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件は夢を選べない  作者: 弘井 まどり


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「いやいや、ほんとほんと。毎回腰は殴ってたけど」

「え?」


 げんこつというのは確かに言いすぎだったのは認める。起きた時に痛みが残っていたことはなかったし。

 しかし、衝撃は感じていたのだ。優しくかもしれないが小突かれたり、叩くぐらいのことはされていないとおかしいだろう。


「え……?誰かに見られても嫌だから机の下でしか叩かなかったよ」

「あれ?」


 どういうことだ。どうも認識がかみ合わない。


 はたして腰への衝撃が頭まで登ってくることはあるのか。

 あるとするならそれは骨が折れるぐらい強い衝撃になりそうな気もするが、昨日風呂でちらりと鏡に映った腰回りにはあざの一つすらできていなかった。


「……なに?」


 秀輔が胡乱げにこちらに問いかけてくるが、むしろ俺が聞きたいぐらいだ。

 それともなんだ。どこかの方言では頭のことを腰と言ったりするのだろうか。


「や……毎回頭に衝撃を感じて起きてた、気がするんですけど……」

「寝相の問題じゃない?」


 きっぱりと言い切られる。どうやら俺を起こすとき秀輔は本当に頭を叩いていないらしい。田舎の風習を疑ったことを心の中で謝っておく。


 全然腑に落ちないが、衝撃を感じていたのは寝ぼけていた故の勘違いだったのだろうか。

 魘されていたから無意識に自分の頭を叩いていたりするのかもしれない。


「寝相いい方ですー」

「はは」

「え?だよな?」


 明らかな作り笑いが返された。ちょっと不安になるからやめてほしい。


「しらないよ……そんなことより、俺が起こす時だけ?」

「なにが?」

「頭」


 起きた時どんな体勢をしていたかを思い返していると、急に話題が戻される。

 秀輔はどうしてだか頭にこだわっているような気がした。


「えー………………あー……」


 斜め上の方を見て、唸り声をあげながら起きた瞬間のことを思い返す。


 寝起きなんてまだ意識が朦朧としている時間だ。どんなふうに目が覚めているかなんて全然思い出すことができない。

 今週は特にだ。寝不足が重なりほとんどのことが記憶から抜け落ちている。


 けれどそういえば。


「家でも、だったかもしんねえ」

「家でも」

「家でもなんか頭に落ちてきたかと思って起きたことあった気がするわ」


 先週のことにはなるが、そんなことがあった気がする。


 何かに頭をぶつけたような感覚がして目を覚ましたけれど、目を開けてみても周囲には何もなくって、キレながら二度寝をしたような。

 寝不足になりたてで心に余裕がなくって、無性に泣きたくなるのをこらえながら眠りについた日だ。


「それってさ」


 その声につられるようにしてふと秀輔を見た。

 ぱちり、と視線が合う。


「女の子が倒れる原因だったりしないかな」


 前を向きなおすと、奥に見覚えのある大通りが見えた。

 やはり先ほどの道は校門前の大通りにつながっているようだ。


「ビンゴだね」


 つられるように前を向いた秀輔が嬉しそうに笑う。

 なにをすればいいのかいまいちまだ分かっていないが、とりあえず明日はここに来ることができるという安心感から自然と息が漏れる。


「おー、これで明日も迷わず水道行けんな」


 水道の場所を確認して、さらに監視カメラの位置も見た。

 今日できることはすべてやれたといってもいいだろう。


「よかった。じゃ戻ろっか」


 秀輔も頷きながら元来た道へと踵を返す。

 その後をついていきつつも、俺は先ほど途中になってしまった話を引っ張り出してくる。


「さっきのってさー」

「さっきの……頭?」

「あー、そう頭」


 頭というか、女の子が倒れる原因とか言っていたと思うのだが、秀輔の中ではこれは頭の話とタイトルがつけられているのだろう。

 間違いではないのでそのまま続きを促す。


「えっとさ、夢の中で落ちた時とかって体ビクッてなって起きたりするじゃん?」

「ん」

「それと一緒で、夢の中で頭に衝撃を感じたから体がそんな感じの反応した、とか」


 なるほど。それなら秀輔と認識がかみ合わなかったことにも説明がつく。

 夢の内容を覚えていないからちょうど秀輔に起こしてもらっていたこともあり、感じた衝撃を殴られたと誤解してしまったのだ。


「はーん。ありえそー」


 感心していると隣からため息が聞こえてきた。


「お前さぁ……」

「なんだよ」


 そちらを見ると、秀輔が呆れた顔で首を振っている。

 そんな変なこと言ってないはずなのだが、何が引っ掛かったというのだろうか。


 思わず眉間にしわが寄る。


「問題です。ここから予想される説はなんでしょうか」


 やれやれとでも言いたげな秀輔にガンつけていると、妙に改まった口調で突然問題を出題された。

 ここで説という単語が出てきたということは、この話も秀輔にとってはヒントとなる情報だったということだろう。


「せつぅ?えぇ……」


 俺には何もピンときていない。そういうこともあるよな、といった感想だ。

 でも外すのも癪なため、真剣に思考をめぐらせていく。


 秀輔が確認したのは、頭への衝撃で目が覚めるのはいつか、だ。

 それは家でも学校でも。

 でもそうだ。そうやって目が覚めるようになったのは魘されるようになってからになる。じゃあ、それが秀輔の言う通り夢の中で頭に衝撃を感じていたからだとしたら。


「あ」


 俺の見ていた夢は秀輔の見た映像だ。映像は女子生徒視点だったと言っていた。


 それなら__


「映像の中の女子は頭に衝撃を受けて倒れた……?」

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