第335話 「ちょっとちょっとちょっとちょっとぉーっ!?」
「と、とにかく! これで全員着替え終わったし、揃った訳だ」
大きな咳ばらいを一回。
せっかくいい雰囲気でまとまりそうだったのに、また横道に逸れてしまいそうだったからだ。
「ひなちん。蓮司、誤魔化したね……」
「ひょわぁ……」
主に、隣からジト目で見つめている早霧と草壁のせいである。
草壁については長い前髪で目が完全に隠れているので何とも言えない所ではあるけれど、ここで乗っかってはまた早霧が話をかき乱すのが目に見えていた。
なので俺はもう一度だけわざとらしく咳ばらいをした後に、真っ赤な顔をして向かい合っていた純情すぎる自分らしさ研究会の会長と副会長に声をかけたんだ。
「ゆずる、それに長谷川。色々あったけどせっかく揃ったんだし、このまま夏祭りまで行くで良いんだよな?」
「うんっ! じぶけん全員しゅーごーっ! したからねっ!」
「ゆずるちゃんがいれば天国でも地獄でも怖いものなしだぜ!!」
「昼の神社に怖いものないだろ」
相変わらずこの二人は切り替えが早くて助かる。
早霧だったら多分夜まで何かしら引っ張っていたからだ。
「いやあるぞ赤堀! 何故なら俺にとって、巫女服姿のゆずるちゃんの恰好が眩しすぎるんだ! 今いる赤堀の部屋でも可愛すぎるのに、それが神社と言う神聖な地での巫女服にもなれば百億万倍にもなるから今からドキドキしっぱなしだ!!」
「ご、ごう……!?」
「そうだろう赤堀! ゆずるちゃんの巫女服姿、可愛いもんな! なっっ!!!!」
「声がデカすぎる……」
とんでもない圧だった。
やたらと熱弁する大男の圧によって俺の部屋がとても狭く感じる。
そんな大男が両手で指し示した先には顔を真っ赤にしているゆずるがいて、そんな自分らしさ研究会の小さな会長を見てどう思うかと言えば。
「……まあ、確かにな」
「だろうっっ!!!!????」
「だから声! うるさいっ!!」
ゆずるの着ている巫女服はオーソドックスな紅白の巫女服で、小学生みたいに小柄なゆずるにもピッタリ合うサイズとなっている。
元気な小動物系のゆずるがこうしてしっかりとした正装を着るのは普段の学生服とは違う良さが確かにあると思った。
それはそれとして長谷川の声のうるささはそろそろ無視できないものになってきたので一度咎めておく。
「蓮司! 蓮司! ひなちんも可愛いよね!!」
「ひょわぁっ!? や、八雲さんんっ……!?」
そんな長谷川の熱量に影響されたのか、隣にいた早霧が草壁をアピールし始めた。
この軽すぎるノリが自分らしさ研究会あるあるなのだが、まだ草壁は適応しきれて無いようだ。
「そうだな。少しぶかぶかな気もするが、良く似合ってるぞ」
「だよねだよねー!」
「ひょわぁ……ひょわぁ……!?」
草壁がぶかぶかの袖で恥ずかしそうに顔を隠して鳴いている。
それで顔を隠さなくても半分前髪で隠れているのは置いておいても、今言ったように草壁も良く似合っていた。
身体の細さこそゆずると同じぐらいだけど、ゆずるより身長が高いせいで巫女服のサイズがどうしても大きくなるらしい。
そのせいで着付けは出来ていても袖の長さがぶかぶかで完全に手が隠れてしまっているが、これはこれで良く似合っていた。
「こ、これぇ……顔を隠すのに便利ですよぉ……!」
そしてその利点……? に本人も嬉しそうだったので良いだろう。
「…………!」
「…………ん?」
そしてもう一人。
そんな草壁を可愛いと言った早霧が、期待する目で俺を見つめてきていた。
淡い色の瞳がこれでもかと光輝いていて、どうやら早霧も褒められ待ちのようである。
この中で一番背が高くて、スタイルが良い。
いつものダボダボ古着な白Tシャツと違って、綺麗に着飾られた紅白の巫女服。
それが早霧の長い白髪や色白の肌と相まって無限の相乗効果を生んでいる。
なるほどなるほど。
確かに、これは……。
「……長谷川、お前の浴衣も良く似合ってるな」
「おう! 赤堀も爺さんのお古とは思えないぐらい似合ってるぜ!!」
「ちょっとちょっとちょっとちょっとぉーっ!?」
一度褒め始めたら、止まらなくなる気しかしなかった。




