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現代日本のダンジョン運営  作者: 豆大福


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9話

「あらあら、静岡の旦那はん。わざわざ直々にご連絡をいただけるなんて、うちは果報者どすなぁ」


裏同盟チャット【47】の個人通話機能。そこから聞こえてくるのは、鈴を転がしたような、おっとりとした極上の京都弁だった。


京都『数寄屋迷宮(みやび・パレス)』の主であり、現実世界では老舗旅館の現役女将を務める『おいでやす』。

透がビーチチェアに深く腰掛けたまま、端末越しに口を開く。


「いつも質の良い物資やサンプルを格安で融通してもらっているからな。その礼を言いたくてね。……今朝届いた近江牛のハーブBBQも、ミミが非常に喜んでいた」


「それは何よりどす。うちのスキル【マテリアル・錬成】は、戦う魔物は呼べまへんけど、美味しいものや綺麗な着物なら、10分の1のDPでなんぼでも生み出せますさかいに。静岡の旦那はんに喜んでいただけるのが、うちの一番の防衛策どす」


お淑やかな口調の裏にある、経営者としての冷徹な計算。


彼女は知っているのだ。世界初、人類絶滅級の危険度『S』に指定された静岡のマスターを「お得意様」にしておけば、自分のダンジョンが危機に陥った時、最強の『盾』になってくれるということを。


「ふんす! おいでやすさん、お肉のクオリティは論理的(ロジック)に評価しますが、マスターの胃袋を掴むのは私の管理義務です! 次回は我が方から、大阪のコンサルDMからカツアゲした最新の『調理魔導具』のデータを送りますので、相殺(トレード)としてください!」


透の隣で、水着姿のミミがページをパタパタと鳴らしながら通話に割り込む。少し頬を膨らませて嫉妬混じりに対抗意識を燃やす相棒の姿に、通信の向こうの女将は「あらあら、可愛いお嬢さんやこと」と、楽しそうにクスクスと笑った。


「そうどす。静岡の旦那はん。お礼と言ってはなんどすけど、うちの旅館の『おもてなしのシステム』、旦那はんの迷宮にも組み込んでみまへんか?」


「おもてなしのシステム……? 罠ではなくか?」


「ええ。人間っちゅうのは、恐怖だけで縛るよりも『極上の居心地の良さ』を与えた方が、自ら進んでそこに長く滞在してしまうものどす。うちの旅館も、一度泊まったらチェックアウトしたくなくなる、と評判どすえ?」


おいでやすから提示されたその『もてなしの設計図』を【チェス・マスタリー】で解析した瞬間、透の脳内に電流が走った。


「……なるほど。これは盲点だった。完璧な『チェックメイト(詰み)』の逆転(ギャンビット)だ」


これまで透は「嘘の情報」で人間を騙し、落とし穴にハメ殺してきた。だが、おいでやすの提案はその真逆。


侵入者(冒険者)に対して、あえて完璧に安全で、地上より遥かに豪華な『休息エリア(高級老舗旅館)』をダンジョン内に提供する。

傷ついた冒険者が「ここは安全なボーナスエリアだ!」と歓喜し、ふかふかの布団で眠り、温泉に浸かり、極上の料理を食べる。


そのリラックスしている時間、彼らからは絶え間なく『滞在DP』が吐き出され続ける。しかも、精神が完全に安定し、歓喜している状態の人間からは、恐怖している時とは別のベクトルで、上質なDPが長期的に、そして平和的に回収できるのだ。


「戦わずに、生かさず殺さず、ただ『極上の贅沢』で人間を骨抜きにしてDPを骨まで搾り取る……。これこそが、最凶のデスゲームだな」


「まあ、人聞きの悪い。うちはただ、お客様に喜んでいただきたいだけどすえ?」


おいでやすはフフ、と妖艶に笑う。

透は即座においでやすから『高級温泉旅館の部屋一式』の構造データを買い取り、ミミにスキャンさせた。


潤沢な18万DPを使い、第3層のビーチの横に、突如として『完全安全結界付きの和風高級露天風呂エリア』が創造されていく。

その頃、地上の自衛隊テント。


「――何事だ!? 静岡のダンジョンから、信じられないほどの『魔力のスパ(癒やしの波動)』が検出されただと!?」


志摩一課長は、モニターに表示された異常なグラフを見て、驚愕のあまり椅子から立ち上がった。


危険度Sの最凶迷宮から放たれたのは、破壊の波動ではない。人間の精神を極限までリラックスさせる、極上のヒーリング魔力。

志摩はガタガタと震えながら、再び深すぎる誤解を展開する。


「……恐ろしい。静岡のマスターは、ついに『精神汚染兵器(サイコ・ウェポン)』を完成させたのか……! この波動を浴びた地上波の人間は、戦意を完全に喪失し、自ら進んでダンジョンへ奴隷のように囲い込まれてしまう……! なんて悪魔的な精神支配だ……!」


実際には、透が「……いい湯だな」と、ミミに背中を流させながら露天風呂を満喫しているだけである。


「マスター、お湯の温度は論理的に最適ですか?」


「ああ、完璧だ。……お前、人間の姿のまま風呂に入ると服が濡れるぞ」


「非合理的ですが、これが『もてなしの流儀』と京都のメス……ゲホン、おいでやすさんに教わりました!」


波の音と、温泉の湯気。

裏同盟での繋がりを得て、静岡の不可侵迷宮は、地上を恐怖のどん底に叩き落としたまま、誰にも邪魔されない『至高の極楽浄土』へとその姿を変えていくのだった。


おいでやす(京都)との本格的な内政・経済同盟が結ばれ、ダンジョンがさらにヤバい方向(高級旅館化)へ進化しました!

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