3:子ども相手はめっちゃ疲れる
幼馴染との対面
「ニール、今からわたしのお友達に、アナタを紹介しに行くよ!」
「え?紹介…?」
アドリーヌの部屋から出たレナータ…レナが向かった先は、自分の部屋ではなく、なぜか一直線に家の外だった。
正門らしき場所を抜けると、目の前に広がったのは、いつかテレビで見たようなヨーロッパを思わせる白いレンガの町並みだった。
これが、北の大都市『フィルコニック』。
レナの家は、この街でも一番高い場所に位置しているようで、正門から街がよく見渡せた。
「うん、私の新しいお友達を、みんなにも紹介してあげるの。
あ、わたしが紹介するまで、しゃべっちゃだめだよ?
びっくりさせたいからね!」
「はいはい、わかったよ」
いかにも子どもらしい発想に、俺はつい苦笑する。
まったく、異世界とは言っても、子どもというのは変わらないらしい。
「じゃあしゅっぱ~つ!
まずは『ヒンクリー製菓店』だよ!」
製菓店…?
どうやらこの世界にも、ケーキやクッキーといった甘味が存在するらしい。
それが、なんだか今の俺には、少し嬉しかった。
ようやく、前の世界との共通点を見つけたような気がしたんだ。
領主邸から出ると、街が坂のような状態でできていることが分かった。
この街はどうやら、山の上や斜面に家を建ててできていったようで、街が山そのものの形をしている。
海が近いのか、時々潮の香りがすることに気づき、この体でも五感が存在することに少し感動した。
「レナ、ここは北の方にあるんだよな?雪がないように見えるんだけど」
「あはは、雪は冬に降るものでしょ?今は夏だもん、雪は降らないよ」
今は夏なのか。
北国だからか、俺の知ってる夏よりも涼しくて気付かなかった。
しばらくレナの頭の上で揺られていると、屋台のような出店のようなものが多く立ち並ぶ場所に出た。
野菜や魚介類、花やアクセサリーなんかも売っているようだ。
「ここが街の市場だよ。
毎日商人さんや行商人さんたちが来て、ものを売ってくれるの。
屋台以外にも、いっぱいお店があるんだよ!」
「へぇ…すごく大きな市場だな…」
「北の大都市だからね!」
意味が分かっているのやら分かっていないのやら。
レナはなぜか得意気に鼻を鳴らすと、一つの店の中に入っていった。
ショーケースには所狭しと並べられた色とりどりのケーキや焼き菓子…。
どうやらここが、目的地の製菓店のようだ。
甘い香りが、店内に充満している。
「『キース』!キースいるー!?」
突然、レナが店先で大声を出す。
察するに、どうやら誰かを呼んでいるようだ。
店で製菓をみていた客達も、何事かとレナを見るものもいれば、いつものことだと苦笑している人もいる。
どうやら観光客と街の住民の反応の差のようだ。
「レナ?どうしたの?」
レナの声を聞きつけて奥から出てきたのは、レナと同い歳くらいの少年だった。
レナよりも薄い金髪に、空のように青い目。
男の俺から見ても、美少年と言っても差支えがないほど美しい少年だった。
別に俺はホモではないが。
「ねぇキース。紹介したい人がいるから、お部屋に上がらせて!」
「え?ぼくの部屋でいいの??」
少々困惑しながら、少年…キース首を傾げた。
それはそうだろう。
本来、人を紹介したいから部屋に入れろなんていい方は普通はしない。
まさかこの少年も、紹介したい人が少女の手の中にいるとは考えもしないだろうし。
店の前で話していると、背後のドアベルが鳴った。
レナがそちらに体を向かせたので、必然的に俺も入り口の方を見る形となった。
店に入ってきたのは、これまたレナと同い年くらいの、しかし、キースとは異なり女の子だった。
長い灰色の髪を無造作に下ろした、これまた美がつくほどの美しい少女だった。
いや別にロリコンってわけでもないけど。
少女は片手に財布を持ってドアの前でその金の瞳を不思議そうに瞬かせた。
「レナ、キース、お店の前で何をやっているんですか?」
歳に似合わない丁寧な物言いに少し違和感を感じたが、レナとキースはそんな慣れているのか気にした様子もなくその少女に近づいた。
「『シルヴィ』!ちょうどいいところに来たね!」
「ちょうどいい?何のことでしょうか。
私はただ、お母さんに頼まれて、クッキーを買いにいただけですが」
