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【未来の将棋は暗記ゲーでした〜AIすら凌駕する300年後の『完全定跡』を丸暗記した元奨励会員、現代のプロ棋士を無双する〜】  作者: 月神世一


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EP 8

開かれた門と、未来からの警告

『――特例措置によるプロ編入試験。加藤清麿氏の挑戦を、日本将棋連盟は正式に受理しました』

1LDKのボロアパートに、テレビのニュースキャスターの声が響いていた。

画面には、フラッシュを浴びながら頭を下げる将棋連盟の会長の姿が映っている。

『試験の規定は以下の通りです。現在フリークラスに所属する新四段(プロになったばかりの若手棋士)5名と、1か月に1局ずつ対局。持ち時間は各3時間。加藤氏が3勝を挙げた時点で、プロ入り(四段昇段)が認められます』

ちゃぶ台の前で寝転がりながらそれを見ていた清麿は、ふう、と大きく息を吐き出した。

そして、口元を歪め、抑えきれない笑いを漏らした。

「……ははっ。聞いたか和令。3勝だ。たった3回勝つだけで、俺はプロになれる」

「聞いてるわよ。あんたのスマホ、さっきからお祝いのメッセージで鳴りっぱなしじゃない」

和令は部屋の隅で、コンビニの高級スイーツ(清麿の賞金で買ったもの)を頬張りながら、呆れたように肩をすくめた。

実際、清麿のスマートフォンは異常な熱を持ち、通知が止まらない状態だった。

桐生五段との公開対局での『ノータイム15手詰め』。

あの圧倒的な勝利は、将棋界のみならず日本中を熱狂の渦に巻き込んだ。

かつて清麿を「プロ崩れ」と笑ったスーパーの店長も、冷たくあしらった奨励会の幹事たちも、今は手のひらを返して「彼は遅咲きの天才だった」と口を揃えている。

「相手は新四段の5人……プロになったばかりのヒヨッコどもだ。桐生五段みたいなタイトル戦線のトッププロに比べれば、与し易い」

清麿は自分の両手を見つめた。

桐生戦で掴んだ、あの感覚。

相手の最新研究を泥臭く受け流し、盤面を荒らしに荒らして、自分の脳内に焼き付けた『未来チャート(特定の盤面)』へと強引に繋ぎ合わせる『誘導セットアップ』の技術。

「俺の『泥沼』と、お前の『300年後の答え』が合わされば、プロの連中だろうが関係ない。俺は無敵だ」

「…………」

「どうした? 借金がチャラになる日も近いんだ、もっと喜べよ」

清麿が上機嫌で振り返ると、和令はスイーツの空き箱をゴミ袋に放り投げ、冷たい視線で清麿を見下ろしていた。

「……あんたさぁ」

「ん?」

「桐生って奴に一回勝ったくらいで、随分と偉そうになったわね」

和令の声には、いつものからかうような響きがなかった。

絶対零度の、見透かすような瞳。

おごらないで。ハッキリ言うけど……今のあんたのままじゃ、プロ編入試験、絶対に負けるわよ」

「……は?」

清麿の笑顔が引きつった。

「何言ってんだよ。俺は桐生に勝ったんだぞ? お前が『地獄の特訓』で仕込んだ誘導技術だって、完璧に決まったじゃないか」

「だからダメなのよ」

和令はため息をつき、空中にホログラムの盤面を浮かび上がらせた。

「いい? 桐生五段は確かに強かった。でも、彼は『定跡党』……つまり、過去のデータを深く研究して論理を組み立てるタイプの秀才よ。だからこそ、あんたが論理を無視して『泥沼』に引きずり込んだ時、彼はバグを起こしたの」

和令はホログラムの駒を指で弾き飛ばした。

「でも、プロの世界……『鬼の棲家』には、色んなタイプの化け物がいる。論理も定跡も関係なく、ただ純粋な『暴力的な才能』だけで盤面を支配するような、本物のバケモノがね」

「才能の、バケモノ……」

「そういう奴らに、あんたの『泥沼への誘導』なんて小手先の技術が通用すると思ってるの? 相手があんたの泥沼を『楽しい遊び場』だと思って泳ぎ始めたら、どうやって未来のチャートに接続する気?」

和令の指摘は、鋭く的を射ていた。

しかし、有頂天になっている清麿の耳には、それは単なる「取り越し苦労」にしか聞こえなかった。

「……お前、心配しすぎだろ」

清麿は立ち上がり、軽く肩を回した。

「俺は10年間、奨励会っていう地獄の泥水の中で、そういう『天才』どもに踏みつけにされながら生きてきたんだ。才能の暴力なんて、見飽きてる。……それに、いざとなれば俺の頭には『未来の答え』があるんだからな」

清麿は自信満々に笑い、和令に背を向けた。

「見てろよ。第1局は来週だ。あっさり勝って、お前のくだらない心配を笑い飛ばしてやるよ」

和令は、自信に満ち溢れて部屋を出ていく清麿の背中を、ただ静かに、そして酷く冷ややかな目で見送っていた。

「……バカね。あんたはまだ分かってない」

誰もいなくなった部屋で、未来から来た少女はポツリと呟いた。

「天才に『追いついた』と錯覚した凡人が、一番残酷にへし折られるってことを」

プロ編入試験、第1局まであと7日。

清麿の足元には、本物の『鬼の棲家』へと通じる、底なしの暗闇が口を開けていた。

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