16話
『警告:逆探知プログラムが成立。ハッキング回線を逆流します』
グローバルサーバーのシステムログにその一列が刻まれた瞬間、世界中のダンジョンマスターたちの時間が止まった。
直後、世界ランク1位・北米総督DM【ワシントン】のステータス画面の横に、前代未聞のデバフ表記が躍り出る。
【異常状態:超高熱サウナ(密室拘束・120度)】
世界中のDMが閲覧できる公開ログがこれに書き換わった瞬間、グローバルチャットサーバーは文字通り物理的な爆発を起こさんばかりの衝撃に包まれた。
『は?』
『オーマイゴッド、何が起きた!?』
『ワシントンのハッキングが……逆にハッキングし返されてる!?』
『120度って何だ!? 部屋が燃えてるのか!?』
海外のトップDMたちが驚愕の英文を乱打する中、日本の裏同盟チャット【47】は、かつてないほど手のひらを大回転させた大熱狂に沸き立っていた。
『1太夫:静岡の旦那ァァァ!!! エグすぎワロタwwwww 世界1位をサウナに引きずり込んで蒸し焼きにしてんじゃねぇよwwwwww』
『1太夫:おい見ろグローバルログ!! ワシントンの軍服の耐久値が熱でガリガリ削られてるぞ! ざまぁみろwwww』
新宿の地下街で毎日戦車砲に怯えていた男子大学生・1太夫は、あまりのカタルシスに狂喜乱舞し、液晶画面が割れんばかりの速度でログを埋め尽くしていく。
かつて透を「嘘松」と叩いていた大阪のコンサルDMも、今や完全に目をハートマーク(崇拝状態)にさせていた。
『大阪:これこそが……究極のKPI管理……! 敵のハッキング電波をそのまま導線として利用し、ノーコストで敵本拠地を物理ロックする。黒崎代表、私は生涯あなたを経済の神として崇拝します……!』
『おいでやす:あらあら、120度どすか。アメリカの総督はん、ちょっと茹でダコみたいになってはりますなぁ。うちの冷たい水風呂、いつでも着払いで融通しますえ?(にっこり)』
京都の女将の容赦のないはんなりとした一言が、大炎上するチャットにガソリンを注ぐ。
これまで「日本の温泉カルテルなんて低ランクのフェイクだ」と鼻で笑っていたイギリス、フランス、中国の世界ランク保持者(トップDM)たちも、この圧倒的な『格の違い』を前に一斉に態度を豹変させていた。
『待ってくれ、日本のあの“名無し(静岡)”は何者なんだ!?』
『世界1位の軍事力が、ただの「温度調節」で完封されているんだが!?』
『Shizuoka is GOD.(静岡は神だ)』
『彼に逆らうな、世界中の核シェルターをサウナに変えられるぞ……』
◇
「み、水を……冷たい水をくれ……っ!!」
アメリカの司令室。さっきまで傲慢に椅子に踏んぞり返っていた世界1位の男は、今や見る影もなかった。
高級な軍服を全て脱ぎ捨て、下着姿で床に這いつくばり、茹でダコのように真っ赤になってゼェゼェと荒い息を吐いている。
【因果を統べる聖典】によって空間の因果そのものを『絶対不可壊のサウナ室』へと書き換えられているため、どれほど叫ぼうがUR級の鋼鉄軍団が扉を殴ろうが、一歩も外に出られない。脱水症状寸前、プライドを完璧に粉砕されたワシントンは、朦朧とする意識の中でヤケクソの突入コマンドをタップした。
『結合完了――UR級鋼鉄軍団【アイアン・レギオン】、日本全土へ突入を開始します』
ゴゴゴゴゴ……!!
空間が激しく歪み、日本全土の47のダンジョン入り口が、アメリカの誇る無敵の機械迷宮と完全に噛み合った。
「――門が開いたか。ミミ、お客様の御案内だ」
「了解ですマスター! 世界最高峰の『カモ』の皆様を、最上の笑顔でお迎えいたします!」
透の静かな命に応じ、新しく生まれ変わった極上の美少女姿のミミ――【因果を統べる聖典・アルマデル】が、くすくすと妖艶に笑いながら指先を鳴らす。
殺気立って扉を蹴破り、日本を血の海に変えるべく突入してきた、アメリカの最強鋼鉄ロボット軍団。彼らの一歩目が踏み下ろされた場所に用意されていたのは――48万DPのすべてをベットして作り上げた、どこまでも優雅で温かな『神級大浴場』の湯気、そして彼らの大好物である極上ステーキの自動スパイス解析の香りだった。
「さあ、世界ランク1位。お前たちの『暴力のロジック』を、俺の『極楽のチェックメイト』で溶かしてやろう」
湯上がりの透がビーチチェアから冷徹に見下ろす前で、世界大戦の本戦という名の、最も不条理な「温泉ハメ技」の幕が静かに上がるのだった。




