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「よっしゃ、行きますか」
「いこいこ」
スマホをしまい秀輔と一つ頷き合うと、気は抜かずに周囲を確認しつつも、さらに学校の奥へと足を進めていく。
どこからか盛り上がる男女の声が聞こえた。
「てか人通らなくって本当によかったな」
ここまで誰にも声を掛けられなかったのはかなり運がよかった。
俺たちはざっと五分ぐらいは立ち止まって作戦会議をしていたはずだ。
普段高校には生息していないであろう私服を着た赤と白の頭の二人組が校舎の壁を見ながら話している姿なんて、不審以外の何でもない。かなり目に付く。
本当に誰も通らなくてよかった。
「たしかに。今の時点で先生呼ばれてた可能性もあるのか……」
歩きながら秀輔が後ろを振り返る。
誰もいないことを確認したのか少しほっとしたような顔をしながら再び前を向く。
「こわすぎ」
「運良かったね」
もし誰かに声を掛けられていたら、果たして俺たちはなんと説明をしていたのだろうか。
大学の講義をさぼって水道を探すためにここに来ました?
意味が分からなさ過ぎだろう。いっそ意味わからなさ過ぎて見逃してもらえる可能性さえ出てくるぐらいだ。
「一応放課後だし大体は帰ってんのか?」
「手違いで肉なかったクラスとかだけしか残ってないのかも」
文化祭の前日と言っていたからもっと人が残っているかと思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。
もしくはみんな室内で追い込みをしているのだろうか。まだ厳しい残暑が続いているからその可能性は大いにあるだろう。
小声でしゃべりながら校舎の角を右に曲がる。
自然と、二人同時に足が止まっていた。
「…………気のせいか?」
「あは」
思わず秀輔が乾いた笑い声をこぼす。
「なーんかもう水道見える気がすんなぁ」
校舎の角を曲がったその先。
それらしい形をした灰色のなにかがすぐさま目に入ってきたのだ。
まだ細部まではっきりと見えているわけではないが、おそらくあれは水道だろう。
「わぁ……あれかなぁ~」
映像と反対側から来たからか、秀輔はまだあれが探していたものだとは言わなかった。
しかし、疑うような言葉は白々しい。八割ぐらいは今見えている水道が映像の中の水道と同じだと確信しているのではないだろうか。
さらに想像よりもかなり簡単に見つかってしまって拍子抜けをしているような雰囲気が、隣からひしひしと伝わってくる。
「校舎の陰から顔出せば秒で見えたじゃん!今までの俺らの逡巡なに!?」
その態度に煽られるように声が大きくなる。
あれだけ校舎の横で悩んでいたというのに。なのに、何ということだ。少し移動して角から覗いてみれば、目的の場所らしきものが普通に視界に入ってきたではないか。
「いや……まだ本当にあれかわかんないし」
「場所はドンピシャですけどぉ?」
秀輔が映像から推測した場所と、実際に水道がある場所はほぼほぼ一致しているはずだ。
これまで組み立ててきた推測がかなり正しかったことになるのはうれしいが、あれだけ頭をフル回転させたのだ。もう少しぐらいハラハラするようなことが起きてからの到着でもよかったではないか。
いや、何事もなく見つけられるのが一番ではあるんですけど。
「えーっと……」
秀輔がスマホを開き、先ほどピンを刺した場所を確認している。
「木もあるし中庭側から来るとなると校舎脇通ってここまで来ますねぇ」
高校の敷地の外周を歩いているとき、水道までは木があって校舎脇のようなところを通っていた、と秀輔は言っていた。
これだけ条件が揃っているなら、やっぱりあの水道が映像の中の水道と同じ場所だと考えいいだろう。
「……ここかもしれないですねぇ」
もう否定できる要素が思い浮かばないのか、力のない声で秀輔も同意する。
こんなことなら最初から歩いてみればよかった。さんざん悩んだ時間が何だか馬鹿らしい。
「まぁ見つかったのはよかった!」
「そうだよ、よかった!」
肩透かしを食らった気分になり気勢がそがれてしまっていたが、本来これはとてもいいことだ。
頭を振って意識を切り替えると、大げさにうれしそうな声を出す。
それに乗ってくれた秀輔が「やったー」と言いながら止まっていた足を動かし、水道へ向かっていく。
「はー……あとはカメラ探せばいいのか……」
あと解決しなければいけない問題は防犯カメラだ。
ため息をつきつつも、何となく高いところについているイメージがあるため、校舎の壁を辿って屋根の付け根まで視線を動かす。
「それもだけど確証持ちたいかも」
「水道?」
「そう。映像と一緒だったらあっちの横側に蛇口ついてるはず」
隣で同じように上を見つつも秀輔がまた新しい情報を口にする。
映像で見た場所に実際に来ることによって、忘れていた細部までどんどん想起されていっているのだろうか。
もしくはまだちゃんと読ませてもらっていないけれど、覚えていること全部書き出したというあのメモには書いてあるのかもしれない。
後でちゃんと読ませてもらおう。
「あ、ねえ律稀」
校舎のさらに奥にあった建物の外壁にも目を這わせていると、トントンと、肩をたたかれた。




