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タマキシノビ絵巻  作者: 宅間晋作
バリエンツ編
11/16

出会いと娼婦館

 バリエンツへ足を伸ばして二日。

 タマキとティルナは、二人三脚でバリエンツを目指し歩く。


「……遠いわねティルナ。 こんなに遠いのねバリエンツ」


「……しょうがないわよ。 馬車とか使うと目立つし、徒歩の方が聞き込み出来るから我慢しましょう」


 ティルナの補足を聞きながらタマキはひたすら道を歩いていた。

 手元の地図とスマホを使い、最短ルートを歩いているが道中の魔獣や山賊を相手にしながら歩いているので予定よりも遅く足を運んでいる状態である。


「……流石に魔獣と盗賊の顔をもう見たくない」


「……同感ね」


 疲労と軽い飽きが来て、テンションが異様に低い。


「テレポート使うには座標が分からないとダメだし魔力マーキングあったら安定するからね。 まぁバラバラになりたくない」


「空飛ぶのもいいけれど目立つし、雷撃たれるのやだし」


「「はぁ」」


 タマキとティルナは、互いに最適解である徒歩でバリエンツを目指して歩く。 ナナシノ国を出発して四日後、やっと整備された石畳を歩く。 森や荒地を歩いて来た身からするとこれは願ってもない事だった。 近くに町があると実感出来る。


