宮坂のような焦りも、第二局の蓮沼のような狂気も、第四局の高杉のような剥き出しの敵意もない。
ただ、自らの才能と積み上げてきた研究に対する絶対の自負だけを静かに纏い、深海のように静まり返っていた。
新四段側の最後の砦。プロ棋界の威信を双肩に背負った若武者の気迫は、座っているだけで部屋の空気を圧迫するほど重厚だった。
清麿が下座に進み、座布団の上に正座して深々と頭を下げる。
「加藤さんですね」
相良の声は澄み渡り、若々しい知性を響かせた。
「あなたの将棋、第一局から第四局まで、一手残らず拝見しました。……実に美しく、そして恐ろしい構想の数々でしたよ」
「恐縮です」
「世間は、あなたを『奇跡のアマチュア』と呼び、今日の昇段を期待している。……ですが、ここは千駄ヶ谷です。どれほど特異な新手を携えてこようと、現代のプロの最高峰が導き出す最善の深さを超えることはできない。私のすべての力をもって、あなたの挑戦を押し返します」
一切の驕りを排した、正真正銘の宣戦布告。
清麿の背筋が、ピシリと伸びた。
(望むところだ、相良四段)
清麿は静かに目を閉じ、深く息を吐き出した。
(四年前、俺が逃げ出したあの三段リーグを、トップで駆け抜けてきたお前だからこそ……俺は、すべてを懸けてお前を超えなきゃいけないんだ)
「よろしくお願いいたします」
深々と礼を交わし、駒箱の蓋が開けられた。
「定刻となりました。加藤清麿アマチュア、プロ棋士編入試験五番勝負・第五局を開始してください」
記録係の張り詰めた声が室内に凛と響き渡る。
運命の振り駒の結果、清麿の先手番と決まった。
清麿は指先に全神経を集中させ、初手を放った。
――バシィッ!
▲7六歩。
相良もコンマ一秒の躊躇なく応じる。
――パシッ。
△3四歩。
局面は、現代将棋の王道にして最高峰の激戦区――『角換わり』へと進展していった。
序盤の二十手、相良の手つきには迷いが微塵もなかった。
最新の将棋AIのディープラーニングデータを極限まで頭脳に叩き込み、清麿がこれまでの公式戦で見せてきた序盤の変則的な新手や時限爆弾の筋を、あらかじめ自陣の金銀の手厚い連携によって完璧に無力化していく。
清麿の頭の中にある『完全定跡アーカイブ』が、青白い光となって脳裏に立ち上がる。
だが、相良は三百年後の未来が示す最善手に対しても、現代の最先端の知性を寸分の狂いもなくぶつけてきた。
三十手、四十手。
対局室に響くのは、規則正しい乾いた駒音だけだった。
息の詰まるような、互角の押し合い。
午後を回り、二階の控室。
大型モニターを取り囲む棋士たちと、記者の神崎澪の間で、息を呑むような会話が交わされていた。
「……凄まじい緊迫感ですね」
解説の若手棋士が、青ざめた顔でモニターを見つめる。
「相良四段、完璧です。加藤アマの未来的なトラップに一切引っかからず、堂々たる正攻法で局面を互角に保ち続けている。AIの評価値も五十一対四十九、完全に互角のまま終盤戦へ突入するぞ」
「ええ……」
神崎澪は手帳のペンを強く握りしめ、画面の中の清麿の表情を凝視していた。
「持ち時間は両者ともに残り十分を切りました。ここからは、事前の研究もAIの知識も関係ない……生身の人間の読みと、極限状態での胆力だけの勝負になります」
ネット中継のコメント欄も、息の止まるような緊張で埋め尽くされていた。
『百手超えて完全に互角!』
『相良四段の落ち着きが二十歳とは思えない』
『加藤アマ、一手一分に入ったぞ!』
『頼む、ここを乗り越えてくれ……! プロになってくれ加藤!!』
「――三十秒……四十秒……五十秒」
記録係の冷徹な秒読みが、対局室の静寂を無慈悲に切り裂く。
百十手を迎えた局面。
相良四段が、右手を鋭く振り下ろした!
――ズドォォォンッ!!
本榧の盤が悲鳴を上げるような重い駒音。
相良が放ったのは、自陣の銀を清麿の玉陣の急所へ叩き込む、乾坤一擲の勝負手だった!
スーツの襟元を正し、相良の双眸が青白い炎のようにぎらつく。
(受かるものなら受けてみてください、加藤さん! これが、三段リーグを勝ち抜いてきたプロの踏み込みです!)
