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星壊のブネリョトル  作者: 百合百合
骨星のドゥパリ
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6.

人とは根本的なものが違う。

私はニルバルという存在を見て、そう思った。虎と対峙すると命の危険を感じるように、その男を一目にした瞬間に、私の肌は泡ぶいた。


「ソラス。お前も来い。」

「い、いやぁ、そんな急に仰られてもなぁ?」

「金は払う。お前がいてくれると助かるんだ。」


ニルバルが、ソラスの肩に手を置く。


「いや今日はですね、初心者に冒険者としての心構えとか、薫陶を与えようとしているのですよ。ほら。」


ソラスが私たちに視線を遣る。それを追うように、ニルバルの視線が此方を見た。そして、目を細めると


「初心者では無いだろう、この者ども。」


ソラスが、軽く舌打ち。


「おい、堂々と舌打ちするな。」

「すいません。ですけど、ほんとに初心者ですよ?ね?」


私は軽く頷く。


「ふむ、そうか。ならば、その二人も共にくればいい。実力は充分だろ。」


そう言って、ニルバルは偉そうに橋へと向かう。ソラスが手を伸ばして、声をかけようとするも、時すでに遅し。


「はぁ。……マジかぁ。」


ソラスは俯いて、しゃがみ込む。


「あのクソ暴君め。これじゃ、青田買いもできねぇ。」

「リーダー。どうします?」

「従うしかねぇだろ。覇者候補。逆らうのは馬鹿だ。」


ため息を吐いて立ち上がると、私達を見て続ける。


「あの方は『空の覇者』と龍巫女様のご子息であるニルバルだ。この世でたった一人のドラゴンと人間のハーフだ。」

「あー、あの星遺物を欲してる人。」

「そうだ。……はぁ、嫌だなぁ。」

「どうして嫌なんですか?」


レヘルちゃんが聞くと、憂鬱そうな顔を浮かべた。


「ややこしいんだ、色々と。」


そう言って、深いため息。私はレヘルちゃんと目を合わせて


「どうする?ブネちゃん。なんかついてこいって言われたけど。」

「言う通りにするしかないでしょ。」


権力者に逆らう気にはならなかった。


「意外だね、ブネちゃんが従う素振りを見せるなんて。」

「素振りじゃなくて、ちゃんと従うよ。弓を引く理由もない。それに人格者そうだ。」


引き連れている冒険者の顔色を見れば、彼らはリラックスしており、ニルバルには見えないところで軽口を叩いている。


「えー、偉そうで嫌い。」

「それは私も。けど、あれは他人の評価はちゃんとするよ。得難いね。」

「二人とも行くぞ。……悪いな、巻き込んで。」

「別にいいですよ、金さえ貰えれば。」


バツの悪そうな顔をするソラスに、私は微笑んで見せる。


「色を付けてくださいね。」

「……あ、あぁ。」


目が泳ぐ様子から、私にどうやら負い目があるらしい。鎌をかけて良かった。だけれども、私は冒険者のとやかくを知らない。本当に色が付くように祈るばかりだ。

ニルバルの準備が終わると、私たちはそのまま反亡橋へと。

一歩踏み出すたびに、足裏の感覚が狂う。通路は広いが、平坦ではなく、真っ直ぐでも無い。ゆるやかに、しかし確実に捻れている。


「これはちょっと。」


隣を向けば、何処までも広がる青い空。眼下には雲海と、雲の切れ端から緑が広がる。高所恐怖症ではなくとも、肝が冷える。

僅かに震える足。その隙を狙うように、風が下から突き上げた。衣服が風を孕んで膨らみ、腹が冷える。


「なかなかの場所だね。」

「ブネちゃん。魔力を足元に溜めて、吸い付くようにすれば安定するよ、ほら。」


