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人形に転生した俺の話でもしようか  作者: リート
一章:人形に転生したらしい
5/6

4:なにこのシベリアンハスキーかっこ良すぎるだろ

学校行ったり犬と会ったり

「ニール起きて!今日からアナタも学校に行くんだからね!」

「へ?が、学校?」


 翌日、レナの部屋で一緒に寝ていた俺は、持ち主のそんな声にたたき起こされた。

 学校…この世界にもあるのか。

 というかレナ、お前学校行ってたのか、昨日は休みだったのか?

 そういえばキースたちのこと、同じクラスとかいってたような…?


 寝起きの頭で少々混乱しながら、俺はレナの学生カバンに詰め込まれて、まだ回らない頭のまま部屋から連れだされたのだった。




「さぁニール!これから冒険に出かけるよ!」

「ぼ、冒険?学校じゃなくて?」

「学校にたどり着くには、冒険が必要なの。街にはきけんがいっぱいなんだよ。

 巨大なハウンドがいるから、気をつけないといけないの!」


 街中に…ハウンド…?

 さすが異世界というべきか、子どもの発想力なのか…。


 学校までの道のりだし、恐らく後者だろうけど。


「じゃあ、冒険にしゅっぱ~つ!」


 ていうか普通、お金持ちの娘って馬車とかで学校行くものじゃないのか?

 なんて俺の考えは、この世界では通用しないらしい。



「ここが、巨大なハウンドの出る道なの」

「いや…普通の住宅街の歩道だけど?」


 レナが緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らしたのは、いたって普通の、よくテレビとかで見ていたヨーロッパの狭い路地裏によく似た小道だった。

 左右には、普通に人がすんでいるのだろう、洗濯物が干してある家がちらほら見えた。


「普通だからって油断しちゃだめだよ?

 この道には、怖くて大きなハウンドがいるんだから…」


 緊張した声音でそう言いながら、レナはゆっくりとした足取りで小道を進んでいく。

 レナの緊張が伝染したのか、俺もすこしだけ緊張しながら、レナのカバンの縁を強く握りしめた。


(ハウンドなんて、いるわけないじゃないか…)


 そう思いながら、小道を進んでいくと…。


「バウワウワウ!!」

「きゃあああああああああ!?」

「うおあああああああああ!?」


 突如右側からした大きな鳴き声に、俺とレナは同時に悲鳴を上げる。

 その声は確かに、ハウンドと言われても差支えはないように感じた。


 が。


(ハウンドなんて、いるわけなじゃないか!?)


 大人のプライドなのか、何故か俺にはそんな考えしか頭に浮かばなかった。

 俺は、勇気をだしてバッと顔を上げて鳴き声の方を見た。


 そこにいたのは、美しい銀の毛並みの狼だった。


 いや、狼ではない。

 美しく柔らかそうな毛並み、狼を想わせる精悍な顔貌。

 青灰色の鋭い瞳が、レナを射抜くように見つめていた。


「シベリアンハスキーだ…」


 思わずそう、口に出していた。

 もしかしたら、この世界では違う言い方をするのかもしれないが、狼によく似たその大きな犬は、間違いなく、前の世界で言うところのシベリアンハスキーそのものだった。


 なにあれ超かっこいい。


 体調は五十~六十cmくらいだろうか。

 確かに小さな子どもからしてみたら、巨大なハウンドだと思っても仕方ないだろうな。


「(いつもいつも、面白い反応をしてくれる幼女だよなぁ)」

「え…??」


 笑いを含んだ低い声が聞こえた気がして、俺は思わず辺りを見回す。

 けれど、この小道にいるのは俺とレナ、そしてこのシベリアンハスキーだけ。


(今の声は…?)


