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火刑台の薬剤師〜いや、それ呪いじゃなくて病気です〜  作者: 大棗ナツメ
第2章

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10 死の舞踏4

 騎士の報告を受けた遥香とレオニスは、旧劇場跡地へと急いだ。


 そこには――地面に座り込む女たちの姿があった。 皆、虚ろな目で周囲を見回し、状況を理解できずに戸惑っている。


「先程、急に正気に戻ったようで、踊るのをやめました」

 レオニスを見つけた騎士が、緊張した面持ちで報告する。

「丸薬の効果が、切れたんですね」

 遥香がそう言うと、レオニスも静かに頷いた。


 そして、レオニスは、騎士に短く指示を飛ばす。

「踊っていた者から、事情を聴け」

「はっ!」

 騎士たちが動く中、遥香は一人、地面を見つめてぶつぶつ呟いている女に気づいた。

(あの人)

 遥香は気になり、そっと近づく。


「どうして、話が違うじゃないか……」

 四十代後半ほどの女性だ。その金色の髪は、疲れてどこかくすんで見えた。


 遥香は、女の前にしゃがみ込んだ。

「大丈夫ですか?」

 声を掛けた瞬間、女性は肩をビクッと震わせ、目を見開いて遥香を見た。

「あんた」

 その視線の鋭さに、遥香は首を傾げる。

「あ、の……?」

「あんた、名前は!?」

 女性は遥香の髪をちらりと見て、そう尋ねる。

「え? 遥香、ですけど……」

 そう答えた、次の瞬間だった。


「あんたのせいで――っ!!」

 女は叫び、遥香の肩を掴んで前後に激しく揺さぶった。

「ちょっ、待っ――!」

 世界がぐわんぐわん揺れる。


 すると

「何をしている」

 低く、氷のような声がした。

 気づけば、レオニスが女の腕を掴んでいた。


「連れて行け」

 その一言で、女は騎士に両脇を抱えられ、引きずられていく。


 女は、連行されながら遥香の方を向き、叫んだ。

「この女……っ! 許さないからね!!」


 吐き捨てられた呪詛だけが、後に残った。



 ******


 女――エリーゼは、いつも疲れていた。

 朝は誰よりも早く起き、食事を作り、子どもを世話し、畑に出る。

 夜は疲れ切った体を引きずり、家族の世話と縫い物。 

 眠ったと思えば、また朝が来る。

 それが、終わらない日常だった。


(もう、全部捨てたい)

 ある夜、エリーゼは家を抜け出した。 

 暗い街を、蝋燭の小さな炎だけを頼りに走る。


 やがて、旧劇場跡地の灯りが見えた。

 仲間たちが、集まっている。

 扉を押し開けると、視線が一斉に向けられた。


「エリーゼ!」

「誰にも見られてない?」

 そこは、女たちだけの秘密の集会だった。


「遅れて、ごめんなさい」

 小さく謝り、席に着いた。


 その時――


 ――ギイ。

 背後で、扉が開いた。


 誰も来るはずのない場所に、黒いフードの女が立っていた。

「誰だい?」 

 アンが警戒する。

「安心してください」 

 若い女の声だった。


「私は、皆さんの味方です」

 フードの奥で、黒髪が揺れた。



 *******


「あの女に、騙されたんだよ!」

 騎士団の取調室で、アンは机に身を乗り出して叫んだ。

「騙された?」

 レオニスは、表情一つ変えずに問い返す。


「あの女が、薬を使えばストライキが上手くいくって、言ったから!」

 そこまで言うと、アンはハッとしたように口を押さえた。

「……ストライキ?」

 レオニスは目を細めて、アンを見る。


 沈黙の後、アンがポツリと呟いた。

「街の女達で、ストライキを起こそうとしてたんだ」


「はぁ」

 レオニスは、小さくため息をつく。

「で、それがなぜ、あの集団舞踏になったんだ」


 てっきりストライキを起こそうとした事を咎められると思っていたのだろう。

 アンは目を丸くして、レオニスを見ている。


「ストライキ自体は構わない。だが、踊りについては、説明しろ」

「あ、ああ……」


 アンはレオニスの言葉に、恐る恐る口を開いた。

「声を上げてデモなんかやっても、捕まって罰を受けるだけだ」

 アンはちらり、とレオニスを見て続ける。

「だから……私達は、仕事も家族の世話も、ぜーんぶ放棄して、ただ楽しく踊ることを計画したんだ」


「なるほど、な」

 そう言うと、レオニスは額に手を当て、ため息をついた。


 最初は女達による、ただのストライキだったのであろう。

 だが、薬の効果で、次第に女達は我を忘れて踊るようになった。そして、噂が噂を呼び、それを見に来た女たちもダンスに巻き込まれ、収拾がつかなくなった、ということか。


「それで、薬を渡したのが、あの女だよ」

「あの女?」

 レオニスが眉をひそめた。


「"遥香"だよ。あいつが会合に現れて、薬を渡した。これで仲間が増えるから、と……」

 アンは歯を食いしばって、忌々しげに言った。


「顔は、見たのか?」

 レオニスの目が鋭く光る。

「いや、黒いフードを被っていたからね。けど、黒髪だったし、"遥香"と名乗った」

 アンは怒りで震える手を、ギュッと握りしめ言った。


 その言葉に、部屋の空気が凍りついた。


「急げ」

 レオニスは後ろに控える騎士に低く命じた。

「遥香を、今すぐ連れて来い」



 そう。

 黒幕の狙いは、最初から“身代わり”だった。

 そして、次の手は――まだ始まったばかりだ。

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