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フェンスを一枚挟んだ横で高校生たちが必死に作業をしている姿が見えた。
垂れ幕かなにかに絵を描いているであろう生徒たちは汚れてもいいようにだろうか、先ほどの三人組とは違いジャージを着て作業をしている。
その姿を眺めているうちに、ふと一つの案が思い浮かんだ。
「あー……俺たちもそれっぽい恰好したらどうよ」
「それっぽい……白いシャツとグレーのスラックス?」
「それかそれっぽいジャージとか」
顎をしゃくりジャージ姿の高校生を示す。
そちらに視線をやった秀輔は合点がいったとばかりに一つ頷いたと思ったら、ハッとした顔で自分の頭を指さした。
「髪は?」
「あ」
思わず声が漏れる。完全に盲点だった。たしかにワインレッドの頭の俺と、白い頭の秀輔が並んで歩いていたら、いくらジャージを着ていたとしても目に留まってしまうだろう。
大学生になり、髪色も髪型も自由になってからしばらくが経つため、すっかり頭から抜け落ちていた。
「……黒スプ?」
「そこまでする?」
どうにか絞り出した案は秀輔には不評だったようだ。
たしかに今から黒染めスプレーを調達したとして、どこで染めていいかがわからない。それに、スプレーだとしても染めるとなったらそれなりの時間るため、バイトに間に合うか怪しくなってしまうだろう。
すでに一度変わってもらったシフトだから、今日のバイトは休むことも、遅れることもできない。しかしだからといって、なにが起こるかわからないこの状況で秀輔に一人で行ってもらうのも不安だ。
「あ、ねぇ。忘れものって、届けられたよね?」
そろそろ学校沿いから逸れてしまうといったところで、秀輔がこちらを向き問いかけてきた。
「忘れ物?」
急に変わった話題についていけず、頭をひねる。
「この学校に通う人に届け物、っていうテイで入れてもらうの。どう?」
「あーね……保護者、ってか兄貴面すればいいのか」
なにか大学に忘れ物でもしてきたのだろうかと思っていたら、それは高校に潜入するための策だったようだ。
「……もう放課後だし厳しいかな?」
感心したように頷いている俺の隣で、秀輔が不安気に立ち止まる。学校沿いを歩けるのはここまでだった。
見渡せる範囲を注意深く見るが、やはり目当ての水道は見当たらない。これはもう校内に入って探すしかないのだろう。
「いや、いけんじゃね?弟にお届け物でーすって感じで、教師じゃなくって校門あたりにいる生徒にそのレンガの中庭まで案内してもらう」
秀輔は不安そうにしているが、先ほどまで検討していた変装よりもかなりいい案ではないか。
黒染めや変装までして校内に潜入するというのは、万が一バレた時に言い訳がしづらい。けれどもこの格好のまま侵入できるとなれば、バレたとしても何とでも言い訳ができるし、リスクが低い。
「先生に声かけるよりはうまくいきそうだけど……」
少なくとも教師に正面から会いに行くよりはマシだろう。教師に忘れ物を届けに来ただなんていったなら、預かられて終わってしまうはずだ。
「まじの生徒が一緒に歩いてくれればスルーされる率高くない?」
「高いかなぁ」
「ほら、この髪色だって……なんか出し物でウィッグ使うクラスとかあるかもしれないだろ」
そう言いながら、自分の髪を指でつまむ。
美容院でヘッドマッサージを受けたらよく眠れる、なんて眉唾物のネット記事に縋って先週染めたばかりの俺の髪はきれいに色が入っており、プリンにもなっていない。秀輔の髪はいつ見ても根元まで色が抜けていて、パーマもしっかりかかっているから心配ない。これならウィッグにだって見えなくもないだろう。
「でも……さっきの人たちに会っちゃったらどうするの?」
「だいじょぶだって。まだ肉の買い占めやってんよ」
「えぇ……」
「お前の案だろ。なんで急にそんな弱気なんよ」
不安がぬぐえないのか、立ち止まったままあれこれ考えている秀輔がもどかしい。
秀輔は頭がいいからか、あれこれ想像してしまい行動するまでに時間がかかるのだ。しかし、今日はそれを待っている時間はない。
「採用されるとなると急に不安が……」
「もし教師とかに捕まったら俺が適当にごまかすから!」
「なんでお前そんな乗り気なの……」
「いい案だからだよ。自信持て。行くぞ」
秀輔の背中を押すようにして本日三度目の校門へと向かう。
まだ何か言いたそうな顔をしていたが、なにも思いつかなかったのか、特に抵抗されることもなく歩き出すことができた。
できるだけチャラくてノリがよさそうな人を探そう。ターゲットにする生徒や、話の切り出し方を脳内で考える。
「失敗したら明日の朝始発で来ようぜ」
「……モーニングコールよろしく」
茶化すように言ったその言葉で秀輔もようやく諦めがついたのか、肩の力が抜けていく。
校門の前で立ち止まり、無言でアイコンタクトを交わす。ここからは一歩間違えたら不審者として教師に報告されてしまうだろう。気合いを入れていかなければ。
一つ頷き合った後、俺たちは敷地内へと足を踏み入れた。