「こ、これは!?」


 街の喧騒そして、様々な香料の匂いに数多の魔力の密集。 間違いなく人がいる証だった。


「り、料理の匂いがするわタマキ! 行きましょう!」


 ティルナも目を輝かせてタマキと目線を合わして激しく頷く。

 それだけ、久しぶりに街の喧騒は疲れた心を潤した。


「ええ! ってテイルナ引っ張らないで!?」


「ほら行くわよタマキ! 目的を早く果たすのよ!」


 タマキはティルナに手を引かれて、走り出した。 目の前には大きな門が構えたいる。 その奥から少し爽やかな風と海特有の塩辛さが鼻を刺激する。

 それが疲れた体には心地よかった。

 幻ではないと、直感的に分かる。


「あら。 旅人? ようこそオアシスの観光國バリエンツへ!」


 女性の門番がタマキ達を見ると扉を開門する。 目の前には人々の賑わいが溢れていた。


「……すごい。 貴族に旅人色んな種族がいる!」


 見た事ない服装や、楽器の喧騒。 美味しそうなカフェに雑貨屋。

 それは奴隷経験とナナシノ国でしか生きてこなかったタマキの大きな刺激だった。


「こらタマキ。 はしゃがないのとりあえずカフェに行きましょう?」



「そうだねティルナ!」


 ティルナの声でタマキはハッとし、ティルナの提案に乗って近場のカフェに入る。 お昼時にも関わらず席は空いており緩やかな空間で落ち着いた雰囲気だった。

 何よりも、優しい薬草のアロマハーブは今のタマキ達には心地よかった。


「すみませんミートスパゲッティ二つ!」


「あいよ。 合計で千四百ベルカね!」


「払います!」


 タマキは、メニュー表を見て五秒で決断し、さらに財布から金を出し支払いを済ませてスパゲッティを待つ。


「こら全く勝手に頼まないの」


 後で席についたティルナがタマキを軽く睨んだ。

 どうやら、メニュー表を渡さなかった事を怒っているらしい。


「ご、ごめんなさい」


 タマキは、自分のせっかちさを反省してティルナに頭を下げる。

 空腹だったとはいえ大きな失態だ。

 ティルナを気遣えない自分が恥ずかしかった。


「別にいいわ。 私も食べたかったし」


 ティルナは、そんなタマキを許して紺色のフードをあげてから水を飲む。 そして少し軽いため息を吐いてタマキを見つめた。


「いーい? 油断しないでよね? 里とは違うんだから」


 ティルナは右手で頬杖をし、頬をついていない左手でタマキを指刺す。



「わかってるよ!」


 あえてナナシノ国の名を出さずにタマキは頷く。 国の情報を露呈しない為にあえてそうする事により身の周りを守る為だ。

 その為、声を上擦らせてタマキは全力で頷く。

 ー今回は、目立たず任務を遂行する。

 それで頭がいっぱいだった。


「さて、次どうするのタマキ」


「……とりあえず娼婦館ジョルジュに行こうかな? だって夜の貴婦人様のお店だし」


 バルメアの事を指す隠語。夜の貴婦人の名前を出してタマキは会話する。


「それもそうね」


 そしてタマキの提案にティルナが頷いた時だった。


「少しいいかしら?」


「「えっ?」」


 タマキとティルナが振り向くと、薄紫の髪に青い瞳。 少し薄い革服を着た少女がいた。


「ごめんなさい。 いきなり話しかけて。 私はニルよろしく」


「は、はぁ」


 気配も魔力も感じなかった。 まるで物がしゃべっているようにタマキは感じた。

 だが、命の呼吸はあるつまりは温度は感じる。

 タマキは、いきなり声を掛けてきた少女に警戒しながら目線を合わせた。

 そしてほのかに香る薔薇の匂いにタマキは心動かされる。


「こ、こんにちはニル。 私はタマキ。 いきなり話しかけられて、驚いたけどなにか?」


 タマキ、冷静になりながら声を掛けた。


「実は私仕事を探して、ジョルジュって言う有名な娼館があるって聞いてて。 同じなら一緒に行かない?」


 タマキも目線を合わせて、ニルは笑う。 その美術的な笑みにタマキは少し心を動かされた。


「そ、それは」


『タマキ。 ここは乗りましょう』


「えっとティルナ?」


 いきなりのティルナの意思を伝える魔法テレパシーに驚きタマキは視線を交わす。


「こんにちはニル。 私はティルナ。 タマキの友人よ。 あなた出身は?」


「……ライトール騎士国家の 村で育ちました。 剣術には腕がありますよ? まぁスキル覚醒はしてませんが」


 ティルナが、優しく質問すると少し自虐めいた口調で話すニル。

 ハキハキした口調と誠実な雰囲気もあり、タマキには嘘をついているように見えなかった。


「正々堂々を歌うライトール騎士国家出身ね。 あいにく私もライトール出身だけどなんで? 私は友達と来たのここにいるの。 オーナーに自分達を売り込む為に」


 自身に胸を当ててティルナは、ニルに話す。


「……そうなのですか。 私は娼婦館ジョルジュは様々な方が集い、宿屋としての側面もあるので行こうかと思っていたのです。 そしたら仲良さげなあなた達を見かけたので」


 頬に手を当てて笑うニル。


「……これから互いに仲良くなりましょう? ちなみにこちらはタマキとっても強い剣士なのよ?」


 ティルナは、タマキの両方を掴んで微笑む。

 そこには偽りはなく、信頼が空気を支配していた。


「まぁ。 なんと仲の良い二人なのでしょう。 私あなた達と友達になりたいわ」


「なりましょうニル?」


「……ティルナ?」


 タマキは、ティルナがニルへ向ける視線に違和感を感じる。


ーどうしたの? ティルナ。 何故?


