表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形に転生した俺の話でもしようか  作者: リート
一章:人形に転生したらしい
6/6

5:幼女誘拐は犯罪なんだぞ!?

 アクシデント発生。

 俺がこの異世界に転生してから、なんと二年もの月日が経ってしまった。

 その間何をしていたかといえば、この世界についての知識を得たり(主に読書で)、人形の体でどこまでやれるのか(山を登ったり川を泳いだり)を試したり、例のシベリアンハスキー、名前を『レフ』というのだが…に、前の世界の思い出話などをしていた。

 この世界について教えてくれたのも、大体はレフだ。 


 え?ニートじゃないかって?

 うるさい黙れこっちはまだこの世界では二歳だぞ。

 断じてニートではない……断じてだ。


 俺は屋敷の手伝いなどもしているので、まぁニートではない。

 威張れることでもないが……。


 今もその手伝いの最中だった。


 今日の手伝いはお使いだ。

 しかし、俺に大きなものが持てるはずもなく、お使いと言っても、伝言係みたいなものだ。


 この世界には携帯のような連絡手段がないからな。そのへんは不便だと思う。


「先せーい、いるかー?」

「おやニール、今日はなんの用かね?」


 俺の今日のお使いは、この街で一番大きな診療所に薬のお願いをすることだった。

 アドリーヌが俺にくれた大切な仕事だ、完璧にこなしたい。


 あぁ……これって、社畜精神なのかな?


「また、アドリーヌさんのお使いかい?」


 優しい風貌の老人医師は、俺を見ても別段驚きもせずに、ニコニコとメモの用意をする。


 この医師に限らず、この街の人間は、この二年でだいぶ俺に驚かなくなった。

 というよりも、俺が暇だったから街を歩いていたせいで、みんな慣れたのだ。


 最近では、声を掛けてくれる住人も増えてきて、正直うれしい。


「あぁ、なんだか今月はやけに咳がでるらしんだ。だから咳止めの薬も追加してくれないか?」

「最近気温の変化が激しいからね、わかったよ。じゃあ明後日また来てくれ」

「りょーかい!」


 これで任務は完了だ。早く帰って報告しなければ。

 俺は、老人医師にあいさつをして、病院を後にした。




 この二年で分かったことがいくつかある。


 まずは俺について。

 前にも言ったが、俺には五感がある。前の世界にいた時と同じようにだ。

 だから、腹も減るし眠くもなる。もちろん食事だってできる。

 だけど、食べた物が排泄されない所をみると、どうやら体の中でエネルギーとして分解されてるのではないのかというのが、俺が建てた仮説だ。


 ちょっと中二病くさいかもしれないが。


 そして、この街のこと。

 この街はとても平和だが、街の外には異世界にはお約束の『魔物』がいるらしい。

 らしい、というのは、俺がまだこの街の外に出たことがないからだ。

 街の外で活動するのは、街の衛兵団や行商人くらいらしい。

 普通の一般人は、自分の街から出ずに一生を過ごすことも珍しくないのだという。


 この二つが、この二年で俺が理解できたことだ。


「あ、ニール、いいところに」

「え?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには温和そうに表情を緩ませる薄い金髪の中年と、その後ろに立っている赤い髪の青年がいた。


「エラルドにアルトじゃないか。こんな街中で会うなんて珍しいな!」


 それは、俺を作ってくれたアドリーヌの夫、エラルド・ニコロ・フィルコニックと、その息子のアルトニーヴァ・ヴァスコ・フィルコニックだった。

 エラルドはこの街の領主なので執務室にいることが多く、アルトは一応衛兵団に所属しているので、衛兵の駐屯地にいることがザラなので、こんな街中で会うなんてめったにないことだった。


「あぁ、ちょっとした仕事でね。ニール、悪いんだが、レナータを迎えに行ってもらえないかな?」

「え?俺が?」

「ちょっと家の者が皆手が離せなくてね……。頼まれてくれないか?」


 普段は領主邸の誰かが学校へ迎えに(という名の尾行)をしているのだが、今日はそれが出来ないらしい。

 エラルドの言う"ちょっとした仕事"ってなんだ…?


「それは別にいいけどさ……」

「そうか!それじゃあ、頼んだよ!じゃあ行こうか、アルトニーヴァ」

「はい、父上」

「え!あ、ちょっと!?」


 仕事の内容を聞こうと思ったのだが、俺が了承すると、エラルドはとっとと街の中央の方へと歩いて行ってしまった。

 そんなに急ぎの仕事なのか……?


