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リアルは再び台所に戻り、料理を始めた。リンはテーブルにチェスセットを現し、自動的に相手をするチェスで淡々と待ち時間を過ごした。ほどなくして台所に甘い香りが流れ、それは居間へも伝わった。リンは、リアルが城にいる時の、よく作る料理の匂いに幸福感を満たした。時間が経ち、チョコレートケーキが出来上がると、リアルは白い上品な皿に盛り、洋菓子屋から購入した紅茶を淹れて、居間のリンへと運んだ。
リンはテーブルのチェスセットを消すと、きれいに整えられたケーキを前に顔を綻ばせた。銀のフォークで大切に端を切り分け、口にする。甘すぎず、飽きの来ない味だった。
椅子に座ったリアルは一度腕を伸ばして伸びをし、リンに所望した。
「あぁ、休日は短いわね。久しぶりにリンのピアノが聞きたいわ。オキャロランのシーベグシーモアを演奏して」
リンはにこりと笑った。居間に大きな黒いグランドピアノが現れた。ピアノは人が触れずに蓋が開き、演奏を始めた。穏やかな曲だった。リアルは紅茶を喉に流し、演奏を聞きながら、清らかな音色に仕事の疲れを癒やした。
「リンの生演奏は、ネットで聞くのとは違うのよね」
リンはケーキを食べながら、いつもリアルが聴くオキャロランの曲をピアノで流した。静かな空間は二人にとっていつもの時間だった。
リンは食べ終わると礼を言った。
「美味しかったです」
「そう。ありがとう。また違うのを作るから付き合ってね」
リアルは紅茶のカップを口に傾けた。口当たりの良い上品な味がした。この紅茶は、つつじ市の観光スポットにある有名な洋菓子屋に置いてある紅茶だった。リアルは、リンと一緒に店に行けたら良いのに、といつものように思った。そしていつものように、無い物ねだりを自嘲した。リアルは美味しいラーメン屋では出前を頼み、聖杯城で夜にリンと共に食べ、つつじ駅にある唐揚げ屋の美味しい唐揚げをよく買って、城で一緒に味を楽しんでいた。リアルは一人でいることも気が楽だったが、自分の住む異世界で、普通の夫婦のようにリンと一緒にご飯を食べに行くことがしたい時があった。しかし、忙しい仕事で紛らわしていた。無い物ねだりをしない、とさっぱり割り切っていた。




