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説というか、俺たちの中で「一番それっぽい」と意見が一致した話とも言い換えられるかもしれない。
ただそれを俺たち以外に理解してもらう術も、証明する手立ても全く思いつかないため、説としておくことにしたのだ。
まず一つ目、夢または記憶は他人に移すことができる。
「はー食ったなぁ~」
自分で体験していなければ到底思い付きすらしない説だ。一つ目から非現実的だよな、なんて思いつつもつけていた紙エプロンを外す。
肉も寿司もラーメンも時間いっぱいまで詰め込んだ結果、俺たちの胃袋のキャパは完全に限界を超えていた。もう水分すら腹に入る隙間がない。
「ほんと、おいしかったぁ……ごちそうさま」
秀輔も満足そうに胃のあたりをさすっている。食べ放題というのはなかなか元が取れないように設定されていると言われているが、今日は結構いいところまで行けたのではないだろうか。
「いえいえ。じゃ行くか」
だが、満腹だからといって食休みをしている暇はない。座席の時間が決まっているというのもあるが、今日は講義の空きコマを使って強行突破で来ているのだ。この後もスムーズに行動をしないと四限に間に合わなくなってしまう。
休憩もそこそこに、俺たちは荷物を持って会計へと足を進める。来た時よりも歩みが重くなっているのは、胃に詰めた幸せ分だ。
「ねえ、帰りは別の駅から帰らない?ちょっと歩かないと逆にしんどいかも」
「あー……あり」
支払いを済ませ店を出たところで秀輔からそんな提案があった。
たしかにこのまま戻って講義を受けても、しばらく胃の重みに苦しむことになってしまうだろう。さらにそれが軽減されたと思ったら、次は睡魔に襲われるであろうことはたやすく想像ができる。
スマホで時刻を確認してみると次の講義までは後四十分、帰りは行きよりもだいぶ時間に余裕があるようだ。ならば寝落ちを防ぐためにも、少し腹ごなしをするべきだろう。
秀輔はここから十分程度歩いたところにある都内最大規模の巨大ターミナル駅を指していた。そこから大学に向かったとしても授業開始の十分前にはつくことができる。
「あっちー……このまま帰りてえ」
「今帰って寝たら気持ちいいだろうね」
来た道とは別方向に歩き出す秀輔を追う。
目的の駅には駅ビルも多数あるからか、はたまた交通の便が良すぎるからか、いつ来ても老若男女たくさんの人であふれており、そちらへ向かうと自然と人通りが増えていく。
ぶつからないように人波を縫いながらも、思考は自然と先ほどまで議論していた説へと向かっていった。
一つ目の説は俺たちの中での大前提になるのだが、同時に一番証明できない説でもある。
だからこの後の説もすべて空理空論になってしまい、たくさんの疑念や不明点を飲み込みながら話し合いを続けたのだった。
その末に生まれた二つ目は、この映像は誰かに認識してもらう必要があった、というものだ。
「それ最高……あ、でも俺今日バイトだわ」
「金曜珍しくない?」
夢か記憶を誰かに移せるという時点で、俺の見ていた悪夢は誰かから移されたものである可能性が高い。おそらくもともとの映像の持ち主は、視点となっていた女子高校生なのではないだろうか。
そうであるならば、空論の中にも一本の筋が通る。
そして、わざわざ人に移すということはそれ相応の理由があるはずだ。映像の内容的にもノリとか、暇つぶしとかそういうのは考えられない。いや、考えたくない。
秀輔も、視点となっていた女の子が移したと考えるなら、何かしら理由があるはずだと断言していた。
視点を借りるということは謂わばその人と同じものを見るということだ。映像を見ている間、秀輔はその女の子が見ていたものを、その女の子と同じ場所から見ていた。それなら、映像を通して女の子のことを少しだが理解できたといっても、きっと過言ではないのだろう。
ならばその女の子は何かの目的のために映像を他者に認識してもらいたかった、ということになる。
「火曜しんどすぎて先輩に代わってもらったんよね」
「ほんと昨日寝れてよかった……がんばれ」
炎天下の中の会話は口が乾く。先ほどまではもう水分ですら入らないと思っていたのにもうのどが渇いてきた。
そういえば一番熱い時間帯は太陽が最も高くなる正午ではなく、午後二時から三時当たりなのだっけ。なんでもピーク時に降り注いだ太陽の光が空気を温め終わるのが大体そのぐらいの時間なのだとか。
腹ごなしをしつつも日陰を歩きたい俺たちは、建物の際を一列になって進む。
「今年は日傘買うかなー」
「……律稀」
「ぅ゛」
思いつくままにたわいない会話をしていると、ふいに衝撃が走り胃の中の食べ物が揺れる。
どうやら前を歩いていた秀輔が立ち止まったようだ。陰を探して視線を地面にうろつかせていた俺はなす術もなくそれに衝突してしまう。
何かあったのかと顔を上げてみるが、視線が合うことはなかった。秀輔は真剣な顔でどこかを一点を見つめているのだ。
「あれ、あの人。絶対そう」
「誰よ」
どうやら誰かを見つけたらしい。しかし視線を辿って同じ方を見るも、特に気になる人物はいないように見える。誰を見つけたというのだろう。
反応的に知り合いというよりは、芸能人だろうか。この街には百貨店もある。お忍びで来ていたとしても不思議ではない。
しかし、秀輔はそちらから目を離さない。しかも芸能人を見つけたにしてはどこか険しい顔をしている気がする。
まるで焼肉屋で話してた時の顔みたいだった。
そう、ちょうど最後三つ目の説について話していた時のような。
「……映像に出てきた男」
〝もしかしてこれって……救難信号、とかだったりするのかな〟