「ニール!早く逃げよう!」

「うおっ!?」


 レナが走りだしたので、俺はそれ以上その場に留まっていることが出来なかった。


「ウォン!!(また来いよ、幼女に変な人形くん)」

「!?」


 シベリアンハスキーが、ウィンクしたような気がした…。





「無事、学校に到着!」

「ここが学校か?」

「うん、小学校だよ!」


 何でそんなところだけ日本じみてるんだよ。

 俺は、レナが小学校と言った建物をまじまじと観察した。


 外観は、俺が前の世界で昔通っていた小学校とさして変わりはしなかった。


 三階建ての校舎に、そこそこ広い校庭。体育館のような建物もあるし、遊具も充実しているように見えた。

 少し俺の記憶と違うところといえば、小学校とは別にもうひとつ四階建ての校舎が同じ敷地内にあることと、どちらの校舎にも、屋上部分に巨大で美しい金の鐘があることくらいか。


「あっちのは中学校だよ。

 小学校に六年いくと中学校に行けて、中学校に三年いくと王都の学校に行けるんだよ!」


 どこの義務教育だよと突っ込もうと思ったが、校門の前に見知った二つの顔が見えたので、俺はその言葉を飲み込んだ。


「あ、レナにニール。おはよう」

「レナ、ニール。おはようございます。ニールも学校に来たんですね」


 校門にいたのは、昨日紹介されたレナの幼馴染のキースとシルヴィだった。

 レナを待っていたのか、姿が見えると、嬉しそうにあいさつしてきた。


「おはよう二人とも!今日はニールにも学校を見てもらおうと思って!」

「おはよう。朝いきなりレナに捕まってさ…」


 ハハハ…と力なく笑えば、二人はあー…と納得したような声を出した。

 どうやら思った通り、この三人はレナをリーダーとしているようだ。

 強引だし仕切りたがりだが、そういうところが、時にリーダーには必要なのだろう。


「ニール、先生にみつからないようにね」

「え?なんで?」

「なんでって…普通学校に人形もってこないよ…」


 キースが呆れたように言うまで、俺はその事実を失念していた。

 人形とは、便利なのか不便なのか…。





 教室もやはり普通だった。

 少し以外だったのが、結構生徒数がいることだ。

 北の大都市というくらいだから、それなりに人数はいて当然なのだが、一学年五クラスはそこそこいるほうだろう。


 俺は、キースに言われた通り、教師に見つからないようにカバンの中で身を潜めていた。


「では、今日は前回の復習からしましょうね」


 優しげな女教師が、そういって黒板に文字を書き始めた。

 黒板に書かれた文字は、『魔石と魔法の違いについて』


(そんなことを学校で習うのか…)


 これは、以前の世界とは違うものだ。興味がわかないワケがない。

 それに、俺もこれからはこの世界で生きていくのだから、知っておいて損は無いだろう。


 俺は、カバンから少し身を乗り出して、教師の言葉に聞き入った。


「そもそも魔石とはなんですか?シルヴィ・ペルチエ、答えられますか?」

「はい、先生」


 名指しされたシルヴィは、嫌な顔ひとつせずに椅子から立ち上がる。


「魔石、とは、精霊の力を凝縮した特別な石を加工したものです。

 魔石専用の練磨師が、王都で作っていると、前回聞きました」

「その通りです。

 魔石は、魔力を持たない、私達一般市民には無くてはならないものです。

 例えば、ここに火の魔石があります。これを…」


 女教師は、ルビーのように、赤く美しい、ひし形に加工された石を取り出した。

 大きさは、せいぜい爪くらいだ。


 教師はその石を放り投げると、どこに隠していたのか小ぶりのナイフでそれを空中で砕いた!


 すると。


 ボッ!!


『きゃああ!?』

『うわああ!?』


 目の前で小さな火花が出たことに驚いたのか、教室のあちこちからどよめきが湧いた。

 俺も少し悲鳴をあげたが、子どもの声にかき消されて教師には聞こえてないようだ。

 よ…よかった…少し恥ずかしかった…。


「はい、静かに。 

 このように、魔石は魔力を持たない人でも簡単に使うことができます。

 しかし、威力は、本来の魔法には遠く及びません。キース・ヒンクリー」

「は、はい!」

「こちらへ、これを持ってください」


 キースはオドオドしながら、教卓の前まで出て行く。

 何だ?一体なにが始まるんだ?

