情報と追跡
「いらっしゃいませ!」
タマキは、完全にジョルジュのホールとして慣れて柔らか無拓な笑みを浮かべて頭を下げる。
傭兵に貴族に令嬢。 種族も身分も問わずにここに訪れる人は多い。
喧騒の中で客が屋入りだけでなく、ご飯を食べに来るだけの人や雑談や交渉に他には特定の姫に貢ぐべく来店する令嬢や荒くれ者の傭兵もおり客足の多様性には驚かされる。
だがしかし、部屋入りの甘い声にはタマキは慣れない。
一ヶ月ジョルジュで働いても人間の心の機微は複雑でナナシノ国で情緒が完結していたタマキには刺激が強過ぎた。
ナナシノ国のイーニやジュンタ。 スミレなどの大人達は、自身のこうした純粋さを尊重して守っていてくれたのだとタマキは実感して月夜と喧騒の中で感謝の涙を流してこの経験を糧に成長すると決意を新たにし、一層潜入や鍛錬にに打ち込んだがティルナから客観的な意見が貰えない事は少し寂しかった。
「タマキ。 孤児院に行ってご飯を提供してくれ」
「分かりましたメルクニさん」
タマキがテーブルを拭いていると、カウンターからメルクニの声が聞こえて振り向きテーブルを拭く手を止めた。
メルクニからバケットを受け取ると服を質素な青いワンピースに着替えてタマキは孤児院に弁当を届けに行った。
街並みは相変わらず喧騒で満ちており、耳を立てるとカフェの新商品やある娼婦館の女性は金が高いが腕はいいなど相変わらず人々の日常が太陽と海風の塩の匂いで心を満たしていた。
「いらっしゃい! タマちゃん」
するとシスターがタマキを見つけて小走りで走ってくる。
だが、温和な笑みを浮かべているが足取りは密偵の足運びだ。
手も化粧で誤魔化しているが格闘技を習った者の手をしている。 少しだけ皮が厚い。
「……どうしたの? 変?」
「あっ、いえ」
「ダメよ。 ジロジロ見てちゃ気づく人は気づくんだから」
そう言ってシスターがタマキの肩に手を当てて耳元で囁く。 気づかれてしまったらしい。
「……ご、ごめんなさい。 綺麗な手をしていたから」
タマキは、謝りながら弁当袋を渡す。
手は少し震えて、声も上がってしまった。
「ありがとういつも子供達も喜ぶわ」
シスターは、笑みを浮かべて受け取ると同時にタマキの裾に紙を入れた。
「最近色んな虫が来るからお花の管理が大変なの」
「そうなんですね。 では子供達によろしくお願いします」
そう言ってタマキは頭を下げてジョルジュに帰る。
会話は一般的だが、裏の合言葉では色んな密偵や暗殺者がジョルジュを彷徨いているという暗喩だった。
「……警戒しないと」
タマキは、拳を握りジョルジュへ帰還した。
「お疲れ様。 シスターはなんて?」
メルクニがコップを拭きながらタマキに質問してきた。
「最近外部勢力の監視が強くなったようです。 恐らく貴族暗殺や商人の金などを狙っているんでしょう」
タマキは、テーブルにある食器を片付けながら報告をする。
「ここは歓楽街だ。 そう言うお客様には帰っていただかないとね」
そう笑ってメルクニは、コップを置きため息を吐いてタマキを見つめた。
「……呪術を見つけないとね。 最近何故か眠りにつく人が多いと客からの相談他の施設からも報告が上がってる。 今夜頼むよタマキ」
「はい。 無論」
タマキは、花の匂いが鼻に掠めながら頷き決戦に臨むべくその日はホールを出ずに長い昼寝をとった。
「ふぅ」
深夜にタマキは起床してメイド服を脱ぎ、黒い布を手に取る。
目を閉じて、布に魔力を込めてイメージを膨らませると布が体に纏わりついて形状を変化させて着物とスウェトの中間の質感を持つシノビ装束に変わった。
「行きましょう」
刀と小刀を腰に刺して懐にスマホを入れつつ、タマキは窓から飛び降りて夜のバリエンツを目指して夜を駆け巡る。
「いた」
タマキは、物陰に隠れつつ敵を見つけ背後から忍び寄りナイフを持ち歩く男を見つけた。 歩き方からして歩き慣れたチンピラではない訓練を受けた人間の動きだった。
タマキは背後から忍び寄り雷の魔法エレックを微力の力で唱え、気絶させた。
「くそ。 なんだてめぇ! ガキが!」
「答えろ。 最近呪詛が流行っている貴様らの仕業か?」
タマキは刀を向けて問う。 男の言葉と行動を観察し待った。
「へっ。 なんもしらねぇなぁ!」
「……そうか。 エレック」
「ぎゃあぁぁ!?」
タマキは、生意気な行動を取る男を雷魔法で痛めつけた。 さっきよりも高威力にし少しずつ痛めつけていく。
「が、ガキが! こんなんで俺が話すと思っているのかよ!?」
「……私はあなたを痛めつける。 それだけよ」
冷酷の仮面を被りタマキは、男を拷問する。 三十回目の詠唱でようやく男が口を開き始めた。
「わ、分かった! 話す。 む、虫だ! 虫を運んでいたんだ。 呪詛を運ぶ虫がはぁ!?」
「えっ?」
男が喋り始めると急に男が苦しみ出して、絶命した。
「ねぇ。 待ってまだ情報を」
首に手を当てると冷たくなっていた。 恐らく毒や呪詛で死んでしまったのだ。
「……相手は狡猾のようね」
タマキは目を伏せて、背後にいる敵の大きさを思い知りその後三人から尋問したが同じように少し喋りそして苦しんで絶命してしまった。
「……早く見つけないと」
タマキは、四人の遺体をゴミ箱に入れて道を歩く。
「……さよなら。 せめて来世ではいい人生を」
目を伏せてタマキは悪党達の冥福を祈った。 悪とは言え命は命だ。 誰も弔わないのならせめてタマキだけは冥福を祈ろうと思う。
それが課せられた責任だと思うから。
刀の柄を強く握りしめてタマキは屋根から飛び降りてジョルジュへ向かった。
「戻りました」
「どうだった?」
メルクニは、夜の賄いを用意して待っていた。
「……相手が狡猾で自害で死んでしまいました。 相手を追えません」
「……残った呪詛から魔力を辿らなかったのか?」
「敵の数を考えて、追跡しませんでした」
タマキは首を振り、メルクニの提案を否定する。
確かに呪詛の魔力を辿り呪術師を辿る事は可能だった。 だが夜も遅く拷問で魔力と体力を使い不完全な状態で敵と会敵すれば自身の命が危うい。
その命と任務遂行を秤に掛けてタマキは、確実な撤退を選ぶ。
呪詛は解除されているが、恐らく呪術師本人の意思での解除か、殺害でしか完璧に解除出来ない代物なのだろうなのだろう。
「しばらく私は、ホールに出ません」
タマキは、ため息を吐いてメルクニにしばらくのホール仕事はせずに情報を集めるべく行動をすると伝える。
「分かった。 呪術師を見つけろ」
「はい」
タマキは賄いのロールキャベツを食べ終え、風呂に入り就寝した。
_絶対に見つけて見せる。
目に覚悟を宿してタマキは、まだ見ぬ呪術師を睨んだ。




