14話
世界ランク1位、北米総督DM『ワシントン』による【強制包括ダンジョンバトル】の宣戦布告から、決戦まで残り3日。
日本全土のダンジョンが空間結合の恐怖に震える中、透のカルテルは未だかつてない超巨額の防衛投資へと動いていた。
「アメリカの軍隊(暴力)が100の力で突っ込んでくるなら、こちらは1,000の『もてなし(堕落)』で包み込む。ミミ、京都から届いた最新のアセットを展開しろ」
「了解ですマスター! 48万DPを惜しみなく投入した、論理的に最強の極楽空間を構築します!」
ミミが背後の金色の聖典を輝かせると、第3層のプライベートビーチは瞬く間に拡張され、巨大な古代ローマの神殿と日本の伝統美が融合したかのような、超巨大温泉ドーム――『神級大浴場・極楽パビリオン』へと変貌を遂げた。
おいでやすが格安で錬成した『神界の湯(浸かるだけで魔力と疲労が完全全回復するが、代わりに凄まじい眠気を誘う)』を日本全土の47のダンジョン入り口へとシステムリンクで直結。アメリカ軍が突入のために空間の扉を開けた瞬間、彼らの足元は強制的にこの『神界の湯』の洗い場へと接続される。
さらに、大阪のコンサルDMから奪ったスキル【アナリティクス(効率厨)】を、進化したミミの頭脳(聖典)で逆探知・最適化。
「アメリカ兵が最も好む肉の焼き加減」「最もリラックスするBGMの周波数」を完全解析し、侵入者の好みに合わせてリアルタイムで環境が自動変化する『超親切設計』のシステムまで仕込み終えた。
この決戦前夜、世界のDMチャンネル(グローバルサーバー)では、各国のマスターたちが固唾を呑んでこの不条理な戦いを見守っていた。
『日本の温泉カルテルとかいうふざけた組織、アメリカのUR軍隊相手にどこまで持つかな』
『ワシントンのUR【アイアン・レギオン】は、核爆発にすら耐える装甲だぞ。温泉の湯気で錆びるとでも思っているのか?』
『静岡の“名無し”とかいうマスター、初日に1万稼いだだの、東京と大阪を従えただの嘘松ばかり言っていたが、アメリカに勝てたら本物と認めてやるよ』
冷や冷やしながらスレを眺める1太夫(東京)が『静岡の旦那、本当に大丈夫なんですか!?』と書き込む横で、透は「名無し」のまま、静かに一言だけ投稿を落とした。
『静岡(名無し):3日後、アメリカの全軍が我が系列店の“常連客”になる。ワシントン、お前たちの分の極上サウナ(水風呂付き)も空けて待っているぞ』
この不敵すぎる煽りに、グローバルサーバーは文字通り大炎上した。
一方、地上の自衛隊作戦本部テント。
志摩一課長は、静岡のダンジョンから放出される『ハワイの高級リゾートの100倍濃いリラックス魔力波動』を検知し、ついに鼻血を出して倒れかけていた。
「……完璧だ。完璧すぎる。静岡のS級マスターは、アメリカ合衆国の軍隊が『規律と軍令』で動くシステムであることを見抜き、あえてその規律を『極上の快楽』で内側から溶かす“概念破壊兵器”を用意したんだ……! アメリカが負ければ、世界は彼の経済圏にハッキングされる……!」
志摩のプロファイリングは限界を超えて神格化しつつあったが、当の透は、完成した『神級大浴場』の寝湯に浸かりながら、ミミに冷たいフルーツ牛乳を注がせていた。
「準備は万全だな、ミミ」
「はい、マスター。因果の針は100%『極楽』を指しています。あとは、世界最強の軍隊が湯船にドボンと落ちてくるのを待つだけですね」
保有DP:残り12,000 DP(全てを投資した状態)。
しかし、3日後に得られるであろう世界ランク1位からの「滞在ロイヤリティ」は、国家を揺るがす額になる。
知性派の管理者は、世界を揺るがす神世紀のチェスボードを前に、不敵に微笑むのだった。




