第336話 「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
早霧が膨れている。
それもその筈、俺が早霧の巫女服姿を褒めなかったからだ。
何故なら俺が一度早霧を褒めだしたらきっとボランティア部の活動に影響が出るレベルで褒め倒すからである。
それを俺は、昨日の部室で初めて早霧の巫女服を見た時に涙を流した事で証明したのだから……。
「えっと、れんじ……?」
「赤堀、お前はそれで良いのか……?」
そんな俺達を心配してくれる良き友人達。
ゆずるも長谷川が困ったように見てくるが、俺は無言で首を横に振る。
「大丈夫だよ。ゆずる、それに長谷川。これは俺が選んだ道だからさ」
俺は早霧を褒めなかった。
それが何を意味するかといえば、早霧が拗ねるという事だ。
一度拗ねた早霧の機嫌を直すには並大抵の事をしても意味がないんだ。
「そ、それで恥ずかしくないんですかぁ……」
「……めっちゃ恥ずかしい」
「み、見られて悦ぶなんて流石は同志ですよぉ……!」
「…………」
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
それはそれとして。
草壁が嬉しそうに俺を見て両手に頬を当てているし、『よろこぶ』という文字が俺の知ってる喜ぶじゃない気がした。
何を隠そう、俺は今、拗ねた早霧を後ろから抱きしめていた。
早霧は俺と顔を合わせてくれないが、頭を撫でる事は許してくれている。
多分、後数分これを続ければ嘘のように機嫌が直るだろう。
「や、やっぱり……さぎりんとれんじの自分らしさはひと味違うね……っ!」
「さ、流石だぜ赤堀……八雲ちゃんともうその域に達してるとはな……っ!」
だけどこれを見ているゆずるや長谷川は顔が真っ赤になってしまっていた。
流石は純情な二人である。
ただベッドの上に腰かけて、その前に早霧を座らせて後ろから抱きしめているだけなんだけどな……。
さっきの手錠うんぬんの方に比べればよっぽど健全だと思うけど、判定的には同じぐらいアウトらしい。
「それで、どうするんだ? 全員着替えちゃったけど、流石にこの服のままボランティア活動をするのは駄目じゃないか?」
「そっ、その状態で平然とお話を戻すんですねぇ……! さ、流石同志ですぅ!」
いい加減話題を進めようとしただけなのに。
何故か草壁からキラキラとした視線を向けられる。
長い前髪でその瞳は見えないけれど、間違いなくキラキラしていた。
「わ、わたしたちはこの巫女服でってお願いされてるから大丈夫だよっ!」
「そ、そうだな! まあ俺と赤堀も脱いで着るだけだし、なんか言われても良いようにジャージを持ってけば良いだろ! 流石に赤堀の家に脱いだ服を置いていくのも、迷惑だろうしな!」
まだ若干顔が赤いながらにゆずると長谷川が首を縦に振りながら話を広げていく。
流石は自分らしさ研究会の会長と副会長だ。
時々俺と早霧の顔をチラチラと見上げているのが気になるけれど、話が進んだのは良かった。
「まあそれなら大丈夫か……。ところで集合時間って何時だっけか?」
「じかんっ? 十時ぐらいに神社に来てって言われてるよっ!」
俺の疑問にゆずるが元気よく答える。
「十時ならまあ、余裕だ……な?」
早霧を後ろから抱きしめながらスマホを見た。
朝早起きをして、エッチじゃない腕立てキスをして、朝食を食べ、ラジオ体操、厚樹少年とアイシャへのプレゼントや、彼らの友情の背中を押して、家に帰って入院する父さん達を見送り、ゆずる、長谷川、草壁が訪れたり一階のリビングでキスをしたり諸々をしていた結果。
「…………」
スマホの画面は、『9:20』を表示していた。
夏祭りが行われる町外れの神社には、バスで三十分ぐらいかかるので――。
「おあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!????」
「ひぁぁっ!!??」
――俺は叫び、抱きしめていた早霧も悲鳴を上げるのだった。




