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火刑台の薬剤師〜いや、それ呪いじゃなくて病気です〜  作者: 大棗ナツメ
第3章

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13 聖なる者4

 見慣れた紺色の騎士服。

 遥香の視界を塞ぐように立っていたのは――レオニスだった。


 レオニスは一歩前に出ると、男の刃を弾き、体ごと押し返していた。


「副団長!」

 クリスが叫び、床に転がった男を素早く押さえつける。フェルナンドは弾き飛ばされた刀を拾い上げた。


 男は、狂ったように笑い出した。

「ははははは! 聖女の血を浴びれば、神の病は治るんだ!」

 本気でそう信じているのか、男は目を見開いたまま、遥香を凝視している。


「レオニスさん!」

 遥香は、はっと我に返り、駆け寄った。

「遥香、大丈夫だったか?」

 あれほどの混乱の直後だというのに、レオニスの声は驚くほど落ち着いていた。


「は、はい。私は……それより、レオニスさんは」

 言いかけて、遥香は息を呑む。


 右腕の騎士服が裂け、そこから赤い血が滲んでいた。

「ああ、かすり傷だ。放っておけば治る」

 遥香の視線に気づき、レオニスはなんでもないように言う。確かに、出血は少量だ。

「で、でも、手当を――」


 そう言いかけた瞬間だった。

「はははははは!!」

 床に押さえつけられた男が、突然、甲高く笑った。


「これは神の裁きだ! 毒で、苦しめ!!」

 ――空気が、凍りついた。


「……毒!?」

 遥香が叫ぶ。

「剣に毒を塗っていたのか!?」

 ハンスが血相を変えて駆け寄り、レオニスの傷を確認する。


「すぐに解毒剤を!!」

 だが、レオニスの右腕を診ていて、手が離せない。

「棚の二段目、右端だ! 取ってくれ!」

「了解!」

 フェルナンドが走り、薬瓶を掴む。医院に常備されている“解毒薬”だった。


「これを……!」

 瓶を受け取ったハンスは、すぐにレオニスへ渡す。

 レオニスは一瞬それを見てから、躊躇なく煽った。


「ああ、良かった」

 ティナは両手を口元に当て、ほっとしたように涙ぐんだ。


 これで助かる――誰もが、そう思った。


 だが。

「……ぐっ」

 突然、レオニスが胸を押さえ、わずかに顔を歪めた。


「え……?」

 遥香の声が、震える。

「な、なんで」

「解毒、できていない?」

 ハンスが青ざめて、レオニスを見る。


 解毒薬を飲んだはずなのに、痛みは引かない。

 それどころか、レオニスの手が微かに震えていた。

「ぐっ、どういうことだ……?」

 息が荒くなり、立ったまま動けない。


 遥香はパニックになりそうになりながらも、胸を押さえ必死に考えた。


(なんで? 解毒薬が効かない!? そもそも、何の毒……)


 ――その瞬間。

 遥香の脳裏に、ひとつの可能性が閃いた。


「……っ!」

 遥香は踵を返し、クリスに押さえつけられている男の前へ歩み寄る。

 そして、真正面から睨みつけ、叫んだ。

「何の毒を使ったの!?」


 男は、狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「ははははは、修道士さまの呪いだよ!」

 その言葉に、遥香は息を呑んだ。


「ハンス先生!」

 振り返り、断言する。

「この毒は、解毒薬が効かない種類です!」

 その一言で、医院が静まり返った。


「え? そ、そんなことが……」

 ハンスの声が震える。

「遥香さんっ! 何の毒か分かったんですか!?」

 ティナが、縋るように尋ねる。


 遥香は、ゆっくりと男を見る。

「トリカブト、ですよね」

 その名が口にされた瞬間、場の緊張が一段、深く沈んだ。

 トリカブト――別名、“修道士のフード”だ。


 男は、満足そうに笑った。

「ははははは! もう助からないぞ!」


 レオニスは苦しそうに腕を押さえながら、遥香を見つめている。


 ――トリカブトには、解毒薬はない。

 現に、解毒剤を飲んでも、症状は進んでいる。


 遥香の視界が滲んだ。

(絶対に、助ける)

 そう心に決め、ゆっくりと息を吐く。


「ハンス先生!」

 遥香は、はっきりと指示を出した。

「塩分濃度の高い塩水を! それから、炭をお願いします!」

「す、炭……? そ、そんなものどうするんだ」

 ハンスは戸惑いながら尋ねた。


 外では、群衆のざわめきが広がっていた。

「聖女様……」

「どうするんだ……聖女様」


 遥香は、聖女なんかじゃない。

 ――それでも。


(絶対に、レオニスを死なせない)

 その想いだけを胸に、遥香は立っていた。


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