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件は夢を選べない  作者: 弘井 まどり


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 夢として見ていたはずのものが、秀輔の中では一本の映画のように上映されたこともそうだ。

 移動したというのなら普通は同じ形で見ることになるのではないのか。それともなんだ。移動したタイミングに依存するから、昼に渡したら夢にならないのとでもいうのだろうか。


 わからないことが多すぎて頭がこんがらがってくる。無意識のうちに答えを求めるように秀輔の顔を見てしまう。


「もうここからは推測ですらなくって想像の域に入っちゃうんだけど……」


 きっと調べながらいろいろ考えてくれたのだろう。鉄板に置いてあった肉をひっくり返しつつも言葉を探しているような雰囲気はあるが、昨日のように眉間にしわを寄せていない。


 焼肉は秀輔が面倒を見てくれているので、その間に俺は一塊のままぷかぷかと浮かび出したつくねの分割を行う。端の方はもう火が通っていたが、真ん中はまだのようだ。


「律稀にも本当は映像として渡したかった。でもできなかった。っていうのはどうだろう?」

「できなかった?」

「うん。律稀が見た悪夢も、もとは誰かから移されたものなんじゃないかな」


 お互いの皿に肉を分け合い、新しく運ばれてきた肉を鍋に入れながらも続けられる秀輔の話は、目から鱗とでもいうのだろうか。いや、そもそもとても現実では考えられないようなものだった。


「夢としてしか渡せなくって、その上で映像化してもらうにはさらに誰かへの譲渡が必須だった、とか」

「……だから映像化してもらうために毎日フルスロットルで悪夢が自己主張してたってこと?」

「そう。何かしらの事象が何かしら目的のため……もしくは映像を認識させること自体が目的だったのかな。そのために律稀に夢として映像を渡した。その事象と律稀の相性が良かったから、干渉しやすかった、とかで」


 なんだか思考がふわふわしてくる。だってそうだろう。なんというか物語色が強すぎるのだ。

 しかもそれだとこの事象には、原因となる第三者が存在しているということになってしまう。


 秀輔があくまで想像だと強調するのにも頷ける。


「その夢は映像になるまで何回でも再生されるように作られていた。だから律稀が一向に映像として認識できなかった結果、その仕組みに沿って何度も再生されてしまった。とかだったらいろいろな辻褄が合うんだよ」


 とても頷けるような話ではない。けれども、秀輔も言った通りそれなら確かに辻褄が合ってしまうのもそうなのだ。

 しかも、現実ではとても考えられないようなことが実際に俺たちの身に起きている今、現実的ではない、ということは否定する材料にならない。


 さらに夢は他人に移動させられるものであるということは、今の俺たちにとって共通認識になっている。俺も誰かからもらって夢を見ていたのだとするならば、先ほど疑問に思ったことにもすべて説明がついてしまう。


 だがそうだとしてもぜひ文句を言わせてほしい。


「なんで最初から映像で渡せないんだよ。夢だか記憶だかの移動をやってのけるってことは、少なくとも今の科学よりすげえ技術を持ってんだろ」


 俺が魘されていた期間はおおよそ一週間。

 俺は寝る度に魘されていた。悪夢で起こされた後再び入眠を試みた時も、仮眠として日中に眠りについた時も、全部だ。一日一回どころではない。両手両足の指の数を合わせても足りないだろう。


 秀輔に夢が移動したはずなのに、俺と同じように何回も繰り返し見ていないのは映像を認識したからだというのなら。

 秀輔がそれを見て、ストーリーとでもいえばいいのだろうか、それを理解したからだというのなら。

 それなら俺にも最初っから映像として渡してくれればよかったのに。そうすればこんなにも苦しむこともなかった。


「全部想像だって。でもそうだな……そんな高等技術をもってしてもできないことはあるってことなんじゃない?」

「人を巻き込むならできてくれよ……」


 不満ですという顔をしていたのだろうか。秀輔が俺を見て笑う。

 慰めるように秀輔の皿にあった肉を渡された。俺が一番おいしいと言っていた肉だ。ありがたく頂戴させてもらう。


「入力と違う媒体としてしか出力できない、みたいな?映像だったら夢で、夢だったら映像でしか移動させることができないのかもしれない」

「めんどくさいな……」

「もっともらしく話したけど、一ミリも掠ってない可能性の方が高いから冗談だと思っておいて」


 ゲームの仕様でも説明されている気分になってくる。誰だよんなややこしいルールにしたのは。それともどうしても直接映像にする方法は確立できなかったとでもいうのだろうか。

 とにかく、そんな制約を作ったやつがいるとでもいうのなら一発殴ってやりたい。


「了解。でも一旦これで話を進めるとしたらさ、結局は映像を認識してほしいかったって事だろ?じゃあその映像はなにかからのメッセージってことか?」

「だと思う、例えば__」


 それから俺たちは肉の合間に寿司やラーメン、そしてデザートを食べながら、想像の域を出ない三つの説を立てた。

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