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納得したのかと思えばまさかの新提案だ。
完璧に言いくるめたと思っていたため、秀輔の予想外の舵きりについていくことができない。
「律稀も風呂入ってきな」
秀輔はそれだけ言うと返事も待たずにクローゼットを漁り出す。
そして置きっぱなしにしている俺のスウェットを迷いなく引っ張り出すと、こちらに放ってくる。
「待って、まってまってまって……ちょーっと説明が欲しいかなーって」
「説明?そのまんまだけど」
「そのまんま、そう……そうね……」
宙を舞ったスウェットをすんでのところでキャッチして秀輔を見上げる。
ついていけずに一人座ったまま取り残されている俺に返ってきたのはそんな言葉だった。
そのまんま。たしかにそれも間違いではないだろう。この後秀輔がやりたいことはわかった。でも俺が欲しかったのはそこの説明ではない。
続いて俺の寝床を作るためか、ローテーブルを隅に寄せようとしている秀輔を急いで止める。こいつ……決断力があるっていうか、決めた後の行動が早いんだよな。
「なに、ベッドは譲らないけど?」
「え、今日ぐらいいいだろ?……じゃなくって、なんでその結論にたどり着いたかの一回経緯を教えてくれね?」
どういう思考回路でその案にたどり着いたのか教えてくれるならベッドなんてどうでもいい。
すでに話が終わったような顔をしている秀輔に詰め寄る。
「経緯もなにも」
「それでも」
俺が強く言うと、秀輔はしぶしぶではあるが腕を組んで考えるそぶりをした。
「うーん……そうだなぁ……ぶっちゃけ本音だけ言うとこの状態でどっちも寝たくないでしょ?」
「……本音はな」
本当はかっこつけてそんなことないと言いたいところだが、先ほど寝たくないと伝えてしまっている以上今更ごまかすことはできないだろう。
仕方がないから素直に頷く。
「でもお互いに押し付けるのは忍びない」
「押し付けるってか……」
「ニュアンスは今気にしない」
「はい」
言いたいことはわかった。
俺たちはどちらも自分が寝るということを譲るつもりがない状態だ。ただ、それを相手に納得させるだけの材料も互いに持っていない。
「なら一緒に寝ればいいんだよ」
なるほど、かなり端折られた説明だったが納得できる。お互いに譲れないのなら、お互いに譲らないでいこうということなのだろう。それならどちらの意志も尊重できるし、どちらも譲歩したことになる。
だがしかし俺はやっぱりこの案にも賛成はできない。
だってこの状態のまま寝るとなると、リスクが大きいのは現状悪夢を持っていると想定される秀輔の方なのだから。
「えーっと、そこにたどり着くまでをもうちょい詳しく」
どこかつける穴はないかと、まだ理解ができてないふりをしてさらに説明を促す。
「わがままだなぁ」
「どっちがだよ……」
「そもそもさ、この状況で片方が片方の寝る様子を見守るなんてできないでしょ?」
仕方ない子供を見るような目で見られて、なんだか体がむずむずしてくる。なぜだろう、さっきと立場が逆転してはいないだろうか。
どうもなんで俺が渋っているのかもわかっているような顔で、居心地が悪い。どうしてこうなった。
「それは、そうだけど……でもさ」
言い返そうとして口を開く。
けれどどんなに続きを考えたところで、反論らしい反論は思いつかなかった。
「もー、寝不足であれこれ考えない。どうせいい案なんて思いつかないんだから」
悔しいけれどその通りだ。いつもより全然頭が働いていない自覚はある。
そのせいか、どんどんと言いくるめられている。おかしい。さっきまで優位だった気がするのだが、そんな気配今は微塵もない。あれは寝不足のあまり起きながら見ていた夢だとでもいうのだろうか。
「あー……じゃアレだ。いったん返さなくっていいから俺が寝る」
「あれ聞いた後に頷くと思ってるの?……まあそれでもいいけど秀輔が寝てる間に俺も寝るよ」
何とか絞り出した案は、先に秀輔が提案していたものだったから却下さえされなかったものの、結局一緒に寝るのと何も変わらない結果に持っていかれるという事実を突きつけられただけだった。
「お前が最初に提案したんじゃんかよ」
「その時とはもう状況が変わってるので無しです」
「この……」
「てかさ、俺たちだよ?お互いに今の状況で相手をやすやすと眠らせることなんてしないじゃん。じゃあもうそれしかなくない?」
そこまで言われてしまうともうぐうの音も出ない。そう言われて思い浮かんでしまったのだ。寝ようとする秀輔を、殴ってでも起こそうとする俺の姿が。
そして、秀輔もきっとやる。むしろ俺よりえぐい方法で俺を寝かさまいとしてくるだろう。
「あ~……」
ああもうほら。最終奥義で勝てないとこうなるんだよ。
悔しいことに秀輔の方が自頭がいいらしい。
手も足も出なくなってしまった俺は、唸り声という白旗を上げるしかなかった。
「ほら、早く風呂入ってこないと先寝るよ」
唸り声に込めた思いを正確に読み取ったのであろう。秀輔は楽しそうに笑いながら手で俺を追い払うような動作をする。
「頑固野郎!」
「お前もね」
最後のあがきとして投げた言葉も、ブーメランとして返されてしまった。
それでも、先ほどの怯えが消えた秀輔の表情を見てしまうと、これでいいかと思ってしまう。もしまた悪夢を見て怖がっていたら、その時は自業自得だって笑ってやろう。
秀輔に睡魔がやってくる前に速攻で風呂を終わらせることを決めて、勢いよく廊下へ続くドアを開けた。




