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「「え」」
同時に声が漏れる。
思考が真っ白になる。初めて体験する感覚に戸惑い、呼吸すら覚束ない。
反射的に秀輔の方を見ると、向こうも驚いたような顔でこちらを見つめていた。今きっと俺たちは全く同じ表情をしているのではないだろうか。
「な、に……これ」
「あ……いや、え……?」
衝撃を感じたのが、自分だけじゃなかったことに少し安心しつつ、なにか言おうにも言葉が出てこない。
だって何ひとつ今起きたことが理解できないのだ。口を開くが、何を言えばいいのかわからない。これまで生きてきた中で類似したものすら挙げられないような、とても奇妙な感覚が体を貫いた。
お互いの目を見つめて無言になる。自然と歩みも止まっていて、後ろから同じ学校の生徒であろう集団に追い抜かされていく。
「秀輔、俺……いま、なんか、なんていうか……」
「……うん」
「脳みそ飛び出たかも……」
「……え?」
何とか絞り出した言葉はそんな間抜けなものだった。しかしそれが一番近いのだからしょうがないだろう。
思わず掌で頭を覆う。もちろんどこにも穴なんて開いていないし、しっかりと中身が詰まっているような感覚もする。いや本当のところは分からないけど。感触は普段と変わらない。
けれど絶対に何かが起きたのだ。確かに今、頭の中から何かが抜けていった。
「変なこと言ってるってわかってる!けどそうとしか言いようがねーんだわ!なんか脳みそ分かれて出てった感じ!」
混乱からか思わず声が大きくなる。通り過ぎる学生が何人もこちらを振り返るが、そんなこと気にしている余裕もない。
まさか脳髄が分離なんて、実際にはそんなこと起こっていない……はずだ。けれどそうとしか言い表しようがないのだ。
「え、俺だけ!?今お前も何か起きましたって顔してたよな!?」
半ばすがるように秀輔を見るが返事はなく、何かを考えるかのように顔をしかめて固まったまま動かない。その沈黙に不安が煽られていく。
もしかして同じような衝撃を感じたのではなく、単に俺の声に驚いて目を丸くしていただけなのだろうか。
「まじで俺だけぇ?これも寝てないせい……?なんか言えよぉ……しゅーすけぇ……」
自分でも情けないぐらい声が上ずっていくのがわかる。
しかし、秀輔の反応は芳しくない。顔はこちらを向いているのだが、視線が合わないのだ。視線というか、焦点とでもいうべきかもしれない。少しだけぼんやりとしているような、何か別のものに意識を奪われているような、そんな表情をしている。
「秀輔?」
「あ、うん……ごめん」
何かしらの反応を返してもらおうと秀輔の腕をつかみながら再度名前を呼ぶと、ようやく返事が返ってきた。しかし随分と歯切れが悪い。
じっと目をのぞき込むと、一拍遅れて視線が合う。やはり秀輔も説明できない何かしらの衝撃を感じたのだろう。困惑した顔で何かを言おうとしてはやめるといったことを繰り返している。
「なぁ……脳みそ無事?」
俺はギリかも。そう続けようとした。しかしそれは秀輔にさえぎられる。
「それ……」
「ん?」
「俺に入ってきた、の……かも」
何度か口を開き直した後、恐る恐る自分の考えを確かめるような口調で秀輔から絞り出されたのはそんな言葉だった。
「ん?」
__ああもうほら、秀輔も混乱しちゃってわけわからないことを言ってるよ。
理解できず、先ほど自分がした脳みそ飛び出た発言を棚に上げつつ聞き返す。
「だから、律稀から出てったっていう脳みそ。俺に入ってきたかも」
「ん~~?」
聞き返したらさらに意味が分からなくなった。
俺の脳みそが、秀輔の中に。
そうだよな。俺の脳みそが出てったっていうのにそこら辺に落ちていないってことは、遠くに飛んでない限り収まり先が必要なわけで。それが隣にいた秀輔の中に入るっていうのは、頭部にあるべき脳みその習性としては何らおかしくないわけで……。
いや、おかしいだろ。
本当にわからない。さっきからずっとわからない。多分秀輔もわかっていない。だから全然話が見えないしかみ合わないのだ。
俺たちは今どういう状況で、何をしているのだろう。誰でもいいから説明してほしい。
「なんか今ぶわっ、て なってて……」
俺が処理落ちしそうになってる間にも、秀輔は真剣な表情で自分が今感じていることを必死に言語化しようとしてくれている。
でもお願いだから待ってくれ。俺たちの感じたことを総括すると、今俺には脳みそがなくって、秀輔には二つあることになってしまう。
じゃあ俺が今思考しているこれは何を使っているんだ?遠隔?もしかして脳みそって遠隔操作が可能だったのだろうか。なんていうクラウドサービスだろう。ぐるぐると思考が止まらない。
「ちょ、待って?」
「ごめん映像止まんないから一旦しゃべらせて」
一旦話をまとめようと眼前に手を翳し制止を促す。それでも秀輔はそれを無視してしゃべり続ける。
話したいというよりは、話さないといけない、そんな焦りが表情から伝わってくるような気がした。
「映像?脳みそは?」
俺は秀輔が発した単語を反射的に繰り返す。