 ティルナのらしくない態度にタマキの心は掻き乱される。


「お待たせしましたミートスパゲッティでーす」


「あ、ありがとうございます」


 だがそれもウェイトレスの、配膳の掛け声で霧散する。


「ほらティルナ食べよう?」


「ええ」


 タマキが催促すると、ティルナもフォークを持って食べ始める。

 だがタマキは、ミートスパゲッティのトマトと肉の匂いはするものの、味は何故か全くしなかった。

 緊張のせいなのか、味を誤魔化したかったのか今のタマキには分からなかった。

 だが、それでも微かにトマトソースの味はした。


「さて、ご飯も食べたし行くわよ」


 ティルナが手を合わせてお辞儀をすると、すぐさま席を立ち歩き出した。



「ちょっとティルナ?」


「何? タマキ私忙しいんだけど?」


 ティルナの様子がおかしい。 いつも冷静沈着なティルナが怒り、イライラしているその様子に首を傾げて目線を首に向ける。


「あっ」


 すると、虫刺されのような跡があり周りを見た。


「これは、敵!?」


 タマキはすぐさま剣を構えた。

 気づけば周りに人がいない。

 人払いの結界が発動しているようだった。


「どうされました?」


 ニルが首を傾げてタマキを見る。


「ニルさん! 操られた虫がいます! 恐らくハチか蚊です」


 タマキは怪しいニルを見ながら、協力を申し込む。

 近くにいる怪しい物と恐らく今を監視している怪しい者。

 思考のジレンマに苛まれるが今は、冷静になり先に虫を殺す事が先決だとタマキは理解する。


「見えた! ニルさん逃げて!」


 周りに蚊がいる事を、ソウルスキル努力真面目ーマジメーで見るそれがニルの首筋に向かい血を挿入し始めた。



「ん? 虫さんですか?」


 すると、ニルはペチンと首を叩き蚊を叩き潰す。


「えっ?」


「まぁ。 虫なんて可愛いものですね」


 そう言いながら手をハンカチで拭くニル。


「ティルナは!?」


 タマキは目の前の出来事を無視してティルナを見る。


「何よタマキボッーと突っ立てないで? ごふ」


 するとティルナが吐血してたおれる倒れる。


「ティルナ!?」


 タマキは、ティルナに近づき首元を見る。


「こ、これは呪詛!?」


 呪詛。 それは高度な呪いであり、魂や魔力を汚損する危険な者であり死に至らしめる強力な毒であった。


「ど、どうしょう私パージとか使えないし!?」


「落ち着いてタマキさん。 ジョルジュに行けばなんとかなる筈です。 宿ですから医者がいるかもしれません」


「そうですね! ニルさん!」


 タマキはニルの冷静な指摘に、頭がクリアになる。


ーそうだ。 私はティルナを助けるんだ。


 そう決意して、タマキは電撃魔法で呪詛の進行を遅らせる。 

 魔力汚染を少し整えるだけでも呪詛被害者の負担を減らせるのだ。


「た、タマキ。 ぐ、苦しい! 暑いよ。 助け……て」


 ティルナが汗を掻き、青い顔をする。


「ティルナ。 待ってて」


 タマキは、ティルナを背負い街並みを歩く。

 観光客の目線があったがそれを無視してタマキは走り出した。


「……ひどい奴がいた者ね」


 ニルがそんな二人を見て、憤怒の声をポツリと言っている事にも気づかずに。



「早くジョルジュに行かなきゃ!」


 タマキは、焦りながら街を走ると目の前に人が現れる。


「貴様らシノビだな。 排除する」


 霧が深く、顔が見ない体の違和感から戦士が二人と魔法使いが一人。


「くっ」


 タマキは、多勢に無勢の状況に焦っていた。

 ティルナを庇いながら戦うのは得策ではない。



「ティルナ行って。 私が片付けるから」


 背後から走って来たニルが前に出て手でタマキを静止した。


「で、でも!」


 タマキは、ニルを放って置けず抗議の声を出す。


「こう言う輩は新人の戦士とか、敵の勢力潰す事好きなゲスだからあなただと分が悪いから私が相手してあげる。 ティルナを救いなさい」


 そう言って剣を抜き、青眼の構えを取るティルナ。

 不思議と剣と一体化しており、無駄がない。 まるでスミレのように長年剣を振って来た者の貫禄がそこにはあった。


「邪魔だてするか女。 貴様が一番不穏だ。 魔力や人間の筋肉をしておらん。 お前は何者だ!?」


 老人の声が響くが魔法の加工で不安定であり分からない。 だが今は判断をしている場合ではない。ティルナの命が先なのだ。


「あら? 美しいって褒めてくれるの? 嬉しいわ」


 そう言いながらニルは地を蹴り、三人組へ襲いかかった。


「ありがとうニル。 死なないで!」


 タマキは、スマホを起動してジョルジュを目指して走り出した。


「はぁはぁ!」


「タマキおろしなさい。 歩くわ」


「いいから背負われてて!」


 タマキは、ティルナを背負い走るとジョルジュという看板を見つけて中に入る。


「すみません! 友人が呪詛を受けて!」


「ん? どうした?」


 すると、褐色の肌に灰色の髪をしたバーテン服の麗人が現れた。


「お願いします! 友達を助けてください!」


「……君シノビかな?」


「……えっ?」


 震えて無意識刀が手を掛けていた。


「大丈夫。 私は味方だよ」


「っ!?」


 だが刀の柄事タマキの手を押さえ込み、麗人はさわやかに笑う。


「私は、メルクニ・マルカニラ。 砂漠の民と言われるマルカニラ一族でね。 今ではこのジョルジュのしがないバーテンダーさ」


「あなたは味方ですか?」


