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幻想のセラリウス  作者: ふたばみつき
-新たなる旅立ち-
44/95

☆43 旅立ち

 宛の無い旅の始まり。

 “黒の師団”の本部を探す旅の始まり。


 到底、やり遂げる事の出来ない任務かもしれない。

 だけど、これをやらないならば“術式”を奪われてしまう。そうなるのだけは、避けなければならない。


 だから、やるしかない。

 幸い、ドッグは俺について来てくれるみたいだ。


 ドッグに視線を向けると、バツが悪そうに視線を下ろした。まだ、お互いに蟠りが有るんだろう。

 俺もいまいち前みたいな感じで接する事は出来ないでいる。


 心の何処かで彼を許せないでいるんだ。


 ドッグに殴られたのが許せないんじゃない。

 彼に裏切られた様な気がするから、許せないんだ。


 我ながら、女々しい女だ……


 幼い頃の言葉を勝手に覚えてくれていると信じてた。何処かで、ドッグは俺の事を支えてくれると、信じてた。

 それを裏切られた……


 だから、それが堪らなく許せなかった……

 全く、我ながら、本当に女々しい女だ……


 また、前みたいな関係に戻れればいいんだけどな……

 

 だけど、元の関係に戻れなくても。きっと、俺達なら上手くやっていけるはずだ……


 不意に風が吹き抜ける。風が向かう先に視線を向ける。

 ホワイト・ロックの街道が瞳に映る。なぞる様に、道に沿って並ぶ三角屋根を眺める。


 そう言えば、メイちゃんは元気だろうか。

 彼女のお母さんも無事に目が覚めただろうか。

 それだけが心残りだ……


「君が助けた女の子。その母親は無事だ、今朝目覚めたよ……」


 ドッグの言葉に思わず驚く。

 心でも読めるのかコイツは?


「君が後ろ髪を引かれるとしたら、それ位かなと思ってね」

「ははは、良くお分かりで……」


 そうか、それは良かった。

 一目会って、元気な姿を見たかったな。


「会わなくて良いのかい? それ位の時間はあるだろう?」

「いや、いい。俺達は所詮は兵隊だ。彼女達が平穏な日常に早く戻る為にも、非日常的な存在の俺達は関わるべきじゃねーよ」


「そうか……」


 小さく呟くとドッグは歩き出した。

 俺も歩き出す。

 

 空は青く、夏を思わせる強い日差しが目を指す様に飛び込んで来る。


 パウル師範に、孤児院の皆にも最後に挨拶した方が良かっただろうか……

 いや、どうせ湿っぽい別れになるに決まってるんだ。会わない方が良いだろう……


 彼等が、次に俺の名前を聞く時は訃報かも知れないんだ、下手に情を掛けさせたら、要らない負担を掛けちまう。

 こんなもんでいいさ。彼等には、情の欠片も無い女が勝手に死んだ程度に思って貰おう。


 そこら辺にいる野良猫が、勝手に死んだ。

 その程度の認識で良いんだ。


 もし、また出会えたらな、笑顔で会えればそれでいい。


 不意に風が吹く。

 この風は一体、何処に向かって居るのだろうか。


 俺達は一体何処に向かっていて、何処に辿り着くのだろう。

 今の段階で、それはわからない。

 だけれども、その未来が少しでも良い物になる為、俺は歩み続けるしかない。


 その歩み続けた先に、僅かでも希望があることを信じて……

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