☆45 剣
「貴方の剣です」
そう言うと彼女はニッコリと笑ってみせた。
突然の言葉に口を開いていると、彼女はその剣を俺に差し出して来た。
純白の鞘に金の装飾。僅かに、漏れる魔力。
間違いなく、ただの剣ではない。
恐る恐る、それを受けとるとズシリと重い感触が腕にのしかかる。
おもむろに柄へと手を伸ばす。
不意に視線を彼女に向けた。すると、彼女はゆっくりと頷いて見せる。
その手で剣を抜いてごらん、と諭してくれた。
ゆっくりと剣を引き抜く。
重たくも、心地よく引き抜かれ、その姿を現す刀身。
それからは僅かに漏れ出る魔力が光を発し、うっすらと蒼く輝いている。
「きれー……」
「ええ、これは仗剣。貴女の様な魔法剣士に作られた剣です。特殊な魔石を鍛えて産み出された刀身は杖の役割も、剣の役割も果たすそうです」
最後の「だそうです」ってなに?
俺が疑問の表情を彼女に向けると、バツが悪そうに答えた。
「それは私の贈り物ではなく。“魔元帥”からの贈り物です。貴女の事をエラく気にかけていました。まあ、覚えておいてあげてください」
「“閣下”がか!?」
彼女の言葉に、俺はなくドッグが驚愕の声を挙げた。
まあ、仕方ない事だろうよ。
“白の師団”において、“あのじいさん”は雲の上の存在だからな。そんな人が何故だか贈り物をしてくれたんだ、ビックリするはずだ……
因に、当の本人である俺は正直良くわからん。
ありがとう、おじいちゃん、大好き、長生きしてね、位の感想である。
だって、一回会っただけだもん。
俺は、そこまで魔術師の世界にドップリ浸かってないんだよ。
なんなら、ドッグの家がどんだけ由緒ある家なのかも知らん。
「これはエラい事だ。“閣下”が味方についてくれているとは、なんと心強いことか!!」
ドッグが今にも小躍りしそうな勢いで捲し立てる。
その内、犬みてーにグルグル回り出しそうだ。
嬉れションとかするなよ……
まあ、そうなる気持ちもわかるんだどな……
「だけど、直接渡しに来ないと言う事は、表立っての援助はないって事ですね?」
「察しが良くて助かります。他の幹部達の手前、手助けは出来ないとの事。組織図としても“魔元帥”ではなく、私“舞姫”の部下と言う運びになります。覚えていて下さいね」
ゆっくりと頷くと、剣を鞘へと納める。
寸分の狂いも感じさせない収まりだ。この剣を作った者はかなりの腕前だろう。
出来れば、一度会ってみたい物だ……
「おい、アルル。そう言えば君は何を聞く為にここに来たんだ?」
ドッグが俺の肩をパシパシと叩く。
それに我に帰ると、彼女に向かって疑問を投げ掛けた。
「そ、そうだ! その、先日の“黒の師団”はどこから来ましたか?」
その問い掛けに、彼女は首をかしげる。そして、おもむろに頬杖をつくと口を開いた。
「それがわからなくて調査中なの。アッチの森の方から来たらしいのだけど。一体どうやってあんな大軍が隠れていたのかわからないのよ……」
「なるほど、わかりました。なら俺達も森の方を探してみます」
取り敢えず、手掛かりらしい物も無いんだ、ここら辺りから手を着けてみるか。
まあ、何も見つかんねーだろうが。なんかあったら、ラッキーだ。やってみる価値はある。
なんせ、時間はいくらでもあるからな……
この任務が期限つきじゃないのが、せめてもの救いだな……
部屋の端っので、鶴を折るのが任務じゃなくて良かった。
形だけでも、やり甲斐があるのは助かるぜ……
おもむろに森に向けて歩き出す。
「おい、アルル! 探すって、何か当てはあるのか!?」
「森には山賊とか、“黒の師団”の残党が居たりするんで気を付けてください!! いや、倒してください!!」
無論、そのつもりよ。
彼女の言葉に答える様にし。先程頂いた剣を高く掲げて見せる。
「この剣の試し切りもしたいんで丁度良いです。ばぱっと行って来ますよ」
「そう、じゃあ、行ってらっしゃいね!」
後方から彼女の声が聞こえて来る。
なんだか気持ちのいい人だ。それでいて、どこか不思議な力強さを感じる。
恐らく、実際の実力もかなりの物だろう……
先程、頂いた剣に視線を落とす。
“魔導元帥”だか“魔元帥”だかは知らないが、あのお爺ちゃんも中々面倒な立場にあるらしいな。
もしかしたら、俺の置かれた状況も実は大した事ないのかもしれないな。
そう思うと、少し気が楽になるな……
「おい、アルル。宛も無いのにどうするつもりなんだ?」
ドッグが息を上げながら小走りでやって来た。
恐らく、今現在、俺の為に積極的に動けるのは彼だけだろう。
まったく、そう考えるとほとほと奇特な奴だなー。
他人の為に必死になったりしちゃって……
「なあ、ドッグ……」
「ん? なんだいアルル?」
ありがとうな……
そう、声にならない程の言葉と、笑顔を彼に向けて放った。
この言葉が彼に聞こえたかどうか、それはわからないが、彼は俺の後ろを何を言わず着いて来てくれた。
その足音が俺を勇気づける。
また新しい一歩を踏み出す、勇気と力をくれる。
本当にありがとうな、ドッグ……




