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秀輔が驚いたように少し目を見開く。それがいたたまれなくて思わず視線をそらしてしまった。
「だって、全部……ありえないことばっかりじゃん」
「なんでお前はそんなあっさり受け入れてんの?」
「偶然かもしれねえだろ」
言い訳がましい言葉が次から次へと口をつく。止めることができない。
しかし、言葉を重ねるほど自分でも何を言いたいのかもわからなくなってくる。
「なんで……ああ、もうわかんねえ」
夢か記憶を人に移せるとか、未来の映像だとか、救難信号だとか。ついさっきまで常識であるかのように自分の口で散々並べてきたくせに、今になって全部が現実離れしすぎていて、頭が拒絶していた。
こんなこと、本当にあるわけがない。
そう思う自分と、ここまでの出来事を偶然だけで説明するのは無理だと思う自分が、頭の中でぐちゃぐちゃにぶつかり合って思考が散らばる。
「なにもわかんねえよ。なんでこんな全部、当たり前のように進んでんの?」
俺の信じてきた常識の一部が粉々に崩れ去っていく。
「なぁ、これ、なに?」
先ほどの秀輔の顔はもっともだ。何言ってるんだこいつって感じだろう。
でもダメだった。なぜか今、急に全部がわからなくなってしまったのだ。
「あー……そっか、そうだよね」
「……また一人で納得してる」
混乱のままに言い募ったにも関わらず、秀輔は困ったように笑っただけだった。
この余裕の差にまた打ちのめされた気分になる。本当になんで秀輔はこんな冷静でいられるのだろう。映像を見ていたら、俺もすんなり納得できたのだろうか。
「うん。ごめん、律稀のこと置いてってたね」
その言葉に思わず眉を寄せる。ふてくされている子供の機嫌を取るようなその言い方が気に食わない。
しかし、その表現が思いのほかしっくり来てしまったのだ。
「別に、謝ってほしいわけじゃねえし」
俺の中でこの一通りの事象は、話のネタになるような不思議体験、といったぐらいの認識だった。理解できないものを受け入れたふりをするのには、それが一番手っ取り早かったのだ。
多分俺は秀輔も同じノリで話していると思っていたからこそ、そうじゃないと気づいた今こんなにも混乱してしまったのかもしれない。
自分で言うのも恥ずかしいたとえだが、これじゃあまるで迷子に気付いた瞬間の子供のようじゃないか。
「とりあえず外で話すようなことでもないし、一旦カラオケ行こ」
そう言うと秀輔は止まっていた足を動かし、先ほど指さしていたカラオケへと進んでいく。もうこれ以上置いていかれないように、俺もあわててその後に続いた。
「てか四限いいのかよ」
「律稀が授業のこと気にするなんて珍しー」
一方的に取り乱してしまったという気まずい気持ちを払拭しようと、話題を切り替える。
一瞬忘れてしまっていたのだが俺たちはまだこの後講義があるのだ。スマホで時間を確認してみると、全力でダッシュ、もしくはリッチにタクシーを使えばワンチャン間に合うかもしれないぐらいの時間だった。
しかし秀輔はもう休むことを決めているのだろう。立ち止まることなく足を進めていく。
「は?俺だってちゃんと真面目出てるし」
「はいはい、そうですね」
「前期だってフル単だったし!」
いつもの調子で軽口を言い合う。
さっきまで俺の喉につかえていた重苦しさも、少しだけ吐き出せたような気がした。
「あ、そこのカラオケでいいよね?」
「いいけどぉ!」
カラオケの場所なんてどこでもいい。いや、一番近いところがいい。早く本当の意味で秀輔との認識合わせをしたかった。
入店したらすぐに受付を済ませられるよう、店名を確認し、アプリで会員証を開いておく。
「俺さ、夜中にめちゃくちゃ考えたんだ」
「言ってたな」
秀輔はそんな俺の気持ちを汲んでくれているのか、もったいぶらず歩きながらもぽつぽつと説明をしてくれた。
「それで、諦めた」
「諦めた」
想像もしていなかった言葉に、思わず秀輔の横顔を見ながら単語を復唱してしまう。
そんな俺の行動が面白かったのか、笑いながらも秀輔は続ける。
「うん。疑うのを」
「なるほど……?」
分かったような、わからないような不思議な気分だ。
これだけで説明が終わるとは思えないので、とりあえず相槌を打って続きを促す。
「あと信じるのを」
「ん?」
疑うことと、信じること。それは同時に諦めることができるものなのだろうか。相反するものであるから、どちらかを諦めたのなら、もう一方の考えに進んでいくものだと思うのだが、どうやらそうではないらしい。
「本当だとも思ってない、けど、意味がないものだとも思ってない。つまり混乱したまま考えるのやめたんだよ」
「じゃあなんで……」
「万が一……億が一本当だった時に罪悪感をなくしたいから、かな」
それはとても秀輔らしい考えだった。どちらも選べないなら、どちらも選ばなければいい。
どちらかわからないのなら、どっちであった時も後悔しない選択をすればいいということなのだろう。
自動ドアが開いて冷たい空気が体にまとわりついてくる。
一直線に受付へと向かいながらも秀輔がおどけたように笑う。
「俺が夜中何を考えてそうなったか、律稀くんにも全部共有してあげましょう」




