私の母親
玄関扉は、正門と同様に無音で開いた。
扉の先には、黒と白の大理石が市松模様に敷き詰められた、広々とした玄関ホールがあった。
さらにその先に、2階へと続く広い中央階段があった。
玄関扉からは階段まで当たり前のように真紅の絨毯が一直線に敷かれていた。
そして、玄関扉を潜ってすぐの左右にも通路が続いていた。
私は、左右の通路には行かずに、階段まで一直線に伸びている真紅の絨毯の上を歩いた。
玄関ホールの天井には、巨大なクリスタルシャンデリアが吊るされて、この空間を隅々まで照らしていた。
下から見上げると、今にも落ちてきそうなほど大きくて、巨大なシャンデリアということがよくわかった。
中央階段は、通路の中央から外側に緩やかなカーブを描いているサーキュラー階段だった。
この階段は、7人で並んで登っても広々としている階段で、執事さんやメイドさんがよく利用している。
中央階段を登ると、また広々としたホールに出た。
そして、そこから左右に通路が続いて、正面には正門と石畳を見下ろせる大きな窓が設置されていた。
私は、右側の通路に向かった。
右側の通路の先には、リビングやキッチンがある。
お母様は私が帰ってくるときは大抵、リビングに居る。
だから、私は帰ってきたらすぐにリビングへ向かう。
リビングに着くと、いつも通りお母様はリビングのテーブルで紅茶を飲んでいた。
「お母様、只今帰りました。」
「あら、おかえりなさい、オリビア。今日の学校はどうだった?」
「今日は...色々ありましたが、特に何もありませんでした。」
「そう。相変わらずソフィアちゃんと一緒にいるの?」
「はい。」
「仲良くしてる?」
「はい。」
「そう...なら良かったわ。ところで―――」
その瞬間、お母様の目つきが変わった。
「―――ケーキがあるのだけれど...いかがかしら?」
「...いえ、今日は大丈夫です。ソフィアと一緒にカフェへ行って、アフタヌーンティーを注文してしまって、あまりお腹が空いていないので...。」
あくまで笑顔で、申し訳なさそうに断った。
「あら、そう...。残念ね...。」
そう言って目を伏せるお母様は、言っていることとは裏腹に、残念に思っていなさそうだった。
「また食べたくなったらいつでもいらっしゃい。待ってるわ。」
「...ありがとうございます。また機会があれば、そのときに頂きます。」
「ええ。また一緒に食べましょうね。」
「はい。これで失礼致します。」
「ええ。またね。」
そう穏やかに笑うお母様の目は、もう元通りに戻っていた。
私は、お母様に背を向け、リビングを後にした。




