第四話『この世でいちばん欲深いヤツ』-3
「マモン。フルフルを離せ──でないと、この地獄でいちばん価値のある女神がお前に微笑まなくなりかねない」
わたしの言葉の価値を信じろ──そう言われ、マモンはフルフルを会議場の端に向けて放り投げる。
それから王座に戻り、イシュマエルに問う。
「それで、話したいことは……何だ?」
イシュマエルはマモンを指さした。
「大罪──その力の在り処を、解する人間がいる」
リリスが吹き出し、マステマは眠り出し、メフィストは間抜けた声を漏らす。
マモンは──四つの目を大きく見開いた。
すぐに目を閉ざし、冷静なふりをしてマモンは聞く。
「根拠はあるか?」
聞かれるがイシュマエルは答えず、その場で足を組み……果たしてどんな力学なのか、それともただの力任せか、虚空に腰を任せて座り出す。
「まぁ、待て」
イシュマエルの答えはそれだけだった。笑っていたリリスも、寝ようとしてたマステマも……部下たちも、怒る。心の底から、苛立ちを吐き出す。そしてそれをイシュマエルへと投げ、ぶつける。
マモンと──そしてメフィストは、ただイシュマエルを見つめる。
「何やってんだよ、あんたは!」
這うように駆けてきたフルフルがイシュマエルに掴みかかる。
「なんだ、いまの……大罪を見つけることのできる人間だと? そんな話聞いちゃいない!」
フルフルは目を見開いて、瞳を小さくする。
「アズマか? アズマか──! そんな力、あんなたかが人間の娘にあるわけないだろう! あんな、現実さえも見えないような馬鹿なガキが!」
言葉を返さず、その場から動かないイシュマエルに背を向け、フルフルは叫ぶ。
「そんな、夢物語が無くとも見つけられるはずだ! だってこの世に、翼は存在するのだから!」
だから、いまは、支援を──叫ぶフルフルに、マモンは言葉を返さない。
そしてそのまま時が過ぎる。
メフィストを除く三魔衆のふたりはもう帰ってしまおうと支度をする。フルフルはひたすらに狼狽し、マモンはただ待つ。
ひとつ、ふたつ、みっつ──分刻みで時が刻まれる。
そして、フルフルが膝をついた時だった。
「来た」
イシュマエルが、呟いた。
そして床を貫き──すり抜けて、大きな影が現れる。
影はバルバトスだった。
そして、その手に抱かれる赤い髪の少女は……アズマ。
アズマは困惑した様子で辺りを見渡している。
「この辺なのに……なにもない」
「大罪を見つける力など無いんじゃないか? それこそ、あのカボチャの口車に乗せられているだけかもしれない」
アズマもバルバトスも、周囲の動揺など目に入っていない様子だった。
イシュマエルはやっと立ち上がる。
「なるほど。会議場とその中身を不可視に、そして不接触にしたうえ大空に設置していたのか。そりゃあ、見つけられないわけだ」
イシュマエルはアズマを指してマモンへ叫ぶ。
「彼女の名はアズマ・ラファエル。大天使ラファエルに育てられた生い立ちを持ち……そして、大罪を見つけ出すことのできる人間だ」
まるで、その言葉に応えたかのように、アズマは人差し指を伸ばし、示す。
マモンを──いや、強欲の翼を。
「やっぱりあそこ! 強欲の翼は絶対……あそこに、ある……はずなんだけど」
悪魔たちが計算を、各自何かを必死に記し始めたのを皮切りに空気が変わる。
三魔衆は他の悪魔たちと異なり、その猫の──蛙の──人の目を大きく開き、アズマだけを見る。
マモンが指を鳴らす。
瞬間、アズマとバルバトスの視界に突然会議場が映る。ふたりは動揺し、そのまま床に落ちた。
混乱のまま顔を上げるアズマ。その目の前に、気が付けばマモンの顔がある。
四つの目は開かれていた。そして歪み、心底嬉しそうな笑みを浮かべている。
──ネズミを前にした猫のように。
──舞う蠅を前にした蛙のように。
──札束を前にした人間のように。
「オマエは──最高に、価値で満ちている」