「ニール」

「?……アルト?」


 アルトは身を屈めると、なるべく俺に近づいて小さく耳打ちをした。


「レナータをしっかり守ってくれ」

「は?」


 なんのこっちゃと聞き返そうとしたが、それだけいうと、アルトもエラルドを追って行ってしまった。


 何が何やらわからないまま、ひとまずレナを迎えに行こうと、俺は学校へと迎えに向かった。




 この二年で分かったことがもう一つだけあった。

 俺は、レナのいる場所を感じ取ることができるようだ。

 なんとなくだが、レナはあそこにいるな…とか、レナが帰ってきたな…とかが分かる。

 

 なぜかとアドリーヌに一回聞いてみたところ、俺がこの世界に転生した一番の理由がレナで、俺自信、レナを大切に想っているからではないかということ。


 なんだかむず痒いが、そういうことらしい。


「ニール!?迎えに来てくれたの!?」

「あぁ、そうだよ。カバンに入れてくれ」

「うん!」


 だから、レナが学校から帰るタイミングも、なんとなく分かるというわけだ。


「今日はね、キースが魔法を見せてくれたんだよ。また上達してるって、先生が褒めてた」

「キースは魔力が高いからな、将来は魔法使いになるんじゃないのか?」

「かっこいいよねー。わたしも魔法が使えたらよかったのに」


 他愛のない話しをしながら、領主邸までの道を歩く。


 あれから二年、十二歳になったレナは、順調に成長していた。

 背も二年前に比べればだいぶ伸びたし、顔もなかなかに可愛らしくなってきたと思う。

 胸は……うん……。言わせるなよ……。


「そういえば、今日は何で迎えに来てくれたの?」

「エラルドが迎えに行けってさ。なんでかは知らないけど」

「お父様が?ふーん……」


 微妙に腑に落ちない表情だが、俺が迎えに来て嬉しいのかそれ以上は特に詮索もせずに、まっすぐ領主邸まで向かった。


 いや、向かっていた、だ。


 ガサッ。


 俺達が歩いていた小道の脇の垣根のようなところから、そんな音がして、続いて何か黒い影が飛び出してきた。


「きゃっ……!?え……?」

「お、狼!?」


 他愛もない話しをしながら家に向かう俺たちの前に現れたのは、一頭の大きな狼だった。

 銀に近い青い毛並みをした狼は、ゆっくりと俺たちに…レナに近づいてきた。


「なんでこんな街中に狼なんかいるの……?」

「レナ!あぶねぇって、逃げろ!」

「う、うん!あ……」


 街中に狼がいることも問題だが、俺の一番の心配は、この狼がレナを傷つけることだ。

 とにかくこの場からレナを逃したい一新でそう叫んだが、もう遅かった。


 いつの間にか、俺達は大勢の狼に囲まれてしまったいたのだ。


 異変に気づいた街の住人たちは助けようと近づいてくるが、狼に怯んで手が出せないようだ。


「こ、こないでよぉ……」

『アンタを傷つけるつもりはない。ただ、俺達と一緒に来て欲しい』

「え……?」

「狼が、しゃべった……?」


 レナも驚いている所を見ると、どうやら転生した狼というわけではないらしい。

 じゃあ一体……?


『連れて行くぞ、お前たちも後から来い』

「え?きゃああああ!?」


 狼はパクッとレナの服の首根っこを咥えると、そのままの体制で勢い良く走りだした!


 ちょちょちょちょ!?これはよくないんじゃないか!?

 これは俗にいう誘拐というやつに当てはまるだろ!?幼女誘拐は犯罪なんだぞ!?


 俺は混乱しながらも、どうすればレナを救出できるか思考を巡らす。

 要はこの狼がレナを離せばいいんだ。口を開かせるには…。


 俺は頭に刺さりっぱなしのマチ針に手を添える。


 この二年、一回も自分で抜いたことは無いこのマチ針が、どれほどの効力を発揮するか正直分からないが、前世の記憶上、これで刺せば多少のダメージは与えられることは知っている。