レヘルちゃんはそう言って、無作為に歩く。床に吸い付いたように落ちる気配がない。私も倣ってそうすれば、足に吸盤がついたような感覚。ただ、これでは魔力を使い続ける。


「大丈夫かな。魔力切れとか。」

「でも、ブネちゃん。魔力切れになったことないじゃん。」

「だから怖いんだよ。自分のアルコール許容量分からずに、一気する大学生みたいな感じでさ、愚かな感じになってしまう。」

「分かりづらいよ、ブネちゃん。」

「自分の底が分からないから、急に尽きて落ちちゃいそう。」

「最初からそう言ってよ。」

「……ごめんなさい。」


私はぺこりと頭を下げて、上る。前を進む冒険者達が一直線に伸びて、まるで登山でもしているようだ。

二時間で、最初の分岐にたどり着く。先頭を歩く者が地図を確認し、右を選んで進み出す。橋が僅かに欠けて、砂粒が落ちる。


「武器を構えとけ!!」


上から声が降って来た。


「と言われても、私たち手ぶらなんだよね。」


ははっ、とレヘルちゃんと笑うと、ソラスが振り向いて、私たちを白い目で見る。


「……こっからは怪鳥に魔物の巣窟だ。気をつけておけ。これやるよ。」


ソラスは小袋を私たちに一つずつ渡す。


「何ですか?これ。」

「魔力の回復薬だ。知らないのか?粉だから水で飲んでくれ。」

「へー。」


開けて中を見てみると白い粉があった。軽やかなクッキーのみたいな匂いがする。


「サラサラしてますね。」

「人骨だ。人の骨。それをすり潰したもの。」

「……へ、へぇ。」


私はそっと閉まって、懐に仕舞い込む。


「人間の骨に魔力がこもっているんですか?」


レヘルちゃんが凝視しながら聞いた。


「人間の骨以上に安価で魔力を込めれるものは無いからな。血の方がいいが、日持ちしないだろ?」


笑うソラス。私はそっと顔を背ける。


「死体って金になるんですね。それなら、魔物の骨とかもいい値になりそう。いっぱい狩ろうね、ブネちゃん。」  

「……いっぱい狩るのはいいが、無闇矢鱈に骨だけ集めるのは止めろ。魔物の骨は嗜好品扱いになる。卸す人間にギルドからの免許が必要になるから、一長一短だ。捨てる人間が殆ど。魔物は其々で一番金になる部位だけ換金するのがいい。」


ソラスがレヘルちゃんに滔々と語る。


「でも、魔物って此処で狩ったらどうするの?一々戻んの?」


私は背後をチラッと見ながら聞く。


「戻らない。ニルバル様がいるんだ。死体を放っておいても、死体に判子さえしとけば盗む馬鹿はいない。ま、それでも盗む奴は盗むし、他の魔物に食われるんだけどな。」

「最悪じゃん。」

「そんなことはないさ。」


ソラスが笑うと、空から幾つもの影が降って来る。


「……来たぞ。魔物だ。」


腰から双剣を抜いて構えるソラス。その視線の先には、何羽もの怪鳥が。コンドルを大きくしたような図体。その手足は六本で、爪はナイフのように鋭い。羽ばたき一つで風が起きるほどに大きな翼で飛ぶそれらは、私たち目掛けて飛び込んでくる。

迫る嘴からは牙が覗く。


「けど、あんまり強くなさそう。」


私は手を翳すと、その腕にまとわりつくように風が吹き始めて、それはぐるぐると腕の周りを旋回するごとに速度は増していき、やがて掌に一つの小さな台風が渦巻いているようになると、私はそれを怪鳥目掛けて投げつける。


「ギタギタになっちゃうけど、まぁ、いっか。」


小さな台風はゆっくりと大きくなり、瞠目する怪鳥を呑み込むと、血と羽が混ざり始めて、他の二匹の怪鳥すらも巻き込む。

骨が砕ける音と、風が吹き荒れる音。それらは混ざって、小さくなると台風もそれに応じて小さくなって、怪鳥の死体が三つ、空から降ってきた。べちゃっと水気を含んだ嫌な音。怪鳥の骨は歪んでイカれてしまっている。