 俺がレナを見ると、レナはなにか知っているのか、しーっと指を口の前にもってきた。


 見てれば何かわかるのか?


「キース。いいですか?抑えるのですよ?この教室を火の海にはしないように」

「う…は、はい…」


 キースは、やや緊張した面持ちで、魔石を手に取る。

 先程よりも更に小さな石は、キースがぎゅっと握ると、赤く輝きだした。


「おぉ…!?」


 思わず声を出してしまったが、それほどまでに、その光景は現実離れしていた。

 光がみるみる大きくなり、ゲームなどでしか見たことのない魔法陣を刻みだしたら、誰だってそうなるだろう。

 

 俺はなった。


「元々魔力を体内にもっている人は、このように魔石の力を一般人以上に引き出すことが出来ます。

 魔力を持っているのは人間ではほんの一握りですが、亜人、特にエルフのような優性生命に多く見られますね」

「キースって、魔法使えるのか?」


 俺がこそっとレナに声をかけると、俺の持ち主は無言のままコクンと頷いた。

 なるほど、それであの光というわけらしい。


 魔法使いとか超かっこいい。うらやま。

 

「キース、もういいわよ?」

「…」

「キース…?」


 しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

 キースの様子がおかしい。

 ブルブルと震え、冷や汗が止まらない。


「先…生…、ごめんな、さい…」


 泣きそうなキースの声に、女教師は何かを察したのか、キースの肩を強く掴んだ。


「キース!落ち着きなさい!息をして!先生を見なさい!」

「先せ…レイラ先生…!」


 赤い光がどんどん大きくなっていく。

 これは…よく二次元ものにある魔力の暴走というやつか!?


「レナ!水持ってこい!バケツに!急げ!」

「う、うん!」

「レナ、私も行きます」


 レナとシルヴィが、俺の声に反応して慌てて教室を出て行く。

 俺は、赤い光に怯えて固まっている生徒達がいる教室の中を走り、キースの前まで行く。


 教師に見つかるとか、正直どうでもよかった。


「え!?人形が…!?」

「キース!落ち着け!こんなときどうすればいいか俺は知らねいけど、とにかく落ち着け!」

「ニー…ル…!」


 俺は、綿しか詰まっていない小さな手で、キースが魔石を握っている手を叩く。

 とても熱くて、俺の布で出来た手はあっという間に焦げたが、構わずキースに声をかけ続ける。


「お前ならできる!大丈夫だ!魔法使いなんだろ!?だったら自分の魔力くらいコントロールしてみろよ!」

「ニーブフッ!!」


 俺に何か言おうとしたキースは、しかし真上から掛けられた水にその声を遮られてしまった。

 見事に、俺とキース、そして女教師はずぶ濡れ。

 見ると、教室の出入口のところで、バケツを構えたままの体制で、シルヴィが立っていた。


「シルヴィ、豪快すぎるぞ」

「いいえ、まだです」

「えゴボッ!?」


 なぜかまた、水をかけられた。

 よく見ると、出入口の向こうの廊下には、後三つほどバケツが用意されていた。


「そんなに持ってこいなんて言ってないだろ!?

 俺は石冷やせればよかったの!」

「そうなのですか、申し訳ありません」

「あ、あなた達…」


 女教師はわなわなと肩を震わせた。

 あ、やっべぇ。


 俺はこの瞬間に初めて、教師の前に出てきたしまったことに気づいたのだった。





 とりあえず、今日の授業はボヤ騒ぎのせいでナシになった。

 ついでにレナは、学校に人形を持ってきたことに関しても厳重注意だったが、その人形のおかげで被害がなかったのだからよしということで、大して怒られてはいなかった。


「でももうニールを連れてきちゃダメなんてひどいよねー」

「いやいや、それが普通だからな?

