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「じゃあ……脳内の映像が移動したけど、俺が脳科学に精通していないから知らないだけで、たまにそういうことがあるのかもしれない……?」
「そうそう」
秀輔の話を踏まえて、確認するように問いかけてみる。満足そうに頷く姿からきちんと意図を汲み取れたことがわかった。
そして、たしかにそう思い込むと不思議と肩の力が抜けていくのだ。
「……脳内映像が未来の内容だったっぽいけど、予知夢とか正夢というジャンルがあるぐらいだし、見る人は結構見るのかもしれない!」
「そういうこと!」
もちろん納得したわけでもないし、ぶっちゃけこれだけ言葉を尽くされても秀輔が言ってることもすべて理解できたわけでもない。
多分秀輔も感覚を無理やり言語化しているようなものなのだろう。理解しきれなくても仕方がない。
でもきっとそれでいいのだろう。
「俺らが知らないだけか!」
「なんてったって俺たちまだまだ学ぶことが多い学生の身だからね」
「オッケー了解!」
わかろうとしても何もわからなくて動けないなら、わかろうとしなくっていい。
わかるときがきたらその時また考えればいい。
そう思えるようになっただけでだいぶ気が楽になった。
頷いてくれる秀輔に勢いよくサムズアップを返す。
「考えすぎたらパンクしたり、怖がったりするのは全部終わってからにしよ」
「パンクはする予定なんだ」
堂々と先送りにしてるだけだって宣言してくる秀輔に思わず笑いがこみあげる。
でもその通りかもしれない。わからないほうが進めることもあるのだ。進んでいるのが前か後ろかもわからないが、ずっと同じ場所にいるよりは動いた方が気が楽だ。
「それかこのまま本当にわからなくって『結局何だったんだ?』って言ってるかどっちかかな」
「ありえる」
何か月後かにそうやって首をひねっている俺と秀輔の姿が簡単に思い浮かぶ。なんだかその時は全部を受け入れられそうな気がしてくるから不思議だ。
明るい声で場が盛り上がる。
「考えても、調べても混乱するだけなら、わかるまで考えないし、調べない」
これまでの話をまとめるかのように、秀輔が改めて一つ一つ言葉を選ぶ。
「ただ、何も疑わない。でも、何も信じない」
それは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
結局のところ秀輔もどこか不安を感じているのだろう。
だから今ここにいる。いつもの日常の範疇に収まるような現象だったら今頃ただの笑い話として終わっていたはずだ。
「全部そういうものなんだって、そう思う」
でもどうしてもなにかしなくちゃいけない気持ちが消えてくれないから。
だからこうやっていろいろ考えた上でどうにか動けるように自分をもっていっている。
「律稀が好きなゲームでも、情報って徐々に明かされていくものでしょ?」
本当にゲームみたいだ。ゲームの中では、答えにたどり着けるだけの情報が最初から与えられていることは少ない。
ストーリーを進めていって、追加の情報を集めて、ようやく真実にたどり着けるのだ。
「現実も大体そうだよ。後で振り返った方が絶対見えるものも多い」
「なるほど」
たまたま現実でまだそういう状況になったことがないから、今回は混乱してしまったが、きっと今後も答えがわかる前に動かなきゃいけないことなんていくらでもあるのだろう。
深く頷いた。なんだか人生でも結構重要なことを教えてもらったのではないだろうか。
「でも後悔はしたくないよね?」
「それはそう」
誰しもそれはそうだろう。後悔というのはモノによっては結構長引くし、思い出すたびにダメージを受け続けるスリップダメージのようなものだ。
好き好んでその経験を手に入れたいと思う人はあまりいないはずだ。
「だからやれそうなことは全部やっとこう」
「やらない後悔よりやる後悔」
「それ」
顔を見合わせてもっともらしく頷く。
ようやくこの一連の事象に対するお互いの考えと行動方針が一致したような気がする。
「把握」
やはり情報共有というか、認識のすり合わせというのは大事だ。
先ほどなんでそんなにうろたえたのかわからなくなるぐらい、今は気持ちが落ち着いていた。
ふと、今日の出来事を思い返していて気になることが浮かんだ。
「でも……そういえばさっき高校生追うの諦めようとしたよな?」
全部やっておこうとは?という気持ちを込めて秀輔を見る。
俺の視線の意味に気付いたのだろう。少しバツの悪そうな顔をしながらもごもごと口を動かしている。
「それはさぁ……文化祭の準備なのにジャージじゃないほうが悪いよね」
「横暴」
「ジャージなら学校名あったはずだもん」
しどろもどろになりながらも責任転嫁をしようとする秀輔に思わず吹き出す。
さっきまでためになる人生観みたいなことを話していた人と同一人物だとは思えない。
「一人で考えんなってことだな。テンパってるときは特に」
「その通りだね……だから明日に向けて作戦会議しよう」
「はーい」
大学の講義よりも頭を使った気がする。実質哲学だった。
次の段階に移る前に脳疲労を回復させるべく、飲み物を一気に飲み干す。