「味方だよ。 バルメア様。 否、夜の貴婦人は私のオーナーと友人いや友達だからね。 友達を助けるのは当たり前だろ?」


 そう言いながら魔力を手に込めてティルナの胸に手を当てるメルクニ。


「パージ」


 そう浄化の魔法を詠唱すると、ティルナの首の呪詛がなくなった。


「かはっ」


 ティルナが、浄化呪文を受けると最後の吐血をして呼吸が安定した。

 ここまで高度な浄化魔法は、タマキ自身が得た知識の中だとライトール騎士国家と異界宗教国しか知らない。

 それだけメルクニは、高度な浄化魔法を使える実力者だと分かる。

 知識よる偏見もあり、タマキの独断に過ぎないものの、タマキよりもはるか上の存在だと直感した。


「いたぞ! くそシノビだ!」


 すると、扉が開き男がナイフを持って出て来た。


「くっ。 まだ伏兵が!」


 タマキが剣を抜く前にメルクニは既に、駆け出し敵兵の顔面に飛び蹴りを喰らわせた。


「お客様。喧嘩を持ち込むのなら排除しますよ?」


 襟をまくり笑っていたが、目の奥は笑っていなかった。


「な、なんだ貴様!?」


 男はよろけながら立ち上がるとまたナイフを構えて突き刺す。

 だがメルクニは、相手の腕を自身の脇で固めて軽く捻る。


「いてで!?」


「お客様困ります。 ここは憩いの場にして娼婦の館ですそこを荒らすとなるとあなたに天女は二度と微笑まず出禁になりますよ?」


「な、何を言っている? ま、まさかここは娼館なのか!?」



「あら野蛮なお客様? メルクニ」


「そうね。 なんてブサイクなのかしら」


「品がない客は、嫌ーい」


「たく。 これから料理の仕込みと部屋掃除なのよ営業妨害で訴えましょう?」


 部屋のあちこちから夜のドレスを着ている女性達が二階やホールから、現れて昼時だというのにメルクニとその腕の中で悶え苦しむア悪党を嘲笑していた。



「あ、いやそ、その違うんだ! そこの悪党を追い詰めようとして!」


 すると、襲撃の男はナイフを腰に隠して手を突き出してあたふたし始めた。


「おい何やってるお前! 早くぶっ殺せよ!?」


 すると後から来た悪党達が悪態がつく。


「な、なぁ! ここなんて言う娼婦館だ?」


 最初に襲撃して来た男は、手を突き出したままメルクニ質問を投げかける。


「ここは娼婦館ジョルジュ。 宿もカフェもバーとしてもさらに部屋入りも出来る施設でございますお客様」


 メルクニは悪徳の質問に対して、胸に手を当ててお辞儀をする。 まるで貴族の執事のように見えて幻想的だった。


「あ、あァァァァァ。 お、俺なんてところに喧嘩売っちまったんだ!?」


 すると男は錯乱して尻餅をつく。


「馬鹿野郎ただの娼婦館だろ? ぶっ壊せ!」


「ふ、ふざけんな! 俺は降りるぞ! 俺は死にたくねぇ。 お前らも逃げろ貴族や傭兵数多の国の連中に喧嘩売る馬鹿になりてぇのか。 ヒィ」


 男は、鼻水を垂らしながらジョルジュを飛び出す。 部屋の中には後から来た五人の悪党のみになった。


「へっ。 腰抜けが女ならうばごぶへぇ!?」


「お客様。 姫達を買うなら五万ベルカをお支払い下さい。 売り出しならばそれほど値が張ります後、部屋入りもせずに楽しむなどおこがましいですよ?」


 メルクニは、容赦なく男を殴りシャツの襟を正しながら悪党を見下していた。


「て、テメェ!?」


「相手はバーテンだ! ぶっ殺せ!」


「め、メルクニさん!?」


 タマキは、相手が殺気を出した事に気づきティルナを抱きしめながら吠えた。


「ご安心を黒髪のお姫様。 当店は暴力は禁止されてますので」


 既にメルクニは男達の背後を取り、武器を奪っていた。


「て、テメェ!?」


「当店は、武器の持ち込みはありとしておりますが姫を傷つけた場合は売り出しの十倍を払って貰いますよ?」


 メルクニは、顔を前に突き出して男の一人と目線を合わせる。


「ほ、本当にここは娼婦館なのか?」


「はい。 ほら」


 メルクニが腕を伸ばして手のひらを向けると、三百はいる娼婦達が姿を現した。

 種族は関係なく、エルフに人間。 獣人に小人、竜人に人魚までいる。


「う、嘘だろ? ま、マジで娼婦館なのかよ!?」


「や、やめようぜ兄貴。 この店俺達出禁になっちまう」


「ち、くそ!」


 男達は、武器をメルクニから奪い去ってしまった。

 タマキを殺すよりも、ジョルジュを利用する為に信頼を得る方が得だと男達は判断したらしい。



「またのご利用お待ちしております」


「すごい。 戦わず返した」


 タマキは、メルクニの手腕に驚き固まるしか無かった。


「まぁみんなありがとう! えへへ今日も元気にやりましょう!」


 すると、タマキの背後から明るい声がして振り向いた。

 エルフ耳に幻想的な青緑の髪にピンクのメッシュが入っており白いドレスを着て右手には白ピンクのパラソルを手にかけていた。


「えへへこんにちわ。 私はマナティオン。 この娼婦館ジョルジュのオーナーにしてバリエンツのアイドル! そしてなんとエルフと人魚のハーフすごいでしょ?」


「……はぁ。 私はタマキです」


「よろしくねタマキちゃん! ジュンタさんから話は聞いてるから! これからよろしくね?」


「よ、よろしくお願いします。 マナティオン様」


 タマキは、目の前にいる明るい雰囲気を持つオーナーを相手に戸惑い頭を下げるしか出来なかった。


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