☆44 剣
暫く歩いて、俺達はホワイト・ロックの郊外までやって来た。
目の前には広大な原っぱが広がっており、行く先には森の影が見える。
そう、このホワイト・ロックには城壁が無い。正直、戦略的な防御力は皆無に等しい。
これならば、どこからでも攻められてしまう。
一応、警備の為に何人かの団員が見回りをしている様子だが、防御と言う面では余り意味はないだろうな。
敵を速く発見出来る、それだけだ……
まあ、それはそれで意味は大きい……
「あのー、すんませーん! 誰か話をしたいんだけど。暇な奴は居ねーかー!」
見回りをしている団員に向けて声をかけるてみる。
しかし、何て言うか、思った通りと言うか。
誰も答えてはくれなかったい。
これは無視されている。俺が干されているからか?
それとも、生意気な口調だからか。いや、一応、隊長なんですけど、俺?
やっぱり、干されているからかなのかな?
「おい、誰か話を聞いたらどうなんだ? ここにいるは我が“白の師団”の隊長だぞ!!」
俺が無視されているのを見て、ドッグが声を上げた。
その声を聞いて、数人の団員がオタオタとした様子でこちらを見ている。
ぶっちゃけ、無視するなら無視するでハッキリして欲しい。見てるコッチがムズムズする。
「ああ、なんだ! やっと来ましたね、待ってましたよ!」
突然、よく通る声が響いた。
涼しげに響く、鈴の様な声。
綺麗でいて、それでいて芯の通った様な力強い声だ。
先程までは森に居たのだろうか。その少女はホワイト・ロックの向かいに広がる森の方からやって来た。
こちらに向かって、元気良くブンブンと手を振っている。
「どうも、おはようがございます。新しい隊長さん」
そう言うと、彼女は優しく微笑んだ。
そんな彼女を見て、ドッグが驚いたように声を挙げた。
「これは驚いた、貴女は“舞姫”クオン殿では!?」
“舞姫”クオン。なんか聞いた事ある名前だな。どこで聞いたんだっけか?
何となしに彼女を見る。
薄い緑色の髪に、可愛らしく垂れ下がった犬耳が目に入る。不意にお尻の方を見ると可愛らしく尻尾をフリフリとしている。
俺と目が合うと、嬉しそうニッコリ笑った。
可愛らしい亜人の少女だ。
だが、その手に刀が握られている所を見ると、彼女が戦士であると言うことが伺える。
「これが気になりますか、アルルさん」
こちらの視線に気づいたのか、彼女は俺に向かって、刀を見せて来た。
その鞘から僅かに刀を抜き、僅かに刃を見せる。
こちらを覗き込むかの様に刃が怪しく光る。
それだけで、この刀の切れ味がわかってしまった気分になる。
「素晴らしい刀です。美しいとすら言えます」
「貴方、刀をご存じなのですね。とても珍しいのに……」
彼女は刀を鞘に納めると俺に視線を向けた。
その視線は何処か嬉しそうに輝いている。
「貴女とは仲良くなれそうだ……」
そう言うと、彼女は後ろに隠していたのだろう。もう一本の剣を出して来た。
今度は刀ではなく、剣だ……
所々に金の装飾をあしらった、純白の鞘に納められた剣。
それからは、僅かだが魔力が漏れ出ている。
驚いた、これまた名刀。
いや、名剣か……
「綺麗な剣ですね。それに僅かですが、魔力も感じます……」
「そうですか。気に入ってくれてよかったです。これが貴女の剣です」
そう言うと彼女はにっこりと笑い、こちらに向けて剣を差し出した。




