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先ほど聞いた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
高校、文化祭、焼きそば。
そして、秀輔が映像で見た男子高校生。
「秀輔!」
「天才!さすが律稀!」
店を出たところで思わず声を上げる。とんとん拍子に話が進みすぎている感は否めないが、それはそうと次にとるべき行動がわかったのは素直に喜ばしいことだ。
今必要な情報をドンピシャで手に入れられてた高揚感からか、自然と体が動きハイタッチを交わしていた。
「これってそういうことだよな!?」
「そうだと思う」
ここまでくればこの一連の事象を気のせいや、空想だと笑い飛ばすことは誰もしないだろう。
興奮からか自然と大きくなっていく声を意識的に押さえながらも、人の邪魔にならないよう道路脇に身を寄せる。
「じゃああれだ!映像はやっぱり救難信号で」
足りなかったパズルのピースが見つかった時ってこんな気持ちになるのだろうか。
面白いほど話がつながっていく。昨日まで何もわからなかったものに一本の筋道ができていく感覚が心地よかった。まるで推理小説の伏線回収みたいだ。
どこか晴れやかな気持ちになりながら秀輔に答え合わせを求め視線を向ける。
目が合った。
「すでに起きたことじゃなくってこれから起こること」
胸の奥がスッと冷えていく。
秀輔が返事をしてくれているが、うまく耳に入ってこない。
だって秀輔の表情が俺の想像とは違い、とても真剣なものだったのだ。
その目には興奮も、達成感もなかった。ただ冷静に状況を判断している、そんな目をしている。
瞬間、気づいてしまった。俺と秀輔の認識には大きな違いがあったのだということを。
俺はただ答え合わせをしているような気持ちだった。
けれど、きっと秀輔はそうじゃなかったのだろう。
__もしかして、これは現実なのか。
先ほどまでさんざん秀輔と主張してきた前提が、今になって実感を伴い体に落ちてきた。
表情の作り方がわからなくなり、自分が真顔になっていくことだけがわかる。
「……多分、俺たちのミッションは」
秀輔が続ける。
「女の子を死なせない」
しどろもどろに言葉を続ける俺に対して、秀輔の声は冷静だ。
冗談でもない、謎解きや、考察を楽しんでいる様子でもない。本当にそう思っている声だった。
思わず言葉に詰まる。
「そう、なんだよな……うん。そっか」
なんということだろうか。自分でも全く自覚していなかったのだが、どうやら俺は今の今までどこかゲーム気分でいたらしい。夢か記憶は移動することができる、なんて声高らかに秀輔と主張をしていたくせに、この事象をしっかりと現実と紐づけられていなかったのだ。
原因不明の寝不足も、脳髄が分離したような感覚も、秀輔が突然「映像が見える」って言いだしたことも、そして、その夜は魘されずに眠れたことも。そんな出来事が立て続けに起きたのに、俺はどこかで全部偶然だと、原因は他にあるんだと、無意識のうちにそう思っていた。
全部の偶然を無理やりつないで自分たちで仮説を作って楽しんでみたりして。なんて、それぐらいの気持ちだったんだ。
寝不足だったからか昨日までの記憶はどこか感覚が遠いのもそれを助長させていたのかもしれない。一枚ガラスを隔てている感じとでもいうのだろうか。俺だけだったら、きっと今日この話を話題にあげることすらなかったはずだ。
俺は秀輔の言う映像の話だっておそらく信じ切れていなかったということなのだろう。ただ、秀輔が怖がるから。信じ切れていないけれど、寄り添って、その恐怖を軽減したかっただけだったのだ。
でも、だって……普通こんなの現実だと思えないだろう。
「そう考えて動くべきだと思う」
「……だよな」
けれど秀輔はこの話を現実のものとして受け止めている。
なんでこんな不可解な現象を当たり前のように現実として捉えられているのだろうか。
だってもしこれが本当だっていうのなら、俺の悪夢は予言者か何かから未来を変えるために与えられた未来の映像で、さらにそれは秀輔に移動したってことになる。
散々さっきまでそう主張してたのに今更なんだよって言われてしまうだろう。けど、こんなことが現実に起こったなんて誰が信じるというのだと聞いて回りたい。
ここまでくればこの一連の事象を気のせいや、空想だと笑い飛ばすことは誰もしない?そんなの、どの口が言ったのだろうか。自分自身が全然信じられていないくせに。
「文化祭が明日ってことは時間もないし、この後の動きについて決めとこっか」
外で話すことでもないし、個室がいいよな……なんてつぶやいている秀輔を眺める。
もうすでにこれからのことを考えているようだ。俺はまだ追いつけていないというのに。
つい先ほどまで自分もこの不可思議な現象をしっかりと現実のものと捉えてたつもりでいた。でも違ったのだ。本当の意味では何ひとつ信じてなんていなかった。
「カラオケでいい?」
近くにあったカラオケ店を指さしながら秀輔が提案をしてくる。
のろのろと緩慢な動きでその指先を視線で追う。
先ほどまであんなにもテンション高くハイタッチまでしたというのに、急におとなしくなった俺を怪訝に思ったのか、秀輔が不思議そうに顔をのぞき込んでくる。
「律稀?」
混乱と不安が押し寄せてくる。
そんなかでもどうにか返事をしようと口を開く。けれど、出てきた言葉は秀輔からの問いに対する答えではなかった。
「なあ秀輔」
「ん?」
これはなんなんだ。本当に未来の映像なのか。そもそも何が、どうやって……。
さっきまで当たり前のように口にしていた〝救難信号〟という言葉が、重くのしかかってくる。
思考がまとまらない。
それでも零れ落ちたのは、自分でも情けなくなるぐらい小さな声だった。
「これってガチなんかな」




