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【書籍化決定】ねえ親友。今日もキス、しよっか?  作者: ゆめいげつ
最終章 俺たちは幸せなキスをする

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第322話 『さいしょからないよーっ!?』

「……と、言う訳でこれから長谷川が家に来るらしい」

「え、えぇっー!?」


 俺が大きな溜息を吐くと、ゆずるがお手本のように驚いてくれた。

 それもそうだろう。想い人の為に内緒で何かしてあげたいと相談に来たのに、その想い人自身も今からここに来るのだから。


 長谷川の真っ直ぐと無鉄砲さを予想できる人物は、誰もいないのである。


「どっ、どどどどどうしようっ!? ご、ごうがききき、来ちゃうんだよねっ!?」

「落ち着いてゆずるん! 長谷川くん来てない! まだ来てないよ!!」


 子供のように焦るゆずるの隣で早霧があわあわしていた。

 落ち着かせようとしてる早霧が焦ってどうするんだと思いながら、俺も間に入る。


「そうだぞゆずる。今さっきメッセージが来たばかりだから、そんなすぐには」


 ――ピロン。


GOGOO【すまん! もう着いてしまった! 想像以上に近いな!!】


「……すぅー。今! 無くなった!!」

「さいしょからないよーっ!?」


 ドタバタである。

 本当に予想を超えてくる長谷川アイツいったい何なんだ!

 急にインターホン鳴らさないだけまだマシかもしれないけどさ!


 ――ピンポーン。


「思ったそばからこれか!?」


 我が家のインターホンが無慈悲に鳴り響く。

 長谷川が来てしまった。

 突然とは言え、家には両親もいないしこの炎天下で待たせる訳にもいかない。


 でも俺の部屋には、ゆずるがいるのである。


「蓮司! ここは任せて! 蓮司は長谷川くんをお願い!」

「さ、早霧っ! 良いのか!?」

「うん! 私はゆずるんと一緒に上手く隠れてるから!!」

「……すまん! 任せた!!」

「任せてよ! 何だかスパイみたいでドキドキするね!!」

「ご、ごめんね二人ともっ……!」


 そこに早霧がフォローを入れてくれた。

 若干楽しんでいる節が見られなくもないが、焦って何も出来ないよりかは遥かにマシで頼りになる。


 小動物のように焦りぷるぷると震えるゆずるを早霧に任せて、俺は大急ぎで階段を駆け下りて玄関へ向かうのだった。


  ◆


「す、すまん……長谷川……ま、待たせた!!」

「おぉ赤堀! 俺の方こそすまんないきなり押しかけて……って、汗大丈夫か!?」

「は、長谷川の方こそ外暑かっただろ! と、とりあえず入ってくれ!」

「ありがとな! お邪魔します!!」


 全力ダッシュで階段を降り、廊下を駆け抜けた俺は速攻で早霧の靴とゆずるの靴を隠した。

 気分は完全にアリバイ工作をしている犯人そのものだと、焦りで高揚している俺の頭が言っている。


 そんな焦りを長谷川に悟らせる訳にいかない俺は平静を装うと、純粋で良い奴まっしぐらな長谷川は豪快に笑って流されてくれた。


「そ、それで長谷川……今日は、急に……どうしたんだ?」

「あぁ悪い悪い! そう言えば要件がまだだったな! 色々と話したい事や相談したい事はあるんだが、まずは急に来たお詫びにこれを受け取ってくれ! これが無ければこんなに急ぐ必要は無かったんだがな!」

「……ん?」


 まだ整わない息を何とか落ち着かせようとしつつ、俺は長谷川に質問する。

 すると長谷川は、その手に持っていた大きな紙袋を俺に手渡してくれた。


 何だか俺が早霧のスク水やら下着やらを届けた時に似ている。

 そんな最近の俺の行いにより紙袋に抱いてしまった偏見を頭の中で振り払いながら、その中身を取り出すと――。


「……浴衣?」

「あぁ! 爺さんのお古だが、そこそこ良いものらしい! 今日祭りの手伝いをすると以前から家で話していたら今朝渡してくれてな! だが俺は親父似だから爺さんの浴衣じゃ入らなくてな……そこで赤堀なら背丈も近いしいけると思ったんだ!!」

「長谷川の父さんと爺さんの身長は知らないけど……良いのか?」

「もちろんだ! 浴衣は必要な時に誰かが着るべきだと爺さんが言っていた! 少し古風だが、馬鹿真面目な赤堀にはピッタリだろう! 安心してくれ、もちろんクリーニング済だぞ!!」


 ――中には、黒を基調とした無地の浴衣が入っていた。

 素人目から見ても良い生地だと分かるその浴衣は、触ってみるとすごく手触りが良くて滑らかだ。

 黒い浴衣の上には白で対になる帯が畳まれていて、そのゴシックな感じはとてもお古には見えなかった。


「……ありがとな。長谷川の爺さんにも、お礼を言っておいてくれ」

「おう! 爺さんもその浴衣も、また着てもらえて嬉しいと思うぞ!」

「それはそうと馬鹿真面目ってお前どういう事だよ!」

「馬鹿真面目は馬鹿真面目だろう! 今月頭にあった八雲ちゃんとのアレコレを忘れたとは言わせんぞ馬鹿堀!!」

「だから馬鹿堀やめろ! ……はぁ、とりあえず部屋行くか」

「おう!!」


 誰かから想いが込められた物を頂くと言うのはとても嬉しくて、俗っぽい言い方をするととてもテンションが上がってしまう。

 俺も男だ。

 こんなカッコいい浴衣を着れるとなれば、当然浮かれてしまって……。


「俺も親父から濃紺の浴衣を譲り受けてな、何でもその浴衣姿で母さんを射止めたらしい! つまりだ! 俺達が浴衣姿でゆずるちゃんと八雲ちゃんをメロメロに出来るって事だ!!」

「メロメロっておま、え……あ」

「ん? どうした赤堀、そんな変な所で立ち止まって?」


 ……完全に、忘れていた。

 二階にある俺の部屋に、早霧とゆずるが隠れているのを。


 一階のリビングに行けば良かったと思った頃には。

 既に俺と長谷川も階段を上り終えてしまっていたんだ。

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