「うわっ。」


最悪だ。触りたくない死に方をしている。


「……殺しといてその反応はないよ、ブネちゃん。」


私を責めるように見つめる彼女は、ノールックで怪鳥を撃ち落とす。

私たちに迫っていた五匹はいとも簡単に殲滅され、残りは先頭グループを狙った怪鳥達だけになる。かなりの量だ。目測で二十羽はいる。


「これは素晴らしいな。」


ソラスは軽い拍手と共に、私たちを見つめる。ソラスの仲間や、他の冒険者達は蒼ざめて強張った顔をして、私たちを見ていた。


「……弱かったよ?」

「そうだよね、ブネちゃん。」

「確かに降りて来れば弱い。だが、空中から突っ込んでくるあれらは強いし、殺せるだけの魔法を使える魔法使いはあまりいない。文句なしの強者だな。」


何故か恨めしそうに、先頭グループの方を見つめるソラス。


「恐らくだが、ニルバル様に呼ばれるぜ。」

「……そんなに?」

「そんなにだ。ほら、見てみろ先頭を。魔法で戦ってんのなんか数人だ。それに当たってないし、当たっても殺しきれてない。」


前では魔法は飛び交っているが、命中率が低い。


「先頭グループの手柄を奪うからって五匹に止めなくてよかったぞ?」


ソラスがそう言って笑うので、私たちは他の怪鳥を続々と撃ち落とすことにした。すると案の定、前のグループから一人が降りてきて、私たちについて来るように指示した。


「--我の隣を歩け。金は弾む。」

「承知いたしました。」


私は二つ返事で頷いた。すると、ニルバルは私たちの耳を見て呟く。


「……エルフか。では、見た目通りの歳ではないのだろうな。」

「いや、割と見た目通りの年齢ではあると思います。」

「そうか。」


話が途切れる。

私はレヘルちゃんと目を合わせると、苦笑い。沈黙の間が辛い。先ほどの怪鳥の嘴など比にならない鋭さで、私の心を啄む。偉い人が話さないと、レヘルちゃんと雑談していいのかすら分からない。他の冒険者達は、真剣な顔立ちで周りを警戒していて雑談がない。

