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「それは……そう」
悔しそうに答えるその顔には焦りが見えた。
そもそも、俺が思いついていることを秀輔が思いついていないわけがない。きっとタイムリミットがあるかもしれないことなんてとっくに気が付いているのだ。
「なんか、特徴……」
「特徴?」
どうしようかと店内を眺めつつ頭をひねっていると、唐突に秀輔がスマホを取り出しながら店の中へと入っていく。何かひらめいたのだろうか。
追いかけることは賛成なので、ひとまず俺もそれに続いてクーラーの効いた店内へと足を踏み入れる。
周囲を見渡しながら進んでいくと、最奥まで行ったところで例の高校生三人組の姿を見つけることができた。どうやら階段前にあるフロアガイドを見ているようだ。
この店は地上だけではなく地下にもフロアがあるから、階を移動する前に見つけられてよかったとほっと胸をなでおろす。
「……あの人たちの制服の」
「……あるか?」
秀輔が伺うようにこちらを見てくる。どうやら制服から学校を割り出そうとしたらしい。
たしかに特徴的な制服だったらいい案であったろう。しかし、彼らが着ているのはただの白いワイシャツに無地のグレーのスラックスだ。
ネクタイもしていないし、目を皿にして見ているが校章もついていなさそうだ。
さらにここは高校まで秀輔がいたような田舎じゃない。全国から人が集まっているのだ。高校生だって、近くに学校がある人から修学旅行生まで各地から集まってきてる。
つまり検索範囲は日本全国になる。この情報の少なさでその中から見つけ出すのは骨が折れるどころではないだろう。
「グレーって……何色あるんだっけ?」
スマホの検索窓に「高校 制服 スラックス グレー」と入力した秀輔が、途方に暮れた顔で固まっている。
「無地」も追加しているが、焼け石に水だろう。そもそも肉眼と写真、自然光と照明とでは色の濃淡だって見え方が変わってくるのだ。
「あーそしたら、学校名聞いてくるからスマホしまっとけ」
「え?聞いてくるって……ちょ、律稀!」
日本の学校の制服が載っているらしいサイトを開きだしたのを見て、しびれを切らした俺は声を上げる。
秀輔はちょっと内向的というか、初対面の人にぐいぐいいけないタイプだ。有り体に言うと人見知りをするところがある。
こういうところは、はじめましてから物怖じしない俺からすると少しもどかしい。聞きたいことが決まったのなら聞いてしまえばいいのにと思ってしまうのだ。
でもまあ適材適所という言葉もあるし、どう話しかければいいのかも聞くことも思いつかなかった俺と、気まずいとか気後れするとかで話しかけられない秀輔で補いあっていけばいいだろう。
後ろから追いかけてくる慌てたような声を無視して目当ての高校生三人組に近寄っていく。すると、そのうちの一人がそっと隅に避けるように移動をした。おそらくフロアガイドを見に来た人だと思い、避けてくれたのかもしれない。
周りが見えるいい子だ。これならきっと話も聞いてくれるはずだ。
「すみませーん」
「え、はい?」
声をかけると彼らは少し訝し気にこちら振り返った。その先にいたのが知り合いでも店員でもなかったからか、少し困惑した表情を浮かべた後、小声でお互いの知り合いか確認する声が聞こえてくる。
「今ちょっとだけいい?」
「まぁ……大丈夫です」
誰だこいつ、とでもいうような雰囲気が漂うこの瞬間が秀輔は嫌で話しかけたくなかったのかもしれない。視界の端で体を縮こまらせる姿が見えた。
しかし許可をもらったならもうこっちのものだ。そんな雰囲気も気にせず俺は笑顔で話し出す。
「急にごめんね。今朝電車で多分君達と同じ制服の子にスマホ拾ってもらってさ。しかも渡すためにわざわざ途中下車してくれたみたいで……もしかしたら遅刻しちゃったかもしれないから、学校にお礼とお詫びの連絡入れたいんだ」
「あーそうなんっすね」
「でも学校名も名前も何も聞けてなくって……よかったら学校名教えてもらえないかなーって」
インドアで引きこもり気質な俺は例によって漫画も大好きだ。漫画ばかり読んでいると学力が落ちるとか、たまにそういう意見を聞くことがあるが俺はそうは思わない。確かに、漫画にハマって勉強が疎かにになることがあるだろうが、そういうやつは漫画がなかったとしても大体他のなにかにハマって勉強をしないだろう。
話が逸れたがつまりなにが言いたいかというと、学力に直結はしないかもしれないが、読解力は間違いなく上がるし、さらに漫画を読むことによって学べることもある、ということだ。
さっき俺が言った今朝電車で云々もその一つである。
何かの漫画で学んだのだ。所属を確認したいならこう尋ねればいいと。
「でも今日なら授業ないから大丈夫だと思いますよ」
「そうなの?」
「はい、俺らあそこの都立なんすけど、明日から文化祭で……あ、でもホームルームあったから出席はとったか」
警戒を解いてくれたのかするすると彼らがしゃべり出してくれ、無事学校名を知ることができた。しかも、文化祭の情報付きでだ。思わず声を上げそうになるのを慌てて咳払いでごまかす。
「ぶ、んか、さいなんだ……じゃ今は買い出し?」
「そうっすね。焼きそばやるんですけど手違いで肉なくって、今みんなで買い漁ってるんすよ」
やばいやばいやばいやばいフィーバータイムかもしれない。というかやっぱり何かに誘導されてるんじゃないだろうか。もしくは現実にそっくりなゲームの中にいたりするのかもしれない。そう錯覚してしまうほどに手元に情報が揃っていく。
錯覚じゃなかったらどうしようっていうのは後で秀輔と考えよう。
「まじか、肉無しはさみしいね。邪魔してごめん」
「いえ、全然全然」
「出席あったなら一応電話しおこっかな。教えてくれてありがと。頑張って」
彼らの肩を掴んで、クラスにいるおとなしい女子の情報を片っ端から聞き出したい気持ちを押さえて、どうにか会話を終わらせる。
食料品売り場へと向かう彼らを見送ったのち、俺たちは目を見合わせたのち速足で店外へと歩き出した。




