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お茶を飲み終わると、リンはリアを釣りに誘った。城の前の湖に二人が来ると、水草の中から無人の小舟が岸に着いた。
「良い釣り場へ案内しましょう」
二人は舟に乗った。舟はゆるりと城から離れ霧のたゆたう湖を渡った。リアは城から離れて、リンのことを心配した。
「大丈夫なのですか、リン。リンは城の中の異空間でしか生きられないのではないですか?」
リンはいたずらをする子どものように、妖しく笑った。
「この空間は広いのです。城から離れた端の空間は、私が付け足して創った空間です。私はいつも城の周りをよく散策しています。“お師匠には”見せますね」
舟はゆるりと進み、岸に着いた。霧深く、そこからは城が見えなかった。リンは岸に座ると、釣り竿を湖に渡し、釣りを始めた。リアは隣に座って見ていた。
「この釣り場には、西大陸の海と繋がっていて、良い釣り場となっています。異界とも繋がっていて、たまに異界からの客人が流れてきたりします。歩くにんじんや、あざらしの子どもだったりです。人の場合が多く、私は城へ案内して客人をもてなし、旅の話を聞きます。迷い人には、できるだけ帰りたい場所へ空間を渡すようにしています。一時滞在する客人は私のことを漁夫王と呼んだりしています」
リアはリンの普段の生活を聞いて、隠棲した大魔術師らしいと思った。風が流れた。霧が和らいだ。リアは何となく静かで落ち着く場所で、心の気疲れを回復させた。
「リンはのんびりと過ごしているのですね」
リンは竿を横に置いた。ぼんやりと気を休めているリアに微笑み、一言告げた。
「リア、眠らないで下さい」
リアは優しく注意する声に、びくりとした。リンはリアを見ていた。真剣な眼差しで、リンは言った。
「ここは庭みたいな場所です。異空間の裾野です。リアルは足の寄せない場所です。リアが城に足を寄せた時は、ここに来ましょう。私たちはここで時を共に過ごし、睦言を語りましょう」
リアはリンの気持ちが伝わり、恋に触れたばかりの時の気持ちになった。リンは新妻を口説いた。
「無理に慣れようとしないで下さい。私は夫として、リアの帰る場所を作ります。リアは無理に距離感を変えることなく、心地の良い距離感で居られるように私に伝えて下さい。それが夫婦です」
リアはリンの気遣いに、心が高揚した。
「ありがとうございます、リン。……僕はまだ、リアルが作った聖杯城に慣れてなくて……」
リアの言葉を遮り、リンはリアの耳たぶに口を触れた。そして耳元でささやいた。
「お師匠、城の中よりこちらの方が落ち着くでしょう?」
赤い目は共犯者を誘うように、笑った。リアは恍惚としながら、伴侶の愛撫で顔を赤く染めた。リアは呟いた。
「僕はまだ、どうしたらいいか、距離を掴めていません。リアルの決断に僕も譲歩したいと思っても、二千年の間に沈みきった心が抵抗します。リンとリアルの距離を考えては、辛くなります。リンが作ってくれた城の居場所は、まだ僕は落ち着かないみたいです」
リンは唇をリアの耳に付けたまま、応えた。
「リアは結婚に政治的な束縛を考えているのでしょう。結婚の形は人それぞれなのですよ、お師匠。互いに繋がりが深くても、一人になりたい時は譲り合うのが、私とリアルの関係です。私はその方が楽なのでしょう。リアルとの信頼は、それが互いに心地良い距離感だからです。リア、私と一緒に秘密を持ちましょう」
リンはリアの首筋に口を付けた。ゆっくりと。リンは優しげな笑みを見せた。
「今日のこの場所の話は、リアルには内緒です。私たちは、この霧の中で心の内を語り合いましょう」
リアは紅潮し、リンの愛情表現に心が蕩けた。
「はい。リンが良いのなら……」
リアとリンは静かな湖畔で睦み合った。




