-
だが、そんなことを言い合いながら木々の合間から何とか学校の敷地内を見ていられたのも、ほんの数分だけだった。
フェンスに沿って道を曲がると、おそらく部活棟か何かだとは思うのだが、目隠しのように建物が現れ、中を見ることができなくなってしまったのだ。
防犯対策だろうか。しっかりしていることはとても大事だが、今だけはそれがもどかしい。
「さっそく中見えねえな」
「……ねぇ」
それでもそのうちまた敷地を見ることができるだろうと呑気に考え、足は止めずに建物に沿って歩み続ける。
しかしそう思っていたのは俺だけだったようで、隣から聞こえてきた声は剣呑な雰囲気を纏っていた。
「ん?」
「気のせいかもしれないんだけどさ」
「んー」
「そもそも一周する道なかったりする?」
「え?」
その言葉に思わず足を止めてしまう。
そんなこと考えてもみなかった。なぜだかわからないが、学校の周りはぐるりと一周歩くことができると思いこんでいた。
つられるようにして立ち止まった秀輔が進行方向を指さしながら、こちらを振り返る。
「学校の敷地って多分あの建物があるところまでだよね?」
「多分な」
じわじわと嫌な予感が漂ってきた。
今俺たちの歩いている道はこのまままっすぐ進んでいる。しかし、この道の先を見てみると、脇にはどう見ても民家が建っているのだ。
では学校はどこに行ったのかと、秀輔が指し示しているその建物を追っていくと、この道に沿うのではなく右側へ斜めに伸びるように建っている。
つまり、このまま進んでしまうと道と学校の間に民家が出現して、学校を覗くことができなくなってしまうのだ。
「この道そっち進めなくない?」
「…………たしかに」
しかもこの道から右に曲がる道、つまり学校沿いを歩けるような道が見当たらない。
学校沿いの道を一周するという作戦がいかに杜撰なものだったのか、開始たった数分で突きつけられてしまった。
「え、地図地図」
「学校って敷地に沿って外周作られてねえんだ……」
秀輔がスマホを開いて地図アプリを立ち上げている。マップでこのあたりの道を調べてくれるのだろう。
俺はその間実際に見てこようと思い、少し進んでこの道がどのように伸びているのかを確認しに行く。
「うわー……やっぱり。りつきー!」
進んだ道はどこまでもまっすぐで、二、三百メートル先ぐらいにようやく信号が見えるぐらいで、途中で曲がれそうな道もない。これはどうあがいても学校沿いを歩くことはできなさそうだ。そう落胆していると、後ろから秀輔の呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると秀輔がスマホを振りながらこちらへ向かってきている。
「どうよ?」
「……なかった、道」
秀輔のスマホを覗き込む。マップ上では高校がある場所に赤いピンが刺さっていた。しかし、その周りを囲むようにした道はどこにも見当たらない。
「詰んだ……?」
二人の間を嫌な沈黙が流れていく。
外から見つからない可能性ももちろん考えてはいた。しかし、まさか外周を一周するということすらできないとは思っていなかったのだ。
これはもう早々に、どうにか学校の敷地内に忍び込む方法を検討した方がいいのではないだろうか。
そう諦めの気持ちで後ろにあるであろう学校を振り返る。
「……いや、まだいけるかも!」
しかし秀輔はまだ諦めていなかったようで、マップをいじりながら歩けそうなルートを確認していく。
「いける~?」
「こっからまた学校の脇歩けそうだから、そこから水道が確認できれば……!」
スマホの画面をなぞる秀輔の指を確認すると、校門から見て左側の道からはもうこれ以上見ることはできないが、反対の右側はまた少しだけ学校沿いを歩くことができそうであった。
たしかに一周は無理でも、見れるところは外から見ておいた方がいいだろう。
「なるほど。じゃあこっち見るか」
「うん。それで一応一周ってことで」
「おっけ」
ひとまず作戦続行だ。そう頷き合って、来た道を引き返す。
まさかこんなにも学校という建物が外から見えないようになっているとは思ってもいなかった。考えられているんだな、なんて妙なところに感心してしまう。
ついさっき通り過ぎた校門前を今度は逆方向に進んでいく。そこからは先ほどまでと変わらない賑わいが見て取れる。この数分では残っている生徒の数はあまり変わっていなさそうだ。
「それで見つからなかったら……」
そんな賑わいを脇目に学校の角を曲がり、マップ上で確認した道へと進んでいく。
しかし、この道から学校を覗けるのもせいぜい数十メートル程度だろう。ぱっと見水道は見当たらない。そろそろ本格的に侵入方法を考える必要がある。
秀輔もそれをわかっているのか、ポツリと小さくつぶやいた。
「見つからなかったら……?」
「どうしよう……」
けれどもその方法までは思いついていないようで、いかにも悩んでます、といったような声で返事が返ってきた。
「入るしかないんじゃね」
「どうやって?」
入るしかない。俺も秀輔もそれはわかっているのだが、いざ方法を聞かれると答えることができない。
いい方法も思いつかないまま、無言で足を進める。




