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火刑台の薬剤師〜いや、それ呪いじゃなくて病気です〜  作者: 大棗ナツメ
第4章

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1 薬師の役目1

 朝の柔らかな光が、森を温かく照らす。

 森の奥、小さな小屋の煙突からは細い煙が立ち上っている。

 静かな、静かな朝――になる、はずだった。


「遥香ーーーー!!」

 突然小屋に大声が響いた。


 ーーバンッ

 豪快に扉が開く。


「まだ寝てるんじゃないだろうね!?」

 そう言いながら、エルダは容赦なく遥香の布団を剥ぎ取る。


「も、もうちょっと……もうちょっとだけ、エルダさん」

 遥香は必死に布団を押さえるが、エルダの力には敵わない。

 これは、もはや毎朝の恒例行事だった。


「ほら、朝ごはんだよ!」

 遥香から布団を剥ぎ取ったエルダは、腰に手を当て、にこりと笑った。


「……はい」

 遥香は渋々ベッドから起き上がる。


 ただいまの時刻、朝の5時。

 とんでもなく朝が早いエルダは、こうして毎日遥香を起こしてくれるのだ。


(ああ、気が済むまで寝てみたい……)

 遥香は遠い目で、まだ薄暗い窓の外を見つめた。


 階段を降りると、エルダが机に朝食を並べているところだった。

 湯気の立つスープに、パン。いつもと同じ朝食だ。

 現代生まれの遥香には質素な朝食だったが、毎朝エルダが早起きして作ってくれるそれは、何よりも温かいものだった。


「遥香、レオニスさん元気になって良かったね」

 エルダは少しからかうように、ニヤニヤと笑って言った。


「もう、エルダさん、レオニスさんとは本当にそんなんじゃ……」

 遥香は顔を赤くしながら、小さく抗議する。


「にしても、遥香。本当に頑張ったね」

 エルダは、机に鍋を置きながらしみじみと言う。


「トリカブトを飲んで生きて帰った者は、見たことがないよ」

 エルダはそう言うと、労うように優しく遥香の背を撫でた。


 その手の温もりに、遥香の胸がじんわりと熱くなった。


「……エルダさんって、お母さんみたい」

 ぽつりとこぼれた言葉に、

「やだねぇ、私はこんなに朝が弱い娘を持った覚えはないよ!」

 エルダはガハハと笑いながら、遥香の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


 ボサボサの頭で遥香は、考えた。

(最初に会ったのが、エルダさんで本当に良かった)


 この世界に来てから、家族も知り合いもいなかった遥香にとって、エルダは唯一の、かけがえのない家族だった。


「ほら! モタモタしてたら、患者が来ちまうよ!」そう言うと、エルダは遥香の背中をバンッと叩いた。


「……うっ」

 遥香は衝撃でスープを吹き出しそうになった。


 すると扉の外から、かすかに足音と声が聞こえてきた。

「おはようございます、聖女様」

「今日も来ました」


 小屋の前には、少しずつ人が集まり始めていた。神の病の患者たちだ。


「さあ、今日も開店だ!」

 エルダがそう声を出し、元気よく扉を開ける。


 一列に並んだ患者たちは、順番に小屋に入り抗菌薬を受け取る。

 すると、一人の老女が少し不安げにぽつりと言った。


「あの、聖女様。本当にこの薬、効くんでしょうか?」

「ええ、治るまでに時間はかかりますが、効きます」遥香は笑顔で答えた。


「でも……」

 老女が言いかけたが、隣に並んでいた若者が肩をすくめた。

「聖女様の言う通りにしてたら、大丈夫だ」

「そうだ、間違いない」

 他の患者達も同調して頷いている。


「…………ええ、そうね」

 老女は少し考えた後、小さく頷いた。


「お待たせ!」

 エルダが厨房から大きな鍋を持って現れた。


「今日は寒いからね! スープでも飲んで行きな!」

 そう言うと、エルダは器に豪快にスープを注いでいく。

「熱いから気をつけなよ! 火傷の薬は、うちにはないよ!」

 腰に手を当てエルダがそう言うと、患者たちは思わず笑った。


 豪快で優しいエルダの声は、まるで緊張を和らげる魔法のようだった。


 小屋の中は、朝の光と温かい人々の笑顔で満たされていた。

 遥香はふっと息をつき、エルダに向かって小さく微笑んだ。

 「……やっぱり、ここは温かいですね」

 エルダはにこりと笑った。

 「そうかい。ここはもう、遥香の家だからね」


 その言葉に、遥香は少しだけ泣きそうになった。


 *******



 教会の奥、石壁に囲まれた聖堂は重苦しい沈黙に包まれていた。


 「暗殺は、失敗だ」

 低く告げられた一言に、聖職者たちの顔が歪む。 


 「なぜ生きている……あの女は、今や民衆の“聖女”だ」

 その声には、苛立ちと焦りが滲んでいた。だが誰も手を出せない。


 遥香は民衆の支持を一身に集めており、下手に動けば暴動すら招きかねない。

 教会の権威もまた、揺らぐ危険があった。


 年嵩の聖職者が静かに口を開く。

「なんでも良い。罪を着せるのだ。“民を欺いた”“神を冒涜した”――罪はいくらでも作れるだろう」

「いや、待て。下手に手を出すな。まずは疑念を植え付け、孤立させたところで一気に叩けば良い」

「だが、このまま放置も出来んだろう!!」


 怒号が聖堂に響き、蝋燭の炎が大きく揺れる。

 薄暗い部屋には、怒りと焦燥が渦巻いていた。

 それでも教会は、“聖女”と崇められる存在を前に、なす術はない。

 ゆえに、陰で策を巡らせるしかなかった。


 やがて、年嵩の聖職者が机を叩きつけて言った。


「必ず、引きずり下ろしてやる」

第4章スタートです!

よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
【良い点】初めまして、Xの読み合い企画から参りました。全体的に、非常に面白かったです。特に、浣腸編が笑いながら読みました(笑)。遥香の気持ちに感情移入して楽しく読み、読み進める手が止まらず一気読みして…
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