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「いや……まずはそこまで調べてくれてまじでありがと」
「まあ暇だったし」
なんてことないようなそぶりで秀輔は話しているが、わからないことを延々と調べ続けるのは思っている以上に気力を使う。
暇だからといって簡単にやってのけられることではない。
「それでもだわ。俺だけだったら絶対何も調べなかった」
「だろうね」
「おい」
自分で言ったことではあるものの、ノータイムで肯定されるとちょっと悔しさもあるのだ。
反射的に非難の声を出すが秀輔は楽しそうに笑うだけだった。
「そういうわけで、何かを疑うにも、何かを信じるにも圧倒的に情報がないことに気付いたんだ」
秀輔のスマホに並んでいた検索履歴を思い出す。三時間だ。
そう考えると、「情報がない」その一言にすら重みを感じる。
「疑うことも、信じることもできないから両方諦めた、ってこと?」
「ってこと。何一つ信じられる情報も、疑わしい情報も出なかったから、調べるのをやめて答えを出すのを諦めた。一旦思考停止……全部を保留にした、って感じかな。とりあえず結果がどうだったとしても自分を許せるぐらいには行動しておく、って事だけは一応決めといたけど」
簡単なことのように言っているが、その結論を出すまでにどれほど考え抜いたのだろうか。しかも、自分の行動指針もしっかりと決めていたのだ。
秀輔が言った「思考停止」は投げやりさなんてどこにもなくて、ちゃんとした「手段」なんだということが伝わってくる。
「なんか……すげえな」
「なにそれ」
くすぐったそうに秀輔が笑う。
俺の中にはない考えだ。そんな考え方ができる秀輔だから、こんな非現実的な事象が入り混じってると思われる現状にも柔軟に対応ができているのだろう。
「じゃあ、実際のとこは秀輔が見たっていう映像が本当に未来の映像だって信じているわけじゃねえってこと?」
「うん。でも疑ってもないから、そうだった時でも後悔しないようにはしたいよね」
「……むっずぅ」
少しだけだが秀輔の言っていることがわかってきた気がする。
信じられるものも、疑えるものもなかったから、わからないままにした。そのままにした状態で思いつく説をすべて挙げて、そのすべてに対応しようとしているということなのだろう。
だけど、なんでそんなことができるのだろうか。気持ち悪くはないのか。
「なんていえばいいだろうな、説明するのも難しいけど……とりあえず、今は調べることをやめて、ただそういうものだと思うんだよ」
「どういうものだよ」
そういうもの、で片付けられるなら俺だってここまで混乱していないはずだ。
調べなくたって、「ありえない」と気づいてしまうようなことはきっとある。それに気づいてしまったら、混乱してしまうか、必死に現実的であるという理由探しをしてしまうのではないだろうか。
「原理とか、病名とか……あと原因とか。特に専門的なこととかについてはさ、自分の常識の中だったらあり得ないって思っていたとしても、答え合わせをしなければ自分が知らないだけっていう可能性を捨てきれないでしょ?」
「それは、まあ確かに」
それは確かにそうかもしれない。専門分野については特にそうだ。
大体のことは知らないから、非現実的だと思っても〝絶対に〟ありえないとまでは言い切れないし、ありえないと思っていたことだったとしても、専門家が論理的に説明していたら、そういうものなのかと納得してしまうだろう。
「だからまず、これ以上は調べないことで自分が知らないだけかもしれないっていう可能性をつくる。昨日律稀はわからないから怖いって言ったよね」
「あー……」
昨日の自分の言葉を思い返す。あまりきちんと覚えていないが、そんな感じの話をした気はする。きっと話の流れで言っていたのだろう。
「それは本当にそうだと思う。けど、わからない理由があれば途端に安心して受け入れられるようになると思わない?」
「と、いうと?」
「急に聞いたこともないような言語で喋られたら怖いけど、それが外国人だったら自国の言葉なんだなって思う。この外国人の部分が、今回なら……自分が知らないだけかもしれない、って言う可能性」
「納得」
すごいわかりやすいたとえだ。
聞いたこともない言語だから、調べても何を言っているのかわからない。そしてそれが未知の言語、地球外の言語でないという確証も得られない。だから怖い。これが今の現状だろう。
「つまりね、知識の余白っていうのは時に救いなんですよ律稀くん。わからなくって混乱しちゃうなら、わかろうとしなくっていい」
どんなに調べても外国人だって言う確証が得られないなら、外国人じゃないかもしれないと疑わないほうがいい。未知の生物かもしれないと信じないほうがいい。
わからないなら、わからないままでいた方がいいこともある。
そうすれば、少なくとも身動きが取れないほど恐怖や混乱に陥ることはないだろう。
知らないだけかもしれないという逃げ道は、時にとても重要だ。そしてそれが、秀輔が今当たり前のように動けている理由なのだろう。




