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結論から言うと、俺たちは前日の問答が恥ずかしくなる程の睡眠時間を叩き出した。
秀輔は夜中の三時ぐらいに一度起きたといっていたので八時間ぐらい。俺に至ってはしっかり十二時間。朝の七時まで一度も起きることなく寝続けていた。近年稀に見るほどの安眠である。
これは秀輔にも念入りに確認をさせてもらった。俺の喜びに水を差さないためだったら平気で嘘をつきそうだったから、それはもうしっかりと。
けれど、嘘やごまかしている様子はなかった。
なんせ夜中目が覚めた時に、呑気にカップラーメンを食べたと言っていたのだから。しかも追い飯までしたのだとか。それはさすがに恐怖が尾を引くような悪夢を見た後にできる行動じゃないだろう。
食べながら俺のことを観察していたらしいが、その間魘されることもなかったと言っていた。ということは俺が限界突破してもはや魘されていても起きなかったという説もないということだ。
そもそも寝起きがとてもいい。昨日までとは段違いである。
頭痛もしないし、体も疲れていない。いや、寝すぎたからか、これまで寝れていなかったからか、怠さはあるが、昨日までの吐き気を伴うような重圧感が薄れているのだ。
頭も体も軽い。昨日よりも世界が輝いて見える。
これはもう、悪夢から解放されたと判断してもいいのではないだろうか。
「さいこー!!マジでうれしい!人生で一番うれしい!」
気分は最高潮だ。
このままもみじちゃんと朝の散歩に飛び出したいほどすがすがしい気分だったが、今日は秀輔の家に泊まっている。当然もみじちゃんはいない。
だから代わりに秀輔を散歩に連れ出すことにした。
「やっば!太陽が目を焼かない!暑さに耐えられる!気持ち悪くない!」
身支度だけ整えて外に出る。
自然にスキップでもしてしまいそうだ。いや、少ししていたかもしれない。
あれほど体力とメンタルを削ってきていた太陽の光さえ、今日は俺を照らしてくれるスポットライトのように感じる。今日の俺はまごうことなく主人公だし、きっと世界中の誰よりも幸福だ。
「わかってたけどだいぶしんどかったんだね」
隣を歩く秀輔が苦笑をしながら目を細めた。
その声にもどこか安心がにじんでいるのではないだろうか。かなり心配をかけていた自覚があるため、尚のこと倒れる前にきちんと眠ることができてよかった。
「これはあれだな!パーティーだ!おかえり安眠パーティー!」
「はいはい、朝からそんな大声出したらご近所迷惑だよ」
嬉しさのあまり声量が調整できずたしなめられてしまったが、それすらも今は楽しい。
しっかり眠れた次の日がこんなにも快適だなんて、睡眠は本当に偉大だ。これから先も睡眠だけは大事にしていこう。無意味なオールはもうしないと今心に決めた。
そしてこんな素晴らしいことがあったのならやることは決まっている。そう、パーティーだ。
最近は遊ぶ気力もなく、おとなしく過ごさざるを得ない日々が続いていた。それも相まってか、今の俺ははしゃぎたくてしょうがないのだ。
もちろん俺一人で祝うだなんて、そんな味気ないことはしない。
ここまで付き合ってくれた秀輔の参加はもちろん必須だろう。
「お前もするんだよ!喜べ、俺のおごりだ!」
「それは素直にうれしい」
胸を張りながらそう宣言する。
ほかの人にも報告をして盛大に祝ってもらうのももちろんいい。
けどその前にこの不思議な現象を分かち合った俺と秀輔だけで打ち上げをするのもなかなか乙なのではないだろうか。
もちろんその時の費用は俺持ちだ。秀輔には一番心配も迷惑をかけたのだから。
「向こうの駅に新しくできた焼肉屋知ってっか?」
大学生のパーティーと言ったら肉。そして打ち上げと言ったら食べ放題飲み放題だ。
それを両方とも満たしている店を提案する。
「あー、この間家族で行ったって言ってたとこ?」
「そそ。そこがさー焼肉だけじゃなくってしゃぶしゃぶも寿司もラーメンも食い放題だったんよ。そこにしようぜ」
「天国じゃん。高そうだけどいいの?」
秀輔の反応もよさそうだ。それを見てさらに嬉しくなってくる。
その焼肉屋は肉もいいものを使っているのが売りとのことで、前に行った時はかなり混んでいた。日によっては予約しないで行くと何時間か待たなければいけないほどらしい。
「昼なら意外とお手頃だったから昼行こ」
ランチでも予約はできただろうか。善は急げとばかりに俺はスマホを取り出し、焼肉屋の予約について確認していく。
「はは、了解。今日?」
そんな俺の様子を見ながら笑う秀輔の眼前にスマホの画面を突きつける。そこに写るのは「予約完了」の四文字。
時刻は今日の十二時半から。二限終わりにダッシュで向かい、そして四限までに学校に戻るという寸法だ。
俺的には学校をさぼって食べに行ってもいいのだが、マジメな秀輔はそれを良しとしないだろう。なので空きコマの三限をフルで生かすタイムスケジュールにすることにした。
思い立ったが吉日と言うだろう。どうしても俺は今日この気分のまま焼肉に行きたい。
「今日!」
ぎりぎりすぎる、なんて文句を言う秀輔の顔も楽しそうで。昨日に引き続き、青春ってこういう瞬間を言うんだろうかと思った。




