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「アレって防犯カメラだったりする?」
そんなことを言いながら秀輔が水道のさらに奥を指さす。
目を細めてそちらを見ると、校舎の外壁に寄り添うように一本のポールが立っていた。
なにやらコードが伸びていて、蛍光灯もついていそうだ。外灯のようなものなのかもしれない。
しかし指し示しているのはポール全体ではない。その上の方。蛍光灯の根元のところ。そこに小さなドーム状の黒い機械が取り付けられているではないか。
「……そんな感じする」
最初はぼんやりとしか見えなかったが、距離が近づくにつれてはっきりとそれを視界にとらえることができてくる。
確かにそのポールについているのは防犯カメラのようだった。
かなり慎重に探さなければ見つからないと思っていたのに、あっさりと見つかってしまうなんて。
「こんな簡単に見つかるんだぁ……」
「こっわ……俺たち今まで何を悩んでたん?」
なんだかどっと疲れを感じてしまう。
もちろん、探していたのだから防犯カメラが見つかること自体はありがたい。少なくともこれで、また明日ここに来た時にはどこに注意して行動すればいいのかは把握できた。
けれども先ほども思った通り、拍子抜けもいいところだ。
「でもほら、防犯カメラ問題はさっき話しておいてよかったよ、うん!」
自分に言い聞かせているのだろうか。何度も頷きながら秀輔が無駄に明るく声を上げる。
そうなるよな。俺もポジティブなことを考えないとやってられない。
例えば……今日の俺たちめちゃくちゃ運がいいかもしれない、とか。
「あのさ、変なこと言っていい?」
チベットスナギツネのような表情をしながら防犯カメラを見ていると、一つため息をつき、テンションを戻した秀輔がそう切り出してきた。
「え、だめー」
「これさ」
「あ、はい」
咄嗟に否定してみるが案の定こちらの返事なんてどうでもいいようで、何事もなかったように話が続けられる。
「お膳立てされすぎてるよね」
これ以上進むと防犯カメラに写ってしまうかもしれない。
あのドーム型のものがどれぐらいの範囲を映すのかわからないが、何となく外灯とも水道とも少し距離を取ったまま、俺たちは再び自然と足を止めて見つめ合う。
少し不服そうな目がそこにはあった。
「あー……」
「お膳立てっていうのはまた違うのかもしれないけど……なんていうか……まあ伝われ」
映像を見た。
人が死ぬかもしれない可能性があるのなら、それを阻止しようと思った。
それは自分の意志だったような気がする。
いや、もしかしたらそういう考えを持つであろう人に映像が渡るように誰かが仕組んだのだろうか。
「わかるわかる。俺も何回か思った」
誰かに導かれている、と言うほど露骨ではない。けれど、俺たちが何かをしようとするたびに、次に進むための材料やヒントがちょうどよく用意されているのだ。
真剣に悩んで考えたのがすべて馬鹿らしくなるぐらい……運がいいで片付けていいのか不安になるぐらいうまくいきすぎている。
「俺たちさぁ、いったい何させられてるんだろ」
秀輔の声が少しだけ低くなった。
笑いながら言うことで冗談めかしたつもりなのかもしれないが、声に滲む不信感が隠しきれていない。
「それは……」
うまい返しが思いつかず言いよどむ。
何かを「させられている」。それはこの一連の現象の裏に誰かがいるような口ぶりだ。
__考えないっていうのも案外難しいんだな。
俺は軽く息を吐くと、何とも言えない顔でこちらを見ている秀輔の顔を指さした。
「あれだ。わかるまで考えないし、調べない」
わからないものをわからないまま考え続けても、結局は想像の中で可能性を増やしていくだけだ。
それなら今は考えなくっていい。さっき俺にそう教えてくれたのは誰だったか。
それを思い出させるように同じ言葉をなぞる。
「だろ?」
含みを持たせた笑顔を浮かべ顔をのぞき込むと、その意図を察したのか「あ」と小さく声を上げたのち、秀輔は照れ臭そうに笑った。
「そうだった。うっかりしてた」
「うっかりうっかり」
考えなきゃいけないのも大変だけど、まったく考えないというのも無理な話だ。今だってこの一連の出来事に対する疑問は次から次へと思い浮かんでしまう。
全部そういうものなんだって思うのにも才能が必要なのかもしれない。
でもまあそんなことよりも、今は水道が映像の中のものと一緒か確認するのが先決だ。
なるべくカメラに映らなそうなところを歩いて、大回りで反対側の側面が見える位置まで回り込む。
「あ、ほら見て」
「お」
先ほどまで見ていた面とは逆の水道の横側。
「蛇口。あった」
そこにはしっかりと蛇口が付いていた。
「ビンゴじゃん」
これだけ一致しているとくればもう映像の中の現場はここだと断定してもいいだろう。
無事俺たちは当初の予定通り現場となる場所を知ることができたようだ。
「じゃあここにピン刺しなおしとく」
秀輔がスマホを取り出す。
画面を操作する指を横目に見ながら、俺は改めて目の前の水道を見た。
未来か過去かはひとまず置いておいて、これでまた一つ、映像が現実の出来事を映したものだという確証に近づいていく。
立てた説が立証されるのは果たして喜ばしいことなのだろうか。
そして、問題はこれから先だ。




