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「あ」
家から高校までどれぐらいの時間がかかるのか調べるために地図アプリを立ち上げたところで、秀輔が何かを思い出したかのように小さな声を上げた。
「どした?」
「いや……やっぱり今日も行った方がいいのかなって」
「え、なんで?」
「水道すぐ見つけられるかな?」
言われてみればたしかに少し不安かもしれない。
朝に弱いわけではないから高校生の登校時間より前に高校に向かうことは問題ないだろう。
しかし朝の限られた時間で現場になるであろう水道を探しまわるよりも、今日のうちに場所だけでも把握しておいた方がいい。
これから何が起こるか予測できない以上、時間と心のゆとりというのはかなり大事になってくるはずだ。
「あー……」
「今日場所だけでも把握しておいた方がいいよね」
しかも今俺たちはちょうど高校の最寄りにいる。
バイトの時間までもまだあるし、この後用事も特にない。ならば先に現場を確認しておく方が絶対にいいだろう。
「余裕あるに越したことはないもんな」
「うん。なにがあるかわからないし」
「念には念を」
「備えあれば」
「そうすっか」
二人して知っていることわざを並べながらもっともらしく頷き合う。
こうして俺たちは、明日の自分たちのためにも一日前倒して水道探しを始めることとなった。
「でもここで問題がひとつ」
「ん?」
しかし、行動に移す前に秀輔にはさっそく問題点が思いついてしまったようだ。
「どうやって校内入る?」
「え、あー……さすがに目立つか」
学校は基本的に部外者は立ち入り禁止だ。
高校に私服の大学生が二人、しかも髪色が秀輔は白、俺もワインレッドときている。いくら文化祭の前日で普段より開放的な雰囲気になっているとはいえ、ひどく注目されることは火を見るより明らかだ。最悪教師を呼ばれてしまう可能性もあるだろう。
「うん。外から水道みつけられるならいいんだけど……」
ちょうどスマホで開いていた地図アプリを見てみるが、もちろん水道の場所なんて書いてあるはずもない。
一瞬、校内マップがネットに落ちていないか調べようかとも思ったが、もしあったとしても水道まで律儀に書いてあるものはまずないはずだ。
「いや考えても埒あかん。とりあえず行ってみようぜ」
「それもそっか」
結局これに関しては現地に行ってみないことにはどう行動するべきかの判断もつかないだろう。
運よく外から水道を見つけられる可能性もなくはない。とりあえずここで悩んでいる時間があるなら、外から水道を見つけられる可能性に賭けて学校の外周を一周でもするべきだ。
そう話をまとめた俺たちはこれ以上問題点が思い浮かばないうちに、一曲も歌を歌うことなく席を立つと、張り切ってカラオケを後にしまた灼熱のコンクリートジャングルへと繰り出していく。
太陽とその光を跳ね返してくるコンクリートからの熱によって、瞬時に皮膚が焼かれていく気がする。
「なんか探偵みたい……」
歩き出してすぐ、秀輔が感慨深そうな声でつぶやいた。
やっていることは確かにそうかもしれない。人に話を聞いて、情報を整理して、現場を調べる。
想像する探偵の仕事そのままだ。
「たしかに」
「浮気調査とかってこんな感じなのかな」
「この街に溶け込めない髪色でも探偵ってできるもんなんかね」
せっかくだし明日は朝ご飯としてあんパンと牛乳でも買っていくか、なんて話をしているうちに目当ての高校が見えてきた。
「とりあえずこのまま外一周?」
「だね。フェンスに沿って行ってみよう」
校門前で立ち止まるのも不自然かと思い、歩きながら方向性を決めていく。
おそらくもう放課後といえる時間に差し掛かっているにもかかわらず、ここから見えるだけでもまだかなりの数の生徒が残って作業をしているようだ。校門は風船や看板で飾り付けられていて、祭りの雰囲気が見て取れた。
「律稀バイト何時から?」
「十八時」
「じゃあ遅くっても十七時までには見つけたいね」
「外から見えてくれ~」
高校の周りを一周するぐらいだったらそんなに時間もかからない。外から見える場所に水道があってくれるのであれば、余裕でバイトに間に合う時間に解散することができる。
しかし、そうでなかった時が大変だ。どう動くべきか、ということからまた話し合わなければならないのだ。
校内に目を凝らしながら、祈るような気持ちで足を進める。
「てか、周りの雰囲気とかどんなだった?」
「えぇ……なんかレンガづくりの中庭?みたいなところがあって、そこを右に行ったとこの水道だったんだけど」
少しでも絞り込めるような要素はないかと映像を思い出してもらうが、現状それに当てはまりそうな景色は見当たらない。
「中庭って中にあるから中庭なんだよな?外から見つけるのむずくない?」
「あとは……木と……あ、校舎脇だったのかも?建物もあったはず」
「木と建物ねぇ……グラウンドは調べなくていいことがわかったな!」
木と建物と言われて周囲を見渡してみるが、むしろここには目隠しのために植えられているであろう木か、それから飛び出して見える建物、そして道路しか目に入らない。
「う……ごめん」
「全然。俺なんかマジで今何の役にも立ってねえし」
「たしかに」
「おい」