「いいからいいから!シルヴィもキースの部屋に来てよ!」
いうが早く、レナは俺をスカートのポケットの中に入れてから、ガシッと二人の手を握ると、二人の意見を聞くこと無くズルズルと二人を引きずって店の奥へと入っていってしまったのだった。
うん、なんとなく、この三人の力関係がわかったような気がするな。
店の奥はどうやらキースの家の住居になっているらしく、キースの部屋らしきところに入ったら、レナはガチャンと鍵をかけてしまった。
人の部屋の鍵を勝手にかけるのはどうかと思うぞ。
「で、レナ。紹介したい人って誰なの?」
「紹介?レナ、誰かを紹介してくれるんですか?」
「ふふーん!びっくりして腰抜かしちゃうんだからね!」
得意げに鼻を鳴らして、レナはポケットから俺を出すと、床にゆっくりと立たせてくれた。
「ニール、こっちがキースで、こっちがシルヴィだよ。
わたしのお友達で、同じクラスなの」
「ニール?レナ、紹介したい人って、このぬいぐるみのこと?」
俺がひとりで立っているのは、そういう構造とでも考えたのか対して気にした様子もなく、キースは不思議そうにまた首を傾げた。
「そうだよ!ニール、自己紹介自己紹介!!」
もうしゃべってもいいらしい。
俺は、驚かれるのを覚悟で、なるべく陽気な感じで口を開いた。
「初めまして、ニールっていいまーす」
「「!!!??」」
予想通りというか予想以上というか、二人は子ども特有の大きな目を更に見開いてバッと俺から距離をとるように後ずさった。
地味に傷つくんだが…。
「な、なななな…!?レナ、レナータ!?
ぬいぐるみがしゃべって動いてるけど!?」
「うん、すごいでしょ!?お母様が作ってくれたんだよ!
私の新しいお友達で家族なの」
レナは、今朝の経緯を二人に話して聞かせた。
所々間違っていたり漏れがあったりしたのを俺が補足しながら説明すると、二人もようやく落ち着いて俺の声や仕草を観察してくれるようになっていた。
「この目は魔石ですね。なるほど、魔石にはこんな力もあるのですか」
興味深そうに、少女…シルヴィは俺の体をつついたり引っぱたりしてくる。
痛みはないが、なんとなく違和感を感じるのでやめていただきたい。
「なんだキース?俺のことが怖いのか~?
しゃべるぬいぐるみなんて怖がってるようなら男の子としてどうなんだよ~」
「こ、怖がってなんかないよ!少しびっくりしただけだし!」
俺が茶化すようにそういうと、案の定キースはムッとした表情で言い返してきた。
うん、男の子だ。
「ええっと、ニール?でいいんだよね。
ぼくはキース。『キース・ヒンクリー』だよ。レナとは幼馴染なんだ。
で、こっちが」
キースがシルヴィを紹介しようとするが、少女はそれを手で制して、座りながら背筋を伸ばした。
「私は、『シルヴィ・ペルチエ』と申します、ニール。
レナとキースとは幼馴染で、私は彼女の護衛を時々任されています」
「ご、護衛!?」
十歳時とは思えない単語に俺が驚くと、キースがクスクスと笑って説明してくれた。
「シルヴィのお父さんが、王都で騎士をやってるんだよ。
その影響で、シルヴィも騎士の真似をしてるんだ」
「真似ではありません。私も大人になったら騎士になるのです」
バカにされたと思ったのか、シルヴィは丁寧な、しかし、どこか怒りを含んだ声音でキースに抗議の声を上げた。
なるほど、子どもらしい発想だと、つい口元に笑みが溢れる。
「ニールは男の子ですか?女の子ですか?」
「え…?男…の子…です…」
享年二十三歳の社会人を、果たして男の子と言っていいのかハタハタ疑問だが、ISで質問されたらISで返さなくてはいけないのだ。(なんか間違ってる気もするが)
でも転生したのは今日だし…ううん…?
「ニールは男の子なのですか、よかったですねキース。
男の子のお友達が出来そうですよ」
「いやいるから。シルヴィぼく男の子の友達いるからね?」
「キース、俺なら年下でも友達になってやるぞ?」
「だからいるってば!そんな目で見ないでよ!
だいたいニール今日生まれたんでしょ!?ぼくのが年上だから!」
ギャーギャーと騒ぎながら、俺は確信していた。
子ども相手はめっちゃ疲れるが、ここで、この異世界で、俺はきっとうまくやっていけると。