多少の緩みも必要だと思うのだけども、そんな予断すらない逼迫した危険地帯なのだろうか?此処は。

--そう思っていた。

だが、私たちが率先して怪鳥を撃ち落とすごとに空気は緩み、冒険者達の雑談は増えていく。だが、ニルバルは喋らない。長い髪をはためかせるだけだ。背中はうるさい。


「ニルバル様って、寡黙な感じなんですか?」


私が後ろの冒険者に小声で聞くと、小さく首を横に振って、ニルバル様に目を遣ってから口を開く。


「違う。あの方は女性と喋るのが苦手なんだ。」

「美男なのに?」

「喋らずとも異性には困らない方だ。」

「あー、なるほど。」


地位、金、顔。全てを手に入れた男性に、喋るスキルは要らないらしい。どうしてか、腑が僅かに熱い。

私はニルバルに近寄って、その髪を束ねて持ってみる。


「これぞまさにポニーテール。」


靡いた髪は競走馬の尻尾のよう。レヘルちゃんが、私にジトッとした目を向けて


「零点かなぁ。そのまんま過ぎる。捻りがない。」

「……あ、そう。」


ニルバルはゆっくりと私の方を見ると


「何をしている?」

「茶化してる。」

「何故だ?」

「ニルバル様が静か過ぎるから。」

「それは苛めっ子の思想だ。」

「……あれ、思いの外に庶民の返し。もしかして、冷遇されてた?」

「されてない。……いつまで持っている。」


私はゆっくりと手を離した。


「なんか意外と普通の人だね、ニルバル様って。」


レヘルちゃんが失礼すぎることを、こともな気に突っ込んだ。


「お主らが異常なだけだ。」


吐き捨てるように言うニルバル。


「--ただ、舐めたら殺す。二度はない。」


縦に割れた瞳が、私たちを睨む。氷の刃が心臓を穿ったような殺気。脂汗が額から噴き出て、身体中が汗ばむも、冷蔵庫の中のように寒い。


「分かっていますよ。そもそも舐めてません。リーダーがね、静かですと空気が凝り固まっちゃうでしょう?ですから、こうしてわざとちょっかいを出したんです。」


私はヘラヘラと、適当な言葉を口にする。

ゆっくりと、ニルバルの瞳が私から離れて、ようやく体温が仕事を始める。


「やり方を考えろ。……しかし、我もだんまりなのは悪かった。あまり女子と喋らない故に、距離が掴めない。」

「偉い人なのに?パーティーとか、謁見とかで話さないの?見合いとかもあるでしょ?」

「あまりない。我はそういったのは参加しないからな。」

「それって許されるの?」

「許されるのが覇者の子だ。」


それは偉ぶるとかではなく、ただ淡々と事実のみを語る口調で、声色に変化がない。


「凄い権力。ところで、私達はどこまで行くの?正直に言って、全く分かってないんだけど。星遺物を求めてるってことぐらいしか。」

「それであっている。行けるところまで行き、冒険者が死なぬように無理はしない。危険になれば引き返す。」


空を見上げるも、橋はまだまだ枝分かれし続けて、はるか先は白んでいる。


「……果てなんかあるの?これ。」


私の呟きに答える者はいない。

隣を歩くレヘルちゃんが僅かに眉を顰めて、首を傾げる。


「……星遺物って、どんなの?」 


彼女の問いに、ニルベルは軽く頷く。


「星遺物は、上位者の亡骸だ。魂を失っても、その身体は朽ちることない。そして、装備者に力を与える。」

「装備ってことは、武器とかなんだ。」

「さぁな。亡骸を倒せば分かるらしい。我も詳しくは知らん。」

「知らないのに取りに行くの?」

「覇者を継ぐのに必要だ。……我だけでは、父上を超えられん。」


ギリッと、石臼で擦る音がした。ニルベルの顔は歪み、唇を噛んでいる。その顔には悔しさと、もどかしさが滲んでいた。すると、背後から足音が聞こえた。


「ニルバル様。そろそろ、最初の関門です。」


冒険者の言葉と共に、空気が締まる。鉄と鉄が当たる音があちこちからして、戦闘の準備が始まる。鼻には火薬の匂いがくすぐった。隣のニルバル様も、ようやく腰に据えていた剣を抜いた。その剣は、彼自身ほどの長さがあった。虹色に光る刀身に、柄は驚くほどシンプル。まるで儀礼用のものかと思えるほどだった。


「二人とも、警戒しろ。いつ来るか分からない。」


私とレヘルちゃんは僅かに首を傾げる。今までも、唐突に怪鳥が襲ってきた。今更だと思ってしまう。

ぼんやりとしたままに、空を見上げてみると、果てしなく広い空に、一つの光点がぼんやりと浮かんで来て、それは光を帯びると、ぐんぐんと大きくなって、私たちに近づいて来る。そして、そんなものが二つ、三つと増えていく。

近づくものは、よく見るが、実際には見たことがないもの、見たくはないもの。

私の頬に一筋の汗が。


「--降ってきたぞ!!隕石だッ!!」


唾が混じった怒号。

私は目を見開いて、光点を凝視する。それは熱を帯びて、灼灼たる、ゴツゴツした岩。あんなもの、当たれば即死。私は咄嗟に、殴るように天へと右手を突き上げた。


「吹き帰してやればいいんでしょ!!」


テレビの中で、恐竜たちが倒れていく。

私の周りから、まるで砲台のように一斉に螺旋を描く竜巻が、その軌跡を残しながら、隕石へと直撃する。

一発、二発と隕石に当たっては白煙を立てながら消えていく竜巻。だが、隕石も速度が落ちて、その岩肌が削られ、竜巻が何発か当たる頃には塵となって私たちの頭上に降り注ぐ。


「やるな。」


ニルバルがニヤッと笑って、頼もし気に私を見る。その瞳から、私は目を逸らす。


「けど、まだまだある。」


私たちに迫る幾つもの隕石。二つ目が後方の冒険者に突っ込み、斬撃音がすると、隕石はまるで豆腐のように斬られた。縦横に線が走って、四つに割れる。

そこには、双剣を振り抜いたソラスの姿があった。

冒険者達も手だれが多いのか、隕石をものともせずに対処していくが、いかんせん数が多い。そうこうしてる間に、十は超える量が降って来ていた。

最悪、不特定多数の前で私の奥の手を発動しないといけないかもしれないと思っていると、隣でニルバルが、跳んだ。

何も言わずに、橋から飛び降りた。


「--は?」


自殺?

んな訳ない。

呼吸が止まる。その時、下から羽ばたく音が聞こえた。そして、橋へとせせり上がって来る黒い影。轟音と共に飛び上がる。

目に映るは、一つの影。

大空に羽ばたく--ドラゴン。

その鉤爪には、剣。ぐんぐんと速度を上げて、空を駆ける紅いドラゴンは、一つの赤線となって、隕石群を縫うように飛翔し、その剣で通り様に隕石を斬った。爆音と砂埃。まるで花火が幾つも爆発するように、隕石達が切り刻まれた。

砂埃が消え、開けた空には、ドラゴンが一匹。それは確かに、『空の覇者』と内言する光景だった。

私はゆっくりと指鉄砲を作ると、それをニルバルへと向ける。片目を瞑って


「……いつかね。」


首を軽く左右に振って、だらんと脱力。冒険者達の歓声が、どこか遠くに聞こえた。

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