14 死の舞踏8
その人物は、ゆっくりとフードを外した。
「え? アリシアさん……!?」
毒入り化粧水事件の張本人――アリシアだった。
「お久しぶり」
アリシアは穏やかに微笑む。
「どうして、ここに?」
予想外の人物の登場に、遥香は目をぱちくりさせる。
「あの時は、ごめんなさい」
アリシアは、俯きながら静かに謝った。
「あの後……女性達の助命嘆願のおかげで、死刑は免れたの。今は、辺境の流刑地で暮らしているわ」
そう言うと、アリシアは胸の前で手を組み、ゆっくりと目を閉じた。
「それで、その流刑地で薬を作っていたら、なんだか腕を見込まれて。今は週に一度、街の修道院にも薬を納めに来ているのよ」
そう言うと、アリシアは嬉しそうに、にっこりと笑った。
(アリシアさん、よかった)
その様子に、遥香は心から安心した。
「それで、何か分かったか?」
レオニスが尋ねる。
「審問官が持っていた香薬は、元々修道院に隣接した教会で保管されていたものよ」
「やはりな。恐らく、元々六つ用意されていたのだろう。五つを事件に、最後の一つを捏造用に」
(最初から、私に罪を被せるつもりだったんだ)
「証明できるものは?」
アリシアはゆっくり首を横に振る。
「隙を見計らって文書庫も見たけど、記録は残ってなかったの」
「当然だな」
レオニスの声は冷静だが、鋭く響く。
「香薬は今、審問官が持っている筈よ。だから、代わりにこれを持って来たの」
アリシアは鞄から小さな鳥籠のようなものを取り出す。
ふわり、と香りが漂った。
(この匂い!!)
遥香の目が見開かれる。
「乳香か。よく持ってきたな」
レオニスが小さく呟く。
「ふふ、私って手癖が悪いのよ」
アリシアは、いたずらっぽくウインクした。
「これ! 誘拐事件の犯人と同じ匂いです!」
「教会で焚かれる香だ」
レオニスの視線が遥香を捉える。
(教会……あの犯人は、やはり……)
そう考えていると、アリシアが香炉を遥香に渡した。
「綺麗でしょ? お金になるわよぉ」
小さな香炉は金色に輝いている。
「これ、まさか黄金?」
遥香は香炉を手に持ち見回しながら、呟く。
「んー……黄金だったらもっと良かったんだけど、これは青銅ね」
アリシアは少し残念そうに微笑む
その言葉に――
遥香の中で、何かが弾けた。
(青銅!? もしかして!)
遥香は"それ"にそっと火を付けた。
ーーボッ
鮮やかな青緑色の炎が上がった。
どこまでも青く澄み切ったそれは、闇を暴くように燃え上がる、真実の青き炎だった。




