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件は夢を選べない  作者: 弘井 まどり


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「あ、レンガ」


 聞いたとおりに道を進むと、右手側にレンガが敷かれているそれっぽい空間を見つけることができた。


 これが秀輔が見たというレンガの中庭だろうか。じっくりと確認をしたいが、部外者が立ち止まって生徒が大勢いる空間をじろじろ見るのはよくないだろう。

 一瞬だけそちらを見るが立ち止まることなく直進し続け、人通りがなさそうな校舎の陰に隠れる。


「あそこだと思う。合ってそう」


 周りに誰もいないことを確認したところで、秀輔が元来た道を振り返り、何度か確かめるように頷いた。

 やはりあそこで合っていたようだ。


「めっちゃ生徒いる……」

「外でやる食べ物の屋台が集まってるのかな?」


 しかし想像していたよりもずっと人が多い。おそらく、校舎内で行うことができない飲食系の出し物がすべて集結しているのだろう。


 さて、これはどうするべきだろうか。こちらが全員をスルーしてあの中庭を突っ切ったとして、向こうも全員がこちらをスルーしてくれるとは限らない。

 しかもあれだけ出し物が集まっている場所だ。おそらく教師の見回りも他の場所と比べて強化されているだろうし、下手したら今も一人ぐらいいてもおかしくはないだろう。


「どうするよ」


 教師がいたら詰みだし、いるかいないかをじろじろ確認していたらそれはそれで生徒に不審がられて教師を呼ばれる可能性が高い。

 正直まったく策が思い浮かばなかった。


「……戻ろう」

「は?」


 腕を組んで唸っていると、隣からまさかの作戦中断の声が聞こえてくる。驚いた俺は反射的に説明を求めるように秀輔の顔を見た。

 けれども秀輔は俺の意図に気付いてくれなかったようで、呑気にスマホを取り出しながら周りをきょろきょろ見渡しているではないか。


「えっと……」

「戻る?」

「戻る」


 もしかして聞き間違いかと思い確認をしてみたが、そうではないようだ。確かに秀輔は「戻る」と言ったらしい。

 わざわざ授業をさぼった上に嘘までついてここに入ってきたというのに、いったい何を言っているのだろうか。考えが理解できず、小声で秀輔に詰め寄る。


「ここまで来て?」

「来て」

「なんで!」

「ちょっと待って」

「報!連!相!」

「うるさ……」

「説明!」


 こちらを見ずにスマホをいじっている秀輔の視界に入ろうと、にじり寄りながらも説明を要求する。

 すると秀輔は呆れたようにため息をつきながら、スマホの画面を俺にも見えるように差し出してきた。


 そこには開かれていたのは地図アプリだ。位置情報もオンになっているらしく、俺たちのいる場所に青丸が浮かんでいる。


「……戻るときに脇目で焼きそばの屋台を探す」


 これが何だというのだと、半眼で眺めているとようやく秀輔が説明を始めた。

 どうやら戻るというのは諦めるわけではなく、新しい作戦のためのらしい。いくら何でも結論から言いすぎだろ。


「見つからなかったら?」


 おそらくこの学校のレンガの中庭というのは二つの校舎に囲まれた四角形の空間だ。その一辺の半分ぐらいが開いており、外から中庭に入ることができる通路になっているように見えた。


 一辺が丸々開いているわけではない。だから横を通り過ぎながら中を覗くとなると、その空間全てを見渡すことはできないだろう。死角がどこかしらに存在してしまうはずだ。


 さらに、運よく見えるところにあったとしても、一瞬で焼きそばの屋台だと判別がつくのかもわからない。


「俺の記憶が正しければ見つかるはず」

「どゆこと?」


 しかし秀輔は見つけられる根拠を持っているようで、自信ありげにこちらを見てくる。


「さっき中庭見た時わたあめの看板立ってる屋台あったの見た?」

「あー……」


 俺は曖昧な同意の声を上げる。果たしてわたあめなんてあっただろうか。

 レンガの床が本当にあったことばかりに目が行ってしまって、どんな屋台があったかなんてあの一瞬では把握することができなかった。


「あれの向かいが焼きそばのはず。だから多分帰りは見えるんじゃないかな」

「映像一回しか見てないんだろ?だいじょぶそ?」

「昨日の夜覚えてることは全部書き出したから……」


 「先見せておけばよかったね」なんて言いながら一度地図を閉じてメモアプリに書かれた文字の羅列を見せてくれる。

 そこには女子生徒が登校の時どんな道を通ったかから、台車にあった傷についてまで、おそらく秀輔が覚えている限りのことすべてが書かれていた。


「わぁお」


 驚きから変な声が出た。

 色々調べてくれていただけでなく、さらに映像の書き出しまでしてくれていたというのか。感謝と、一人でやらせてしまった申し訳なさが頭の中でごちゃ混ぜになりうまい言葉が出てこない。

 

「で、それがわかれば大体の水道の場所予想できる。いい?今がここ」


 何か言おうと口をもごつかせているうちに、再び地図アプリを開いた秀輔は、そんな俺の様子はお構いなしに説明を続ける。


「……おん」

「門がこっち」

「門」

「ここが中庭」

「庭」


 地図アプリを見ながら聞いているが、もちろんそこには学校の詳細な施設案内なんて書いていない。ただただ四角いグレーの図形があるだけだ。


 次々に進んでいく説明についていくために思考を切り替え、秀輔の指先を追いながらそこに頭の中で詳細な地図を作っていく。


「焼きそばの屋台が確認できれば、それを後ろにして右に進んで左に二回行ったところが水道」

「なるほど……」


 確かにそれなら焼きそばの屋台の位置がわかれば、水道のおおよその位置もわかるだろう。

 そして、わたあめの屋台の向かいにあるのであれば帰り道にそれとなく確認することもできる。


 けれど、これでわかるのはあくまでおおよその位置だ。水道の現物を確認できない。それでは目的を達成できたとは言えないのではないか。


 そもそも、もし戻るときに焼きそばの屋台の見つけられなかったらどうするのだ。おおよその位置すらわからなくなってしまう。

 俺たちは中庭全体を見渡せたわけではない。わたあめの屋台が二つある可能性だってあるだろうし、看板だって、置いてあった場所が本当にわたあめの屋台だったとは限らないのではないだろうか。一瞬看板置き場にさせてもらっていたということだってあるかもしれない。


 そうなると、本当に何も情報を得られずにただ校門まで戻ることになってしまう。

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