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ウキウキしながら大学に向かい、みんなに笑顔を巻き散らかし終え、今の時刻はちょうど昼の十二時を回ったところ。
俺たちは大学生の本分である講義に出席しながらも、出入口に一番近い席を陣取りその終わりを今か今かと待ち構えていた。
「あと十分……」
「焼肉の予約は?」
時計をチラチラ見つつ、秀輔と耳打ちをする。
「三十分後」
「間に合うかな?」
「いけるいける」
いける、なんて言っているが、正直かなり怪しいところだ。
大学から駅までが普通に歩いて大体十分。焼肉屋の最寄りまでは電車に乗って十分弱。そして焼肉屋へは駅から徒歩五分。スムーズに行ったとしてもギリギリアウトになってしまう。
だから、普通に歩かないことにした。
調べたところ、二限が終わった七分後に出る電車に乗ることができれば何とか間に合うことができるようだった。
おそらく走れば校舎内からだとしてもなんとか時間内につけるだろう。
じゃあ走らないわけにはいかない。
そもそも予約しておいてそれに遅れるのは不適切だと言える。つまり予約した瞬間に俺たちは、講義後に太陽きらめく夏の道を全力疾走するという未来も同時に確定させてしまっていたのだ。
だがしかしそれも一興ではないだろうか。なんせこれはパーティーだ。これも余興のようなもんだと思ってほしい。
そんなわけで二限の終わりが近づいてきた今、机に広げていた荷物を片手で引っ掴めるように整理し、もう片方の手にカバンを持って、着々と走り出す準備を始めている。
この講義はリアクションペーパーやポータルサイトへのキーワード提出もない。出席はカードリーダーに学生書をかざすだけなので、終了の合図とともに講義室を飛び出したとしても何の支障もない。
「階段だよね?」
「もち」
今いる講義室は建物の三階に位置している。エレベーターもあるのだが、まだ駆け下りた方が早いぐらいの階数だ。
経路を再確認しつつその時間が来るのを待つ。
そのままそわそわすること数分。
チャイムの音を聞いた教授からの解散が言い渡された。
その瞬間俺と秀輔は目くばせをすると、周囲の友達に挨拶をして出口に向かって走り出す。事前に二限後は急ぎの予定があると伝えていたので、誰にも止められることなく見送ってもらった。
「ダッシュダッシュダッシュ」
「これはいけるね!」
手に持っていた教科書をカバンに詰め込みながら、授業が終わったばかりでまだ人が少ない校内を爆走して駅へと向かう。
口角が自然に上がってしまう。今日は朝から何が起きても本当に楽しくて仕方がない。
九月の昼なんてまだまだ暑いし、普段だったらなるべく走ることはしたくない。日陰を選んで歩くところだが今日に限ってはお互いに迷うことなく、日差しが降り注ぐ道を走り抜けていく。
そうして息を荒げつつも無事ホームにたどり着いたのは、目標の電車が滑り込んでくるのとほぼ同時だった。
減速している電車を確認したのち秀輔を見ると、ちょうど秀輔もこちらを向いたところだったのかばっちりと目が合う。まだ店についたわけではないのだが、早くも湧き出てくる達成感に思わず無言でハイタッチを交わす。
その音が思いのほかホーム内に響き渡ってしまい、俺たちは声をあげて笑いながら電車に乗り込むことになった。
「はー……間に合ってよかったぁ」
「ひっさびさにこんな全力で走ったわ」
「てか汗やばい」
汗というのはなぜ止まってからの方が噴き出してくるのだろうか。電車内は空調が効いていて涼しかったが、汗は次から次へと流れていく。
「汗拭きシート使う?」
そう言いながら、トートバッグから制汗シートを取り出す。公共交通機関で匂いのあるものを使うのは賛否が分かれるかと思うが、男の汗臭さと石鹸の香りだったら後者の方がましだろう。日中帯ということもあり車内に人はまばらであるから許してほしい。
誰に言い訳するでもなく脳内でつらつらと考えながら秀輔にも差し出す。
「ありがと」
ドアの脇を陣取り、汗を拭きながら電車に揺られること三駅。目当ての焼肉屋がある駅に到着した。
この時点で予約時間まではあと六分だ。地下鉄を利用しているので地上に上がらなければいけないというディスアドバンテージがあるが、店の場所はわかっているし、早歩きで行けば丁度時間ぴったりぐらいにたどり着けるだろう。
「おっしゃ、行くぞ」
「ん」
秀輔に声を掛けつつ電車を降りて、生ぬるい空気を切り裂くように早歩きで地上へと向かう。
食後は絶対に腹パンパンで走ることはおろか、早歩きもできない状態であることが想像できる。だから学校に戻るときは余裕をもって店を出る必要があるだろう。
「腹減った~」
「走ったのも食前の丁度いい運動だったかもね」
「だろ?それも見越しての予約よ」
地上に出ると日の光が目を焼く。だが、昨日までとは違いそれに頭痛が誘発されることはない。
走るという選択肢だって昨日までだったら絶対に取ることができなかった。改めて体調の回復を実感したことにより足取りもさらに軽くなり、軽口も捗る。
「よく言うよ」
そう秀輔が笑ったところで店の前に到着した。
扉を開けながら時間を確認するために見たスマホの画面には、ちょうど十二時半と書かれている。俺と秀輔は顔を見合わせてにんまりと笑いながら足を進めた。
「店の肉食べつくす!」
「ほどほどにね」




