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星壊のブネリョトル  作者: 百合百合
骨星のドゥパリ
7/12

5(ソラス目線).

--不気味なエルフ。

それが、俺の抱いた感想だった。

凛としたレヘルという少女は普通だが、その隣の黒髪のエルフ。顔は整っているが、まん丸の黒目には光がない。肌は死人のように青白い。それに、纏う雰囲気が暗くて儚い。吹けば飛んでいきそうな程に弱々しいのに、一歩間違えれば俺が殺されるんじゃないかと思うほどに鋭利な殺気を纏っているようにも見える。

ただ、怖い。


「リーダー。初心者を橋まで案内して、死んだら目覚め悪いですよ。……まさか、橋も一緒に入るんですか?」

「そうだ。」

「お守りは無理ですよ。」


ログが眉を顰めて、嫌悪感を隠すことなく言った。


「大丈夫だ、しなくて。」

「それはどうゆう解釈をすればいいので?」

「俺らが助ける必要がない。俺らよりも強いだろうな、あの二人。」

「……それはないでしょう、リーダー。」


ログが背後を歩く二人に目を遣った。


「ガリガリですし、よしんば魔法の扱いに慣れていても他人を殺せる練度にある魔法使いならば、それなりに活躍している。聞いたこともないというのは考え辛いです。」

「俺らの名前を知らなかったんだ。田舎から出て来たんだろう。それにだ、お前はドラゴンに勝てるか?」


ログが目を空に遣る。


「……飛ばないなら。それと、殺していいならですね。ドラゴン相手だ。命の取り合いになります。」

「そうか、ならお前には勝てない。」


ぼんやりと、先ほどギルドで聞いた話を思い出す。エルフがドラゴンを撃ち落としたという馬鹿みたいな話だ。

--まず無理だ。

出力の低い魔法では、ドラゴンの鱗にダメージを与えられない。それに加えて、単純に飛んでいる。そんな獲物を撃ち落とすなんていうのは、どれだけの精度が求められるか、分かったものではない。

だが、何となくだが、背後の彼女はそれをやりそう。顔色一つ変えずにやりそう。

そう思ってしまった。 

勘というものは侮れない。

怪訝な顔をするログの肩を軽く叩いて、グッと寄せて耳打ち。


「……あの二人を利用すれば、マージンが取れるかもしれない。ギルドでは初心者は買い叩かれるだろ?それを補助してやるんだ。差額分の一部を対価として貰おう。」

「リーダーがそこまで言うなら信じますよ、実力を。」

「おーけーだ。」

「信じるついでに提案なのですが、ほんとに俺らを超える実力があるなら、"ニルバル"様に紹介しませんか?必ず活躍します、実力があるなら。俺らはそれを見出したという外聞を手に入れますし、有望な若手が自分もと俺らのチームに来るかもしれない。青田買いができます。」

「いいな、それ。ログは賢いな。」

「リーダーの慧眼を信じての発言です。」


ログはそう言うと、俺に軽く頭を下げて距離を取る。入れ替わるように、通行人の子どもが、俺のことを羨望の眼差しで見ているが視界に入った。

冒険者は、名前の響きと目に見えて自由な風体から羨望の眼差しで見られることも多い。力こそ全て。分かりやすい世界でもあるし、上澄み連中は大金持ちになれる。

現実はさておき、子どもは憧れる。

様々な店が、冒険者の需要に応えるように長持ちする食品や、テントや寝袋を売っている。魔道具だって、店頭に置かれている。だが、魔力で光るランプを売っている店。あれは駄目だ。魔力を消費するとこを履き違えている連中は買うだろうが、ある程度経験を積むと、滅多なことがない限り魔力は、戦闘以外で使わなくなるようになる。

喧騒がうるさくなり始め、苔た連絡塔の前に来る。巨大な入り口は、ドラゴンだって潜れるほどだ。塔を構成する石のブロックは、ドラゴンの爪で傷ついている。


「二人とも。逸れないようにな。」


俺は視線だけを後ろに流して、塔の内部を登る。塔の構造は単純。螺旋のスロープが上まで続いている。道幅は人が六人で並んで歩けるほど、そして内側は空いており、下を見下ろせる。


