第326話 『いつも、こうなのか……?』
ゆずるの相談を受けて、その後に長谷川もやって来た。
夏祭りが始まる前からの朝のてんやわんやは一端収束の方向に向かってきている。
まあその代償が俺と早霧の恥ずかしい状況を見られたり知られたりした事なんだが、それは長谷川とゆずるも同じなので痛み分けという事で……。
何故争ってもいないのにこうなってしまったかは分からないが、その中でもただ一つだけ言える事があった。
「うにゅにゅにゅにゅ……」
「さ、さぎりんが子供みたいだね……っ!」
早霧が、俺から離れてくれなかった。
俺を含めた自分らしさ研究会の四人が集まり、床に敷いたクッションやら座布団やらに座っているのに、早霧だけは俺の両足の内側に収まっているのである。
身体を丸くして、体育座りをして、背中を俺に預けて、うにゅうにゅ言っている。
そんな早霧を見て、親ゆ……一番仲が良いゆずるが驚きと感嘆の声を上げたのだ。
「いつも、こうなのか……?」
と、ゆずるの隣に正座して座る長谷川が俺に聞く。
何故だか分からないけれど、まるで相手方の両親に結婚の報告とお願いに行くみたいな気分だった。
「まあ、二人の時は、割と……」
「……ほおぉ」
と、答えた俺に長谷川が神妙に頷く。
何て言うか、許可を貰った後の歓迎的な食事会で、急にいつものように甘えだして気まずくなる義父と男のやり取りみたいだった。
何で俺、早霧の父さんとじゃなくて長谷川とこんな事してるんだろうか……?
早霧の父さんとやるまでもないと言えばその通りなんだけどさ。
「つまり、それがれんじとさぎりんの自分らしさなんだね……!」
「なるほど、自分らしさか! 流石ゆずるちゃん、まとめるのが上手いぜ!!」
「言いたい事は分かるけど自分らしさを過信しすぎじゃないか二人とも!?」
理解のある小さい女の子と、理解のある大きい男の子。
純粋で友達想いな純情カップルが、光過ぎて眩しすぎる。
これ、後で早霧が正気に戻った時が大変な気がしてきたなぁ……。
「それで、二人はその……同棲、してるのか?」
「それで、じゃないんだけど!?」
この話、終わったと思ったのに。
長谷川が真剣な顔で聞いてくる。
今度は、殺人事件の後に探偵から取り調べを受けているような気分だった。
「いや、すまん……! 俺は、その、同棲は大学に進学して一人暮らしを始めた時って決めてたから進んでるなと思ってな!!」
「ご、ごう……!? そう、なのぉ……?」
「い、いやゆずるちゃん! ち、違うんだ! あ、あくまでも俺の考えなだけであってゆずるちゃんにそうしてもらいたいとかそういう事じゃなくて段階的にだな!?」
「えっと、あの、その……べ、勉強……頑張る、ね……?」
「ゆ、ゆずるちゃんっ……!!」
話がどんどん脱線していく。
真面目な長谷川の将来設計が隣にいるゆずるに飛び火して、二人の世界に入った。
こんなトンチキな流れだけど二人もやっぱり大学を受験するんだなと、早霧と朝一緒に進路のことを話したのを思い出した。
いや、起きる事が濃すぎるだけでまだ全然朝なんだけどさ。
「なぁ、二人とも?」
「な、何だ赤堀っ!?」
「ど、どうしたのれんじっ!?」
攻守の逆転が速すぎる。
さっきまで俺が質問攻めにあっていたのに、今度は俺が二人を落ち着かせる流れになっていた。
二人とも純粋だし付き合いたてだから、込み入った話はあまりしないのだろう。
まあ俺と早霧もそんな話は滅多にしないけど、今現在進行形で甘えまくっている早霧の姿が影響している事は間違いない。
……やっぱり俺と早霧って、二人から見たら刺激的なんだろうか?
「……とりあえず、せっかく来てくれたから飲み物取って来るよ。麦茶で良いか?」
「お、おぉ! 悪いな!」
「あ、ありがとうれんじ!」
とは言え、このままグダグダの流れになるのは良くない。
せっかく夏祭り前に集まったんだから、厚樹少年とアイシャの事とかで色々と話しておきたかった。
なので一端仕切り直しの為に、俺はゆっくりと立ち上がって。
「ほら早霧、お前も行くぞー?」
「うにゅにゅにゅにゅー……」
早霧の両脇を掴んで、そのまま引きずって部屋を出ていくのだった。