凄まじい気迫。
銀を取れば、相良の飛車が清麿の玉の退路を撃ち抜く。逃げれば、銀が成り込んで清麿の陣形は一瞬で崩壊する。
「十秒……二十秒……三十秒……」
秒読みが迫る中、清麿の視界がチカチカと白く明滅しかけた。
頭がカッカと熱い。心臓が肋骨を突き破らんばかりに暴れている。
脳裏に、前回の第四局の悪夢が、黒い濁流となって蘇りかける。
あの七十手目。
プロになりたいという欲に目が眩み、安全そうな受けを選んで逆転された、あの痛恨の記憶。
そして――四年前、年齢制限で三段リーグを去った最終局で、恐怖に怯えて縮こまり、自滅していったあの暗黒。
(また……なのか? ここで自陣を手堅く受けて、相手の攻めを切らすべきなのか……?)
安全への誘惑が、耳元で悪魔のように囁きかけてくる。
受けておけば、即死は免れるかもしれない。だが、主導権を相手に明け渡し、じわじわと息の根を止められる恐怖。
『――何日和ってんのよ、雑魚先祖ッッ!!!!』
鼓膜の奥で、カッと雷鳴のような怒号が炸裂した。
あの日の六畳間。涙を流しながら、互いの弱さをぶつけ合った和令の声だ。
『安全な道なんて、最初からどこにもないのよ! 未来に答えがないなら、今ここで作ればいいでしょ!!』
そして、師匠・榊原九段の言葉が、胸の奥底で炎となって燃え盛る。
『二度と盤の前から逃げるな。どんな暗闇に追い込まれようと、お前自身の魂の一手を指し切れ!』
――ハッと、息を呑んだ。
視界を覆っていた恐怖の霧が、音を立てて吹き飛んでいく。
(そうだ……! 俺はもう、逃げないと決めたんだ!)
清麿は目を見開いた。
濁りのない、透き通った瞳が、盤上の四十枚の駒を捉える。
相良の銀の打ち込み。確かに鋭い。
だが――相良が攻めに全神経を傾けたその瞬間、自陣の玉を守る右側の金と、端の香車の連携に、わずか「一マス」の隙間が生まれている!
未来の定跡アーカイブには、この局面の答えは載っていない。
だが、生身の勝負師の直感が、その暗闇の奥に、眩い一本の光の道を見出していた!
(受けるんじゃない……。ここへ、踏み込む!!)
「四十秒……五十秒……一、二、三……!」
記録係が「四」を数えた瞬間、清麿の右手が疾風のように盤上へと振り下ろされた。
――ズドォォォォンッ!!
特別対局室の空気を震わせる、重く鋭い駒音。
清麿が放ったのは、受けの手ではなかった。
自陣に控えていた自らの飛車を鷲掴みにすると、相良の玉陣の喉元――相手の守備駒の利きが交差する死地へと、迷いなく叩き落としたのだ!
『パターンB・大駒放棄のカウンター』!
しかし、それは未来の定跡のなぞり書きではない。
相手の攻めを自らの玉の露出によって受け止め、わずか一手早く相手玉を即詰みに討ち取るために、清麿自身の頭脳が命を削って弾き出した、決死の勝負手だった!
「…………っ!?」
相良恭平の端整な顔が、跳ね上がるように硬直した。
涼やかな瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。
飛車の叩き込み。
取れば清麿の桂馬が跳ねてきて玉が即詰みになる。取らなければ、清麿の成駒が敵陣を火の海にする。
「馬鹿な……! 自玉の受けを完全に放棄して……踏み込んできたというのか……!?」
相良の喉から、掠れた叫びが漏れた。
相良は歯を食いしばり、自陣の銀を成り込ませて清麿の玉へ王手をかけた。
だが――清麿の応手は、氷のように滑らかだった。
――パシッ。
玉を自ら斜め前、中段の戦場へと一歩進める。
あらかじめ配置されていた金銀が、成銀の射線をミリ単位の精度で遮断し、王手がピタリと止まる。
王手が、続かない。
そして――清麿の瞳に、勝利の光が宿った。
「相良先生」
清麿は静かに顔を上げ、相良の目を真っ直ぐに見据えた。
「ありがとうございました」
清麿の右手が、最後の引導を渡すために伸びた。
――バシィッ!