 俺は、レナのカバンから這い出し、勢い良く走っている狼の喉元でマチ針を抜いた。


「レナを、離しやがれ!!」

「いっつ……!!?」


 マチ針は見事に狼の喉を突く。

 と言っても本当にマチ針の威力なんぞたかが知れているが、それでも狼の口を開かせることには成功した。

 しかし、走っていたスピードのまま口を開かせてしまったので、俺とレナは勢い良く空中に投げ出されてしまった。


「レナ!!」


 このままではレナが地面に叩きつけられてしまう。

 そう思ったら、つい腕が伸びていた。


 届くはずのない腕は、しかしなぜかしっかりとレナを抱きしめ、しのまま俺の背中から地面に落ちるような形となった。


「いてて……レナ、大丈夫か?」

「う、うん……大丈夫だよ、ニー……ル……?」

「え?なんで疑問形なんだレ……」


 そこまで言って、俺も自分の異変に気がついた。

 まず目線が高い。尋常じゃないほどに。ていうかレナよりデカイ。


「え……?」


 慌てて手を見ると……布じゃなかった。

 それは間違いなく人間のそれで、確かにちゃんと感覚もあった。

 その手には、木刀ほどの大きさに巨大化したあのマチ針が握られていて……。


 俺は、人間の姿をしていたのだ。


「え?え……?」

「ニール……?きゃあ!!?」

「ッ!?レナ!」


 呆然としているところで、レナの体がまた宙に浮く。

 慌てて立ち上がり視線をそちらに向けると、先ほどの狼ではなく、今度は人が立っていた。


 いや、人というにはなんとも形容しがたいが、それは人の形をしていた。

 ただ、耳だけが、狼と同じ形の、青い髪をした十八歳くらいの青年が、レナを小脇に抱えて立っていた。


「お前、どこから湧いて出やがった……」


 しかし、その声は先ほど俺たちを咥えていた狼の声と同じもので。

 俺は、アルトに聞いた種族のことを思い出していた。


「じ、人狼ってやつ、か?」


 人と同じ形を取り、狼の血をその身に宿す種族、人狼。

 話には聞いていたが、実際にこの目で見るのははじめてだった。


「は、人狼のことをしってるのか。なら、分かってるんだろ?」


 人狼の青年はレナを抱えたまま、ペロリとその喉から出ている少量の血を指で拭って舐める。


 人狼は、とても好戦的で主食は主に肉食。まれに人間を襲いその肉を食らう。

 戦闘能力は人間を遥かに凌駕する……。


(って、アルト言ってたよなー!!?)


 しかし、ここで引くわけには行かない。

 俺は巨大マチ針を、生前の高校の時に授業でやった剣道を思い出しながら構えてみる。


「レナを離しやがれ!」


 ブンッとマチ針を振り下ろすと共に、ボフンという音が同時にし、俺の体は何故か宙を舞った。

 そのまま、ポスンと狼青年の手の平に落ちる。


 なぜ……?


「お前、マジで何なんだ?まぁいい。さて、どういたぶってやろうか?」


 なんでこのタイミングで人形の姿に戻ったんだ俺ええええええええ!!!


「ちょっ待て待て待て!!離せ!!話しあおう!!」


 いくら人形の姿でもがいたって意味がなく。俺は狼青年の手の中で為す術もなくもがくことしか出来なかった。


「唸れ爆炎、この手に来たれ。ファイアーボール!」

「ぐっ……!?」


 もうダメだ、そう思うと共に、狼青年の腕にソフトボールくらいの大きさの火の玉が当たり爆発した。


「うわっ!?」

「ニール!」


 また地面に落ちると身を強ばらせるが、体は地面に落ちること無く小さな手に受け止められた。


「よかった、大丈夫?」

「え!?キース!?お前何してんだ!?」


 俺を受け止めてくれたのは、金髪に青い目の少年。レナの幼馴染のキース・ヒンクリーだった。

 キースは恥ずかしそうにはにかみながら俺を持ち直して立ち上がる。


「レナが攫われそうって街の人たちが騒いでたから、二人で助けに来たんだよ」

「え?二人って……?」


 瞬間、空が陰る。

 その影は音もなく狼青年の背後に降り立つと、ブンッと何かをその首に叩き込んだ。


「な……ん……!?」

「レナを、返してください」


 感情の読めない冷たい声音で、シルヴィ・ペルチエは倒れる青年からレナを奪い取り、自分の隣に立たせる。

 少し、怒っているようにも見えなくもない。


「シルヴィ、お前まで」

「レナ、ニール。もう大丈夫です。もう少しで衛兵の人たちが来ます」


 そう言うと、シルヴィは仲間が一瞬でやられてしまったことに困惑している狼達に模擬戦などで使うような木刀を向けた。

 キースもその隣に並んで手を前に突き出さす。

 腰が引けているのは、この際黙っていてやろう。


「大人しくしていたほうがいいと思います」

「そういうわけには、行かないんだ!」

「きゃあああああ!?」

「「「レナ!!?」」」


 別の狼の声が合図だったと言うように、物陰から更に一匹出てきた狼が、レナの服の裾を咥えて走りさす。


「待ちなさい!」

「この!」


 咄嗟に、キースが魔法を発動するが、彼の火の玉は足を少し掠めただけで、今度はレナを離すことなく、そのまま街の外へと出て行ってしまった。


「うそ……だろ……」


 レナが、俺の持ち主が攫われてしまった。レナが俺の前からいなくなってしまった。

 それは、この二年で初めてのことだった。


「レナ……」

「キース、ひとまずエラルド様にこの事を報告に行きましょう。

 彼に聞けば、詳しいこともわかるでしょうし」


 相変わらず、感情は読めないが、その声は心なしか震えているように感じた。

 彼、とシルヴィが言った人狼の青年は、シルヴィの一撃で昏倒したままピクリとも動かない。


 不穏な空気を感じながら、俺はマチ針を元の頭に戻す。


 とにかく、このことをエラルドに知らせなければ。

 娘が誘拐されたとなっては、ただごとではないのだから。


 住人の通報でやってきた衛兵が来たのは、その直後のことだった。

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