 いくら俺が生きてるからって、家族を学校には連れてこないだろ?」

「うー…それもそうだね」

「あの、さ、ニール…」


 俺たちの少し後ろを歩いていたキースが、申し訳無さそうに声をかけてきた。

 立ち止まり振り返ると、今にも泣きそうな顔で、キースは俯いていた。


「ん?」

「その…手、ごめん…」

「あぁ、気にすんなって。直してもらえばいいんだし、お前こそ、怪我なくてよかったな」

「う、うん」


 安心したのか、その顔に笑顔が戻る。


「それにしても、魔法使いかー。キースって意外にすごいやつだったんだな」

「魔法使いって…魔法が少し使えるだけだよ」

「でも普通の奴には使えないんだろ?

 俺もどうせなら、魔法が使えるようになりたかったなー…」


 転生ってそういうものかと思っていた。

 すごい魔法使いで、チート機能全開で異世界を奔走する、みたいな。


 そう考えると、人形ってなんの意味があるんだよ…。


「魔法、すごいと思う?」

「え?あぁ、もちろん」


 俺がそういうと、キースは少し驚いた様子だったが、それ以上は何も言わなかった。




 その夜。

 アドリーヌに手を直してもらった俺は、屋敷を抜けだしていた。


 ある程度自由の聞くこの手は、窓の鍵も開けられるし、木だって登れる。

 そんな風にして俺が向かった先は…。


「なぁ…」

「ヴォウ!?(え!?人形が動いてる!?)」

「やっぱり。なぁ、アンタ」

「ヴォフッ?(え!?俺に言ってる?)」

「そう、アンタだ。シベリアンハスキー」


 そう、俺がいたのは、昼間のあのシベリアンハスキーの所だった。

 あの時聞こえた声が、こいつじゃないかと思ったんだが、どうやら正解らしい。


 シベリアンハスキーは、少し驚いた風だったが、やがて何かを理解したのか、地面に寝そべった。


「ヴォフゥ…。(なるほど、お前、転生しただろ?)」

「へ!?」

「ヴォフッ(隠さなくていい。俺と意思の疎通ができるっていうのは、そういうことだ)」


 意味が分からなかったが、俺は素直にシベリアンハスキーの言葉を聞くことにした。

 こいつはなにか知っている…そんな、妙な確信があった。


「ワフッ(まず良いことを教えてやろう。転生したもの同士は、たとえ種族が違くても意思の疎通ができ     る)」

「え…ってことは!?」

「ヴォフッ(あぁ、俺もこの世界に転生したんだ。五年前にな)」


 このシベリアンハスキーも、俺と同じ転生した人間…。


「ワフゥ(この世界に転生したやつらは、みんななにかしら役割を持ってるんだ。

     それはどんな生物に転生しても変わらない)」

「え…?」

「ワンッ(それを聞きに来たんだろ?なんで自分は転生なんかしたのかって)」


 全くその通りすぎて何も言えなかった。

 なにこのシベリアンハスキーかっこ良すぎるだろ。


「その、役割っていうのは?」

「ヴォフゥ(さぁ、それは人それぞれだからな。自分で見つけるんだよ。

      ひとつ言えることは、それを見つけられた時、お前は本当の意味で、この世界の住人

      になれるってことだ)」

「本当の意味での…住人…」


 自分の役割とは一体なんだろう…。

 それも聞きたかったが、目の前の銀の毛並みの持ち主は、これ以上は教えられないとでもいうように黙りこくってしまった。


 俺は仕方なく、今日は帰ることにした。

 また来て、色々話しを聞けばいい。時間はいくらでもあるようだし。


 あの屋敷にいれば、きっと俺の役割とやらも見えてくるだろう。





 そんな甘いことを考えていたら、二年の月日が経ってしまった。

 

 




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