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火刑台の薬剤師〜いや、それ呪いじゃなくて病気です〜  作者: 大棗ナツメ
第1章

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32 命懸けの婚活6

 

「………それで」

 レオニスに促され、また二人廊下を歩き始める。


「仕事は終わったのか?」

「は、はい。大体……」

 そう言うと、レオニスはふと視線を遠くへ向け、黙り込んだ。


 レオニスはいつもと違い、今日は前髪を少し上げている。相変わらず美しい。そんなことを考えていると、

「では、3日後にルーンヘルムに帰るか」

 当然のようにレオニスは言った。


(……帰る?)

「え、わ、私ですか?」

 遥香は慌てて自分を指差し、きょろきょろと周囲を見回した。


 レオニスは当たり前だろうとでも言うように少しだけ首を傾けた。

「他に誰がいる?」


(な、なんでそんな自然に!?)

 遥香が頭を抱えているとーー


 突然、王宮に似つかわしくないバタバタという足音が聞こえてきた。

 遥香はつられるように、後ろを振り向く。


「公爵令嬢が倒れられました……っ!」

 王宮の侍従であろう男性が、息を切らしながら遥香に言った。


(………だから、言ったのに)

 サラが顔色を白くするために、と医師に瀉血を依頼していたのを思い出す。


 侍従に案内され、大広間へ戻るとイザベルは長椅子の背にもたれかかるようにして座っていた。

 その顔は青白く、呼吸は早い。片方の手でもう片方の腕を押さえている。


「大丈夫ですか?」

 遥香はその肩に手を置き、顔を覗き込んだ。


「……ごめんなさい」

 イザベルは遥香を見ると、か細い声で謝った。


「いいえ、少し休みましょう」

 その背をさすりながら、遥香は周囲を見回す。

(どこか休める所は……)


「休憩室があるが」

 背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはレオニスがいた。


 イザベルの額には汗が滲んでいる。

「少し、休ませた方が良いかと……」

 遥香がレオニスを見上げてそう言うと、彼は一度だけ頷き、前へ出た。


「失礼」

 次の瞬間、レオニスはイザベルを抱き上げていた。

(……えっ!?)


 周囲もザワザワと騒ぎ出す。

「あの男は、誰だ?」

「倒れたのは、公爵令嬢か?」

 ヒソヒソと話す声が、遥香の耳に届く。


「ご案内します!」

 侍従はそう言って一歩先に立ち、大広間を進み始めた。

 レオニスは人々のざわめきを割るようにその後に続く。

 やがて廊下を抜け、扉が並ぶ静かな一角へと辿り着いた。

 侍従がそのうちの一室を示す。


 その部屋に入ると、大きな天蓋付きのベッドが見えた。

 レオニスはそこへイザベルをそっと降ろした。

 遥香は胸がもやもやしたが、すぐに首を振った。

(人命第一!)


 遥香はベッドに横たわるイザベルを見た。

(脈が速い。皮膚も冷たい。典型的な貧血だ)

 普段から食事を減らしている上に、社交界の為にと瀉血をしたことが原因であろうことは間違いなかった。


「まったく! 戻ったら、サラさんにはっきり言わないと」

 遥香はギュッと拳を握る。

 顔色を白くするための瀉血など、もってのほかである。


 隣で様子を見ていたレオニスが尋ねる。

「どうだ?」

「貧血だと思います。今日のために瀉血をしていましたから」

 怒りが声に滲まないよう、必死に抑える。


「そうか」

 レオニスは短く答え、踵を返した。

「噂が立つと面倒だ。俺は先に戻る」

 扉に手をかけ、ふと思い出したように振り返る。

「三日後、公爵邸へ迎えに行く」


(迎えに……)

 どうやら一緒に帰るのは、決定事項らしい。


(まさか、また馬に相乗りじゃない、よね……?)

 遥香が青くなっていると、ベッドから声がした。


「遥香さん、ごめんなさい。もう、大丈夫です」

 イザベルは起き上がろうとしていたが、遥香は慌ててそれを止めた。

「いいえ、まだ無理です」


 そこへ、扉が勢いよく開いた。

「まあ、イザベル! もう大丈夫なの?」

 公爵夫人がずかずかと入ってくる。


(一体どこへ行っていたんだ)

 遥香は夫人をじとっと見る。

 だが、そんな遥香の視線には気付かず、夫人は続けた。


「第一王子殿下が、またあなたとお話ししたがっているの!!」

 満面の笑顔でそう言った公爵夫人を見て、遥香は口をぽかんと開いた。

(この状況でっ!?)


「え、あ、あの」

 遥香が止めようと口を開く前に、イザベルが静かに言った。

「わかりました……すぐに参りますわ」


 イザベルは公爵夫人に連れられ、再び第一王子の前に立っていた。

 第一王子の口からはまた、どんな花よりも美しいだの、妖精だの歯が浮きそうな言葉が聞こえて来た。


(無駄に長いな)

 遥香は後ろで、必死であくびを噛み殺していた。

「それでは、また手紙を出そう」

 第一王子がそう言うと、やっと話しは終わったらしい。


 ようやく解放され、宮殿前の馬車に乗り込むと、公爵夫人が興奮気味に話し始めた。

「イザベル、大成功ね!! 第一王子はあなたに夢中よ!」


(……疲れた)

 公爵邸に到着したとき、遥香は心の底から安堵した。

(やっと終わった)

 部屋へ戻ると、サラが丁寧に一礼して言った。


「イザベル様、大変お疲れさまでございました。さあ、お着替えを」

 サラがドレスに手をかけ、脱がせる。

 遥香の腕にずしり、と重みが腕に伝わった。

(こんなのを着て、何時間も……そりゃ倒れるわ)


 青緑色の手袋も外す。

「あっ……!」

 サラが突然声を出した。何事だろうと遥香もそちらを見る。


「えっ、どうして」

 遥香の震えた声は、部屋に吸い込まれた。


 社交界前には綺麗だったイザベルの両腕は、赤く腫れ上がり、所々に水疱が出ていた。


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