桂馬を跳ねて王手。
――パシッ。
歩を叩いて退路を塞ぐ。
手数にして、わずか五手。
そして――百二十二手目。
清麿は手元に残っていた一枚の金を、相良の玉の頭上へと、そっと静かに打ち下ろした。
――パチリ。
静寂を震わせる、あまりにも穏やかな駒音。
王手。
合駒利かず。
逃げ場なしの、完全なる即詰み。
「…………」
対局室から、すべての音が消え去った。
記録係がストップウォッチを止めるカチリという音だけが、やけに大きく響く。
相良恭平四段は、盤上に両手をついたまま、微動だにしなくなった。
二十歳の新鋭の肩が、激しく上下している。
やがて、深く、長い溜息とともに、相良は畳に額を擦りつけるようにして頭を下げた。
「……参り、ました」
百二十二手。
プロ棋士編入試験五番勝負・第五局。
若き超新星・相良恭平四段が、己の誇るすべての知性と力を出し尽くし、完敗を認めた瞬間だった。
「……ありがとうございました」
清麿もまた、深く一礼を返した。
その瞬間、全身の筋肉から熱い汗が一気に噴き出し、指先がガクガクと激しく震え出した。
勝ったのだ。
退路なき最終決戦の盤上で、己の弱さに打ち勝ち、自分の頭で活路をこじ開けて、勝利を掴み取ったのだ。
襖が音を立てて開き、控室から駆けつけてきた報道陣と関係者が、雪崩のように特別対局室へと押し寄せてきた。
無数のカメラのフラッシュが一斉に焚かれ、白い閃光が部屋を昼間のように照らし出す。
記録係が震える手で記入した、公式記録用紙の文字が、清麿の滲む目に飛び込んできた。
『プロ棋士編入試験第五局 勝者:加藤清麿アマチュア』
『試験成績:通算3勝2敗』
『規定により、プロ棋士編入試験合格』
『新四段・加藤清麿の誕生を認む』
合格。
三勝二敗。
四年前、二十六歳の春に年齢制限で奨励会を追われ、社会のゴミのように蹲り、人生のすべてを諦めかけていた三十歳の男。
その男が、いま、自らの指先で、閉ざされていた鉄の扉を完全に打ち破り、正式な「プロ棋士」となったのだ。
視界が、熱い涙で激しく滲んだ。
記者たちの質問の声も、カメラのシャッター音も、遠い潮騒のように霞んでいく。
胸の奥底から込み上げてくる熱い塊を抑えきれず、清麿は盤上に両手をついたまま、静かに涙をこぼした。
*
長い記者会見と手続きを終え、将棋会館の外へ出た頃には、千駄ヶ谷の街は深い紫紺の夜の帳に包まれていた。
凍てつくような冬の夜風が、火照りきった清麿の頬を撫でていく。
会館の周囲にはまだ多くのファンが歓声を上げていたが、清麿は裏口から抜け出し、通りを渡って鳩森八幡宮の境内へと足を踏み入れた。
静まり返った境内の石畳。
街灯の淡い光の下、古びた木製ベンチの前に、銀と藍色のライダースーツを着た少女が立っていた。
加藤和令。
彼女は両腕を組み、冬風に長い黒髪をなびかせながら、じっと清麿を待っていた。
清麿の足音が近づくと、和令はスッと顔を上げ、ツンと顎を上に向けて鼻から大きく息を噴き出した。
「……遅かったじゃないの、雑魚先祖」
いつもの、聞き慣れた生意気な声。
「百二十二手なんて、手こずりすぎよ。こっちは待ちくたびれて、爪先が凍傷になりそうだったわよ」
「悪かったよ。会見が長引いてさ……」
清麿は和令の前まで歩み寄り、立ち止まった。
そして、夜空を見上げ、深く息を吸い込んだ。
「……和令」
「なによ」
「勝ったぞ。……三勝二敗。プロ棋士に、なれた」
言葉にした瞬間、喉の奥がツンと熱くなり、声が震えた。
「俺たち、プロになったぞ……!」
和令は何も言わなかった。
いつものように毒舌で茶化すことも、「当たり前でしょ」と笑うこともなかった。
少女はただ、ぎゅっと唇を噛み締め、俯いた。
その細い肩が、小刻みに震え始める。
ぽたぽたと、大粒の涙が、凍えた石畳の上に落ちて染みを作っていった。
「……バカ先祖」
掠れた、震える声だった。
「当たり前でしょ……! 誰が育てたと思ってんのよ……! 三百年後の加藤和令が手塩にかけて鍛え上げたんだから……プロにならなきゃ承知しないわよ……ッ!」
和令は両手で顔を覆い、しゃくり上げた。
未来の世界で誰にも勝てず、負け犬として絶望の底にいた少女。
その少女が、いま、自らの先祖とともに、運命の濁流を押し返し、奇跡のプロ入りを成し遂げたのだ。
「……泣くなよ、和令」
「泣いてないわよ! 寒さで目から不凍液が漏れてるだけよ!」
「相変わらず素直じゃないな」
清麿は笑いながら、そっと和令の頭の上に手を置いた。
少女の柔らかい髪の温もりが、手のひらを通して伝わってくる。
「ありがとう、和令。……お前がいたから、俺はここまで来られたんだ」
「……ふん。感謝するなら、これからのプロ公式戦で勝ち続けなさいよ。プロ入りはゴールじゃないんだからね!」
「ああ。分かってるよ」
冬の夜空を見上げる二人の胸には、揺るぎない希望の光が満ち溢れていた。
三十歳を過ぎて、失われたはずの夢を取り戻した男。
プロ棋士・加藤清麿四段の、新たな将棋人生の幕が、いま堂々と上がろうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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