↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
件は夢を選べない  作者: 弘井 まどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/41

-

***


 俺、九段(くだん) 律稀(りつき)と隣のこいつ、伯木秀輔は都内の大学に通う二年生だ。

 入学当初、学部のオリエンテーションで同じグループになったことをきっかけに一緒に行動するようになり、馬が合ったのか気がつけば大学生活のほとんどを共にしている。


 他にも仲のいい奴はいるのだが、なんと示し合わせたわけでもないのに、俺と秀輔は選択科目も抽選科目の当落もすべて一緒なのだ。

 そんなわけで特に一緒に行動していることが多いからか、周りからはセットのように扱われている。


 講義の終わりを告げるチャイムが鳴り、周囲から一斉に席を立つ音が聞こえた。

 俺もその音に続くために、先ほど配られたリアクションペーパーを睨みつける。これを提出したら今日の講義は終わりだ。秀輔はすでに書き終えているらしく、隣でのんびりと帰り支度を始めている。


 ペーパーの半分以上に感想を書くだけでいいのだが、いかんせん授業の記憶が皆無なため一向に筆が進まない。

 それでもどうにかレジュメから重要そうな単語を抜き出して、頭をひねりながらもそれっぽい文章を作り上げていく。そうやって何とか書き終えた文章は、小学生でもお情けでしか丸をもらえないような、大学生としてあるまじき出来であった。

 しかし、行数はちゃんとクリアしている。今日の俺にしてみればそれだけで完璧だ。満足げに一つ頷き、帰り支度に取り掛かる。

 すると俺がリアクションペーパーを書き終えたことに気が付いたのだろう。秀輔が荷物を持ち立ち上がりながらこちらを向く。


「帰る?」

「おーどっか寄る?」


 今日はお互いバイトもないし、サークルにも所属していない俺たちは大体どこかに寄り道したり、秀輔の家でにお邪魔してゴロゴロしたりすることが多い。

 そんな感じで放課後も大体の時間を一緒に過ごす俺と秀輔だが、しかし性格や育った環境は面白いほどに違っている。


 俺は実家暮らしで妹が一人いるお兄ちゃん。どちらかというとインドアで、暇なときは家でゴロゴロしながらゲームをしていることが多い引きこもり気質だ。でも家で飼っている犬のもみじちゃんの朝の散歩は俺が担当している。だから最低でも一日一回は外に出ているし、こんなことになるまでは寝起きもいい方だった。


 対する秀輔は大学からの上京組で、学校から二駅ほど離れた場所で一人暮らしをしている。

 四人兄弟の末っ子で、さらに実家では母方の祖父母とも一緒に住んでいたらしい。ずっと賑やかだったと、いつだったか笑って話していたのを覚えている。性格も結構アウトドアというか、行動的でよくいろんな場所に出かけているようだ。期間限定のイベントとかも好きで、俺の予定が空いているときなんかは連れ出されることもしょっちゅうだ。なんでも都内は田舎と違って面白い場所がたくさんあるのだとか。


 同じ大学の同じ学部で同じ科目を専攻していなかったら出会ってすらいなかっただろう。


「いや、律稀は帰りなって」


 しかし、寄り道のお誘いに返ってたのはそんなそっけない反応だった。


「えー……今日バイトないし帰っても暇なんだけど」

「そんな状態ならバイトあったとしても休みなよ……」

「それはそう」


 呆れたような声に思わず不満の声を上げる。でも確かに今の状況で出勤なんてしたら焼き鳥を焦がすどころか、ボヤ騒ぎにまで発展させそうな気がしなくもない。

 うだうだ話しながらも教壇へ向かい、リアクションペーパーを提出する。そのまま揃って出た講義室の外には、講義終わりの学生が溢れていた。


 人ごみに混ざりながら外に向かって歩いていると、秀輔が思い出したように口を開く。


「そういえば昨日病院行ったんだっけ?どうだった?」

「あー……ね」


 記憶の隅の隅に追いやっていた昨日の出来事が話題に上がり、反応が少し遅れた。その一瞬の間に勘違いをしたのか、秀輔の顔が歪み、眉がひそめられる。


「え、まさか行ってない?水曜全休だから絶対行くって言ったよね?」

「いやいや行った行った超行ったわ」


 俺のずぼらさを知っているからか、こういうことに対する秀輔からの信頼度は低い。慌てて否定をすると、半信半疑といった表情でこちらを見つめたのちに、小さくため息をつかれた。

 

「ならいいけど……どうだった?」


 歩きながら昨日の記憶を掘り起こす。

 講義棟から外に出た瞬間に突き刺してくる夏の日差しに目を焼かれ、思わずしかめっ面をしてしまう。もう十六時を過ぎたというのにまだまだ夏真っ盛りの九月の太陽の勢いは衰えることを知らないようだ。


「えーっと……多分悪夢障害じゃないかって」

「悪夢障害?」

「あー……これ」


 頭の片隅から言葉を探し出してきた言葉は聞き馴染みがなかったようで、秀輔が首をかしげる。俺もちゃんとその言葉の意味を理解しているわけではないため、スマホを取り出し検索をする。そしてそのままスマホを手渡し、読むように促す。


 なんでも天下のOoogle先生によると、悪夢障害とは悪夢を頻繁に見て睡眠が妨げられ、日常生活に支障をきたす睡眠障害とのことを言うらしい。目覚めたあとも夢の内容をはっきり覚えており、その内容はストレスや不安、トラウマと関係することが多く、心的外傷後ストレス障害やうつ病に伴う二次的症状としてみられることが多いのだとか。


 そんな読み進めていくにつれて、秀輔の眉間に少しずつしわが寄っていく。最近そんな表情をよく見るようになった気がする。俺のことを心配してくれているからだっていうのはわかっているが、なんだか少しいたたまれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。