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件は夢を選べない  作者: 弘井 まどり


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「え、どこどこどこどこ」

「あの男子高校生、あそこ。三人組」


 秀輔が小さく顎をしゃくり、方向を示す。

 そちらを見遣ると、グレーのスラックスに白いシャツを着た男子高校生が三人で道を歩いているところだった。


「あれか」

「右の人……あの陽キャ男子だと思う」

「あのってどのだよ」

「主人公の女の子が恋してたやつ」


 言われてみれば昨日そんな実況を聞いた気がする。

 だるそうに掌で日差しを遮りながら歩く姿は、たしかに陽キャと言われそうな雰囲気をしていた。黒髪の、いかにもモテそうな男子だ。


「あー……そいうやそんなこと言ってたっけな……」


 隠すことなく堂々と高校生男子たちを観察していると、ふいにトートバッグの肩紐を引かれる。

 隣を見ると、困った顔をした秀輔がいた。


「どうしよう」

「どうしようって……話しかける?」


 男子高校生を見失わないようにしているのか、秀輔の視線はそちらに向けたままだ。しかもどうしようなどと言っている割に止まっていた足は再び動いており、じりじりと彼らに寄っていっているではないか。


 けれども、話しかけたいのかと聞いてみた質問に返ってきたのは、否定とも取れる言葉だった。


「なんて話しかけるの?昨日脳内で会いましたって?不審者だよそんなの……」

「実際そうじゃん」

「そうだけど!そうだけど違うじゃん」

「じゃあこのまま戻るか?」


 たしかに昨日の出来事や映像のことをそのまま伝えたら、不審者として通報待ったなしだろう。だが、ここで話しかけないと次いつ会えるかわからないのもたしかだ。


 話しかけて何を聞くとか、何ができるとか、そんなの全然わからないけれど、誰か……いや、なにかかもしれない、とにかくこの誘導されているかのようにできすぎた遭遇機会を逃すのも、なんだか違う気がしてくる。


「だって、さぁ……話しかけたとして、それからどうすんの?」

「ええ……君のクラスに文化祭で死にかけた女子生徒いますか?って……」

「さいっあく!最悪にもほどがあるでしょ!」

「じゃあ何聞けって言うんだよ!」


 しかしこんな急に映像の登場人物とエンカウントする想定なんてしていない。

 焼肉屋で救難信号かも、と秀輔が思い付きまではしたが、それで手詰まりだったのだ。


 もし本当に救難信号だったとして、じゃあ主人公の女の子は今どこかに入院しており、犯人などを捜してほしいのか。それともこれはまたまたファンタジー要素満載にあれは未来の映像で、これから起こるのを止めてほしいのか。九十分じゃ結論が出ず、時間にせかされるように店を出てきており、思考も尻切れトンボ状態になっている。


 そんなんだからこの場で咄嗟に気の利いた話しかけ方も、質問も思いつくはずもないだろう。


「思いつかないから律稀に聞いたんじゃん!」


 二人して小声で言いあっている間にも高校生たちはどんどん進んでいく。

 ゆっくりと俺たちもそちらへ向かってはいるが、まだ迷っているのかその歩みは遅く、彼らとの距離は徐々に開いていってしまっている。


「あ、店入る!追う?どうする?」


 そろそろ見えなくなりそうといったところで、彼らが道路に面している店に入ってく姿が見えた。 

 だからといって今後の行動を検討する時間ができたわけではない。彼らが入っていった店内はかなり物が多く、通路が狭い割に人が多いのだ。すぐに追いかけないとあっという間に見失ってしまうだろう。


「お~~~~……」

「お?」

「……わ、ないっ」

「追わないんかい!今の絶対追う流れだったろ!」


 どうするかと秀輔に判断をゆだねながらも正直追うつもりでいた俺は、その返答を聞いて急いでブレーキをかける。

 どうやら慎重派の秀輔としては、何を聞けばいいかわからない状態で後を追うのは避けたいようだ。


「だって……何聞いていいのかわかんないし!このまま後つけてばれたら不審者、思うままに話しかけても不審者、不審じゃない確認方法は思い浮かばない!じゃあ作戦会議してからの方がよくない?」


 たしかに俺たちは今何を確認すればいいのかが、まったくわかっていない状況である。

 想像を十二分に駆使してではあるが、状況の整理はついた。しかし整理しかついていない。これから自分たちが何をしたいのか、そこについては何も話せていないのだ。


 『君のクラスにおとなしめの女の子いる?』__そりゃいるだろう。いないクラスの方が珍しい。

 『君のクラスって文化祭で焼きそば売る?』__それを聞いてどうする?しかも下手なナンパみたいで聞く方も嫌だ。

 『君のクラスに文化祭で死にかけた……』__ああいや、これは秀輔に最悪だってさっき却下されたんだっけ。


 そんな中で何を聞くべきかなんて、この通りなに一つ思い浮かばない。秀輔の言い分はもっともだろう。


「作戦会議してもまた会えるとは限らなくね?」


 けれども、これを逃したくない気持ちもなくならない。


 女の子が犯人捜しを望んでいるのか、復讐を望んでいるのか、未来を変えてほしいのか、何を目的に映像を送ってきたのかはわからない。どれも外れかもしれない。

 しかも何か行動をする、しないかすらも俺たちはまだ決められていない。でもだからこそ、それを決めるためにも俺たちは情報を得るべきではないだろうか。


 だって、救難信号って命の危険にさらされたときに助けを求めるためのものだろう。誰かに助けを求めなければならないほどの命の危機というのは、当然助けを待っているられる時間にも限りがあるはずだ。


 もしそうだったら__これを逃したら手遅れになってしまうかもしれない。


 なぜかうっすらと、そんな居心地の悪さを、感じてしまうのだ。

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