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「どうしたの?」
秀輔が怪訝そうに問いかけてくる。
それに答える前に、俺は念のためもう一度ぐるりと周りを確認していく。
校舎の壁。屋根の下のところ。少し離れたところに立っているポール。それらしいものがないか目を凝らす。
ぱっと見カメラのようなものは見当たらない。
しかしあくまで素人目に見てだ。近年の技術により巧妙に隠されていたらもうそれはわからないだろう。
「防犯カメラ、あるかも」
「え」
一応確認はしたが、気づいていないだけでどこかにあるかもしれない。俺は秀輔の肩を掴むと、横並びで壁と向かい合わせになるように移動していく。
何をしているのかと聞かれる前に小声で伝えたその言葉に、されるがままになっていた秀輔の顔が勢いよくこちらを向いた。
完全に盲点だったのだろう。目を見合わせた俺たちの間に一瞬の沈黙が流れる。
「俺の学校にもたしかあった……もしかしたらここにもあるかも」
「……あ、俺のとこにもあった気がする……駐車場とか、門の方とかに」
「だよな。やばくね?」
「え、やばいかも」
防犯カメラ。
たしかに思い返してみたら俺たちが通っていた高校にもそれっぽいものが付いていた気がする。ただ当たり前のようにそこに存在していたから、今まで一度も意識をしたことがなく、今の今まで思いつくことができなかったのだ。
思いがけないところから新たな問題が浮上してきてしまった。背中に嫌な汗が伝う。
「これは……撤退、した方がいい感じ?」
「どうしよう、今映ってる?」
「や、ここらへんにはなさそうだった」
慌てた様子で周囲を見渡そうとする秀輔に、先ほど確認したことを伝える。
「よかった……じゃ、ないよね」
「ないな。校門にあったらもう映ってる」
秀輔の言う通り、いい状況であるとは言えない。
これまで通ってきた道中にカメラがあったとしたらもう手遅れだ。すでに俺たちの姿はしっかりと記録されてしまっていることになる。今この場所にカメラがあろうがなかろうが今更だろう。
「ない、って言う可能性は……」
「……きびくね」
このご時世だ。一台もカメラを設置していないということはないだろう。
しかし万が一があるかもしれないと、俺は一縷の望みにかけてスマホを取り出した。そしてさりげなさを装いながら校門の方を見る秀輔を後目に、検索画面を開いて「都立高校 防犯カメラ」と入力する。
どうか俺たちの高校が特殊だっただけであってくれと願ってみるが、その願いもむなしく結果は予想通り。
出てきた検索結果には、都立高校の防犯性の高さが書かれているページがずらりと並んでいた。
「うわ……これ見ろよ秀輔。全都立に設置されてるってさ」
隣で同じように検索し始めた秀輔も同じ結果にたどり着いたのか、スマホの画面を見ながら顔を引きつらせている。
どうして俺たちはもう少し早く、せめて学校の周りを歩いているときに思いつくことができなかったのだろうか。それかいっそ最後まで気づかないでおきたかった。
盛大なやらかしに気づいてしまった俺らはそろって頭を抱えることしかできない。
「……しかも場所は大体正門裏門通用口、あとは駐車場駐輪場と人気の少ない外周だって」
のろのろと頭を上げた秀輔が半笑いでスマホの画面を見せてくる。
「やばくね……?」
「やばい」
やばい以外の言葉が出てこない。人間本当にどうしていいかわからないミスを起こした時には、語彙力が消えうせてしまうのだということを初めて知った。
しかもよりによって俺たちが水道があると予想している場所は、人気の少ない外周近く、つまり、防犯カメラが設置されている可能性が高いと言われた場所だ。
「水道のとこ、カメラありそー」
「だよね……」
秀輔の顔から笑みが消える。
さて、これはどうしたものか。
俺たちは水道を確認しに行きたい。けれども、そこには防犯カメラがあるかもしれない。
高校に設置されている防犯カメラはどの頻度で確認されるものなのだろうか。まったく確認されないのならこのまま突き進んでも問題はないかもしれない。しかし定期的に確認をしているのであれば、俺たちは不審者として職員会議の題材に上がってしまうだろう。そうしたらどうなるか。きっと通報待ったなしだ。
それは困る。前科者にはなりたくない。
いやでも……校門のカメラに写っている時点でもうだめか……?
次々と最悪な予想が浮かび、脳内を支配していく。
「希望的観測でこれからのことを考えるとしたら……」
しかしいつまでもここで足を止めているわけにはいかない。
それは俺よりも冷静にものを見られる秀輔の方が強く感じているのかもしれない。どうにかしてこの状況を前向きに捉えようとしているのがわかる。
けれども現状で希望を見出せるような何かが果たしてあるのだろうか。
「……したら?」
恐る恐る聞き返す。
秀輔はじっとスマホを見ながら何かを考えている。きっと今、脳内で俺たちにとって一番都合のいい未来を探しているのだろう。
「……先生たちも忙しいし、防犯カメラの映像は、何か事件とか起きないかぎり見ない……でしょ」
希望的観測。そう前置きした時点で、本人だってこれがどれだけ都合のいい考えなのかわかっているのだろう。
言葉尻に不安がにじんでいる。
けれど今はそれを信じたい。
それに、教師が忙しいというのはたしかに事実だろう。自分が高校生だった時も、担任やほかの教師も防犯カメラを確認しているそぶりはなかった。
だから、と秀輔が続ける。
「事件も、事故も起こしちゃいけない。起きたら防犯カメラの映像が確認される。そうなったら俺たちの不審な行動がばれて、もしかしたら犯人扱いされる」
ならばカメラの映像を確認しなくちゃいけない状況をにならなければいい。
何も起きなければ、俺たちの心配も杞憂になるはずだ。
「そうならないためにも」
けれど、文化祭で何かが起こるかもしれない。
俺たちはそう思っているからここにいる。
それならば、
「俺たちは文化祭で何かが起こる可能性を、なにがなんでも潰す必要がある」
自分たちのためにも。




