第337話 「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイー!!」
やる気を出した夏の太陽が本格的に顔を出し始める七月三十一日の朝。
閑静な住宅街を通るアスファルトの向こう側には陽炎が揺らいでいた。
例年どんどん暑くなっていくせいか、世間は夏休みだというのに他に人通りは誰もいない。
それもこの道を抜けて大通りにたどり着けばそれは変わるのだろうが、今はまだそれ以前の問題だった。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイー!!」
ヤバイしか言えなくなるぐらいにヤバかった。
何故なら時刻はそろそろ九時三十分だ。
ボランティア部の活動で夏祭りが開催される神社での待ち合わせ時間が、十時。
そして最寄りのバス停から町外れまでの神社までバスで三十分弱かかる。
……つまり、遅刻ギリギリだったのだ。
「ま、待ってよ蓮司ーぃ……!」
少し後ろから早霧の声が聞こえる。
最初は並走していたのに、今は遅れてしまっている。
その理由は早霧が現在、巫女服を着ているからだろう。
普段着慣れていない和服というのは、とても動きにくいのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇぇ……っ!」
「ひょわ……ひょわぁ……ひょわぁぁ……うぷっ!」
「が、頑張ってくれゆずるちゃん!! それと草壁ちゃんも! ファイト! ファイトだうおおおおおおおおおおおおっっ!!」
そんな早霧の後方では、我らが自分らしさ研究会のツートップ、いやワーストを争うレベルで運動神経の無いゆずると草壁が息も絶え絶えになりながらフラフラと走っていた。
もちろん二人も走る事を想定していない借り物の巫女服姿。
そしてその隣には、浴衣姿の和装大男長谷川が、ひたすらに二人の間を反復横跳びしながら走って鼓舞しまくっていた。
とんでもない体力お化けである。
「れ、蓮司……蓮司の力でバスを足止め……」
「できるかっ!!」
だけど待ってもいられない。
先頭を走りながらも時間は刻一刻と迫っている。
焦った早霧が突然無理難題を提案してくるが、普通の男子高校生である俺にバスを止められるような不思議な力も権力も存在しなかった。
俺が出来るのはせいぜい早霧の力になってやれるこ、と……?
「…………そうか」
「え!? ど、どうしたの蓮司っ!?」
頭に雷が落ちたみたいだった。
その衝撃に俺は走っていた足を止める。
それぐらいこの危機的状況を打開できるかもしれない名案が、俺の頭をよぎったのである。
このまま俺一人がバスに間に合っても、時間通りに発車するバスはゆずる達を乗せずに出発してしまうかもしれない。
だったら、全員が同時に間に合う方法を取れば良いだけだった。
「……早霧」
「え? な、なに?」
「落ちるなよ」
「…………え? うわぁぁっ!?」
俺は、早霧を抱いた。
正確には、だっこをした。
部屋でしていたように後ろから早霧を抱きしめて、そのまま背中に手を添えて倒れこませ、膝の裏をもう片方の手で支える。
お姫様だっこ、という奴である。
「れっ、れれれれれれれれれれれ、蓮司ーっっ!!??」
俺の腕に抱かれた早霧の顔が爆発しそうなぐらい真っ赤になる。
淡い色の瞳が見開かれて、その形の良い口は大きく開かれてあわあわしている。
だけどもう俺には、いや俺達にはこの方法しか無かったんだ。