「……落ちる人いそう。」


ブネと呼ばれている少女が、そう溢した。


「あぁ、たまにいる。」

「なら、なんで空けてるの?」

「ドラゴンの通り道だ。元々は、この塔はドラゴンのものだったが、その昔に空の覇者に願い出て人間が通れるようにしてもらった。」

「ふーん。」


自分から聞いといて、興味をなくしたように壁を撫でて登り始めた。塔は風が吹いて、唸るように鳴る。荷物を載せた荷車を引っ張る商人。同業者の連中は、俺らを見て僅かに目を開いて、顔を凝視する。

塔を登り切り、橋を渡って、上へ上へと。

上れば上るほどに、周りは同業者となっていく。鎧と盾。種族はバラバラで、ドワーフの髭や獣人の抜け毛が、はらりと通路に落ちて、光を反射している。それに混じって、乾いた血が赤黒い。

血の臭いと、生物の臭い。慣れるものではなくて、吐き気を催す臭いは鼻をもいで洗いたくなる。

目的地は近い。


「リーダー。どうやら、今日は豊作らしいっすよ。そこいらで解体してます。」


平気な顔をするボルテージがそう言って、周りを見渡す。魔物の皮を剥ぐナイフ。幅広い通路の左右に寄って、魔物をバラしている。ちらほらと、有名人も混ざっていた。


「……臭いが酷いな。」

「嘘でしょ、リーダー。慣れっこでしょうよ。」

「慣れてない。俺が綺麗好きなの知ってるだろ?」

「そりゃまぁ、装備を毎日綺麗にするくらいだし。冒険者なんて臭い装備を使ってなんぼだと思うんですけどね。」

「臭すぎるのは無理だ。血浴びたら洗うだろ?」

「どうっすかね。俺が前いたパーティーだと二週間に一回くらいでしたね。」

「……考えたくも無いな。」


歩く先には、だんだんと人が溜まり始めて、砂埃が稀に降る通路を抜けると、そこは広げた広場。人がひしめいて、幾つもの声が耳を打つ。


「四層までだ!前衛を雇いたい!」

「火吹鳥の喉笛があるなら、相場の倍出す!!」

「誰か!!怪我人がいるんだ!ヒーラー!!」


熱気が凄まじい。家が十軒ほどしか建てれなそうな土地に数十人の冒険者が集って、そこらに野営のキャンプ地ができている。

エルフの二人は、目の前の冒険者たちではなく、目を見開いて、口を開けて空を仰いでいた。

俺らは首を傾げならがも空を見上げて、苦笑する。

--確かに。

俺らも最初は、空を見上げて呆けてしまったな。


--空へと向かって伸びる一本の道。昇龍はやがて、うねって捻れて、まるで一本の枯れた大木のように、枝分かれしていた。


反亡橋。

俺らも最初は、驚いた。


「……こんなのあった?」


ブネがゆっくりと、橋を指差す。


「この橋は下から見えない。何でかは知らないけどな。」

「ふーん。……ありがとう、お兄さん達。案内してくれて。」


ぺこりと、二人が頭を下げる。俺は仲間に目配せして、人の良さそうな顔をすると「いや、いいって。先達として、狩って換金するまで指南してやるよ。ほら、行こうぜ。」


俺は金蔓が離れないように強引に行こうとすると、周囲が潮が引いたように静まる。ざわつきは消えて、土を踏む音だけが響くようになると、近づく足音が。

マントが旗めく音。

鎧の関節音。

ゆっくりと振り返ると、そこには一人の男が。

冒険者を幾人も引き連れて、俺たちの前にやって来る。

額から脂汗が噴き出て、固まってしまう。


「--ソラス。」


名前を呼ばれて、俺は僅かに後ずさった。低くも威厳のある声は、権力者のそれ。腰まで伸びた長くて艶やかな髪が、風に靡いて揺れる。

切れ長の瞳には、縦筋が一つ。爬虫類の目。

そして、腰から伸びた尾は、鱗がびっしりと生えている。


「……ニルバル様。」


それは人とドラゴンのハーフ。そんなのは一人しかいない。空の覇者のご子息、その人だ。